発達障害で空間認識能力が弱い子の特徴とトレーニング法

最近「空間認識能力」という言葉が注目されています。空間認知能力や空間把握能力とも呼ばれており、いずれも空間を正確に認識する能力のことです。

空間認識能力が高いと、スポーツ・芸術・勉強などさまざまな場面での活躍が期待できます。日常生活でも道に迷うことなくスムーズに移動ができたり、事故や怪我から身を守れたりなど、多くの利点につながります。発達障害児では、空間認知能力が弱い、空間把握能力が低いと言われています。

この記事では、空間認識能力とは一体どのような能力なのか、この能力を高めるには具体的にどのような方法があるのか、気になる発達障害との関連性なども解説していきます。

また、放課後等デイサービス「こどもプラス」の教室で提供している空間認識能力を高める運動遊びもあわせてご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

空間認識能力とは

空間認識能力とは

空間認識能力とは、物の位置、形状、大きさ、方向や位置関係を正確に認識する能力です。

空間の中で、人や物がどのような状態にあるかを正しく理解できる力で、知能検査の問題にも出題されるほど、子どもの成長においては重要な力です。

空間認識能力は成長発達において欠かせない力

知能検査とは、子どもの知能や発達の水準を知るための検査です。その子の発達の特徴、能力の凹凸などがわかります。この知能検査の項目に空間認識能力があるということは、この能力が子どもの発達を測る知能の1つであり、成長発達において欠かせない力であることがわかります。

また、知能の1つであるということは、学校の教科学習を構成する要素にもなっていることを意味します。つまり、空間認識能力は学校の成績にも関係するのです。詳しくは、「子どもの空間認識能力を高めるメリット」で後述します。

空間認識能力は勝手には身に付かない

子どもの成長に欠かせない空間認識能力ですが、何もしないで勝手に身に付く力ではなく、机に向かって勉強をすることで身に付く力でもありません。子ども自身が、日常の遊びや家庭でのお手伝い、アウトドアなどの経験の中で実体験を通して身につけていく力です。

子ども達の中には、この空間認識能力が生まれつき弱い子もいます。空間認識能力が弱いと、日常生活の中でどのような困り事があるのでしょうか。

空間認識能力が低い人の4つの特徴とよくある困難

空間認識能力の弱さによる4つの困難

空間認識能力が弱い、空間把握能力が低い人の特徴を説明します。また、特徴によりどういった困難が生じやすいのか代表的なものを4つ挙げます。

  1. 文字の読み書きが難しい
  2. 地図や図形の理解が難しい
  3. スポーツ全般の能力アップが難しい
  4. 片付け・整理が難しい

どれも学校、家庭、運動、遊びなど日常のあらゆる場面で支障をきたすもので、子ども達の生活の中ではさまざまな困り事につながっています。それぞれの具体的な症状とその理由を見ていきましょう。

文字の読み書きが難しい

空間認識力が弱いと、目から入ってきた情報を処理して空間の全体的なイメージを掴むことが苦手になります。そのため、文字の形を正確に記憶・再生することが難しく、文字の読み書きが困難です。

学校では、教科書に書かれた文章をスラスラと音読できず、ノートを取ることや漢字テスト、英語の単語テストを回答することも苦手になります。

地図や図形の理解が難しい

目の前にはない物を頭の中で正確にイメージしたり、全体像を捉えたりすることが苦手です。そのため、地図を見て自分の位置や進む方向を理解することや算数で図形問題を解くことなどが困難です。

日常生活で迷子になることは珍しくありません。また工作が苦手、料理の際に野菜の切り方がわからないなどの生活面での困り事にもつながります。

スポーツ全般の能力アップが難しい

スポーツの中でも、特に球技での苦手が顕著になります。サッカー、バレーボール、バスケットボールなどの球技では、ボールと相手の位置、ネットやゴールの位置などを常に把握しながら動かなければいけません。

また、飛んでくるボールの位置を正確に判断してタイミングをあわせる必要もあり、高い空間認識能力が球技には求められます。そのため、空間認識能力が低いとスポーツでの活躍が難しくなります。

スポーツの苦手を克服する方法は以下の記事も参考にしてみてください。

関連記事:運動が苦手なアスペルガー症候群でも遊びながら改善!運動音痴の問題と克服方法

片付け・整理が難しい

物の大きさに対して、適切な収納の大きさなどが正確にイメージできないので、どこに何を入れれば良いのか、その場所にすべて入りきるのかなどがわかりません。片付けた後の全体像のイメージも難しいため、散らかった部屋をどう片付ければ良いのかがわからず、片付けや整理整頓が苦手になります。

関連記事:ADHDで片付けられない5つの理由と苦手を克服する方法

発達障害(ADHD・LD)と空間認識能力の関係性

ADHD・LDなど発達障害と空間認識能力の関係性

空間認識能力の弱さは、発達障害の有無に関わらずどんな人にもあり得ることですが、ADHDやLDなど発達障害の特性の1つとしても挙げられます。

実際、発達障害の子ども達の中には、ほかの人に比べて空間認識能力が弱い子が多く、生活全般で困難さを抱えてしまう場合があります。

発達障害で空間認識能力が弱いと、実際にどういった困り事があるのでしょうか。2つのポイントからお伝えします。

特性との重なりで困り事が倍増する

発達障害があると、社会性やコミュニケーション能力、想像力、注意力などに偏りが生じます。この偏りは、病気などではなく個々人の特性です。

特性の種類、それによって現れる症状やその程度、感じる困り事などは多岐に渡り、人によっても異なります。特性の1つとして空間認識能力の弱さも持ちあわせていると、困り事はその分増します。

例えば、

  • 体幹の弱さや発達性協調運動障害などで運動の苦手さがあり、さらに球技が難しくなる
  • ADHDの気が散りやすい特性で片付けが苦手だが、さらに整理整頓や収納などもうまくできない
  • 時間など目に見えないものの理解が難しいが、自分の体のボディイメージや目的地までの道順などのイメージも困難になる
  • LDで計算問題が苦手だが、さらに図形問題も苦手になる

発達障害の特性による困り事は、本人の努力や頑張りだけでは解決できません。周囲が適切に支援をしなければ生き辛さは増大していく一方なので、早い段階での対応が重要です。

職業選択時の障壁になる

発達障害を持つ人たちが自分の特性を活かしながら働くのに向いている職業には、プログラマー・ゲームクリエイター・アニメーター・デザイナーなどクリエイティブ系の仕事がよく挙げられます。

これらの職業は、コミュニケーションの苦手さやルーティンワークの得意さなど発達障害のさまざまな特性にマッチする部分があります。しかし、中には空間認識能力が弱いと、就業が難しいものもあります。

例えば、ゲームクリエイターやアニメーターは、パソコンの中で建物や人物などの3次元モデルを使って、作品を制作します。ゲームやアニメのキャラクターの動きをイメージしながら、よりリアルに表現できるように作っていくためには、高い空間認識能力が必要です。

クリエイティブ系の仕事では、平面を立体にしたり、実際に目の前にない物をイメージしたりしながら作業することが多いので、空間認識能力が弱いと仕事の遂行に支障がでる場合があります。

将来の職業選択の幅を狭めないためにも、力を育てやすい子どものうちに空間認識能力をしっかりと育て、子ども達が持っている才能を最大限に伸ばし発揮できるようなサポートが大切です。

子どもの空間認識能力を高めるメリット

子どもの空間認識能力を高めるメリット

子どもの空間認識能力を高めることによって得られるメリットは、日常生活の中で多くあります。以下に代表的な例を挙げてみます。

  • 文字の読み書きがスムーズになる
  • 算数の図形問題が解けるようになる
  • 地図が読めるので迷子にならずに目的地に着ける
  • 道を聞かれたときに紙に地図を書いて説明できる
  • 工作が得意になる
  • 絵が上手になる
  • スポーツ(特に球技)がうまくできるようになる
  • 部屋の片付けや整理ができるようになる

空間認識能力を高めることは、思っているよりも多くのメリットにつながることがわかります。

では、なぜ子どもの時期に力を育てることが良いのでしょうか。

脳の発達は小学生までが勝負

子どもの発達は、身長や体重、脳、各器官や機能がすべて同時に発達していくのではなく、各々のペースで発達するようになっています。その発達の時期をグラフにしたものが、「スキャモンの発育・発達曲線」です。

下のグラフを見ると、子どもの脳の神経系の発達は4〜5歳頃までにおよそ80%進み、12歳には100%に達すると言われています。

Scammonスキャモンの発育型

(引用:女性アスリート指導者のためのハンドブック「発育・発達について」|国立スポーツ科学センター

「ゴールデンエイジ」や「プレゴールデンエイジ」という言葉もあるように、脳の神経系の発達が人生で最も活発なこの時期に、空間認識能力を含め脳のあらゆる機能を高める活動をしておくと、脳の力も身につきやすく効果的です。

学力向上につながる

空間認識能力が高まることによって、学校の教科学習では全体的に成績アップにつながる可能性があります。各教科でどんな影響があるのか、具体的に見ていきましょう。

国語・・・音読が上達し、漢字テストも得意になる

算数・・・図形の理解が進み問題が解けるようになる

理科・・・天文や気象が理解できるようになる

社会・・・地形の理解が進み、地図の読み取りもできるようになる

体育・・・球技が上達し、身のこなしもスムーズになる

効果はこれだけではありません。空間認識能力は、物事を俯瞰で見て総合的に考える思考力や臨機応変に考えられる柔軟さにもつながるので、分野にかかわらず全体的な能力向上につながると考えられます。

身の安全が守れる

自分と物との位置が素早く正確にわかれば、身の安全を守ることにつながります。

例えば、道路を横断しようとしているときに向こうから走ってくる車の位置や速度を考えて動くことができるので、車にぶつからずに安全に渡ることができます。

逆に運転をする側でも、歩行者や対向車、障害物と自分の車との位置関係や距離感が正確に把握できるので、事故のリスクを大幅に減らすことにつながります。

生活が充実する

空間認識能力を高めることで、以下のような子ども達の今後の充実した生活につながる力が多く身につけられます。

  • スポーツや芸術の分野で才能が発揮できる
  • 自動車の運転の上達や、地図が読めることで知らない土地でもスムーズな移動ができる
  • 就きたい仕事に就ける可能性が広がる

子ども達が将来の夢や希望を叶え、安定し自立した生活を送るためにも欠かせない能力です。

空間認識能力を鍛えるトレーニング

空間認識能力を高めるトレーニング

空間認識能力を高めるにはいろいろな方法がありますが、子どもの場合はとくに遊びの中で行うことが最も重要で効果的です。

近年の療育において注目されてきているビジョントレーニングと、身近な遊びの中でトレーニングになる遊びをいくつかご紹介します。

ビジョントレーニング

ビジョントレーニングとは、視力以外の目で見る機能を育てるトレーニングです。目で物を見るときの働きには、入力・情報処理・出力の3つの種類があります。

  • 入力(眼球運動)・・物にピントをあわせて映像として捉える働き
  • 情報処理(視空間認知)・・見た物の形や位置を認識する働き
  • 出力(目と体の協応)・・認識された情報にあわせて体を動かす働き

物を正確に見るためには、視力だけでなくこの3つの働きが揃うことが必要なので、どれか1つでも欠けるとうまく見ることができません。

そこで、見る力を育てるためにビジョントレーニングを行います。私たち「こどもプラス」の教室でも取り入れている遊びをご紹介します。

ナンバータッチ

指示された数字を目で追ったり手でタッチしたりする遊びです。いろいろな遊び方があるので、ここでは3つご紹介します。

  1. ボードに赤・青・黄などで色分けをした1〜10までの数字を書いておきます。ボードの前に立ち、「赤の1から10まで」と言われたら体や顔を動かさずに目だけで数字を順番に追います。
  2. ボードに色や大きさの違う数字をランダムに書きます。「青の3」などと指示された数字を素早く見つけ、手でタッチします。
  3. ボードに1〜20までの数字をランダムに書き、1から順番にタッチしていきます。

何秒でできるか競争にすると盛り上がり、社会性や時間の感覚なども身につきます。数字の位置を高くしたり低くしたりすると、しゃがむ・ジャンプなどの動作をする必要があるので運動量が増え、脚力や体幹などが鍛えられます。

ほかにもアレンジ方法はたくさんあります。文字や形の要素を加えたり、簡単なリズムにあわせて行うのもおすすめです。個々の育てたい力にあわせながら、子ども達が楽しめるような工夫をたくさんしてみてください。

大きさや方向を示す声かけがコツ

特別な道具や教材を使ったり、トレーニングをしようと意気込まなくても、普段の生活での声かけ1つでもトレーニングができます。

例えば、

・「コップをあっちの棚にしまって」→「コップを一番奥の棚の、下から2段目の青い茶碗の隣にしまって」と言い換える。

・料理のお手伝いのときに「ピーマンをこの向きで切ったらどんな形になるかな?」と聞いてから実際に切ってみる。

・旅行の準備をするときに、荷物を広げて「この鞄に全部入るかな?」と聞いてからやってみる。

このように、大きさや形、方向、位置などを指示や問いかけの中に盛り込むことで、自然と意識することができて、空間認識能力の発達につながるのでおすすめです。

「こどもプラス」の教室で使用しているビジョントレーニングをInstagramの公式アカウントでまとめています。ぜひ併せてご覧になってください。

身近な遊びでも空間認知能力を鍛えられる

子ども達が普段から行なっている遊びの中にも、空間認識能力を高めるのに最適な遊びがあります。中でもおすすめの遊びを5つご紹介します。

  • 折り紙
  • ブロック
  • パズル
  • 3Dゲーム
  • 鬼ごっこ

家庭での一人遊びや親子遊び、友達と一緒にできる遊びもあります。最近はそれぞれにいろいろな種類の物があるので、飽きずに楽しめるでしょう。

折り紙

折り紙は、平面から立体を作り出す遊びです。完成図を想像しながら形や折る向き、角度などを考えて作るので、とても空間認識能力を刺激します。また、手先を細かく使うので指先の巧緻性も高まり、子ども達にはとてもおすすめの遊びです。

 

 

 

 

 

ブロック

ブロックは、複数のブロックを組み合わせて立体物を作る遊びです。例えば、立方体を作るにはどの形のブロックをいくつ、どんな風に組み合わせたらできるのかがわかったり、またその展開図も見ることができます。まさに図形問題の基礎になる力なので、小さいうちから実体験として触れておくのがおすすめです。

 

 

 

 

 

パズル

パズルも、完成形を想像しながら進めていく遊びです。1つ1つのピースの色合いや形を見て、逆さまにしたり回転させたりしながら合う場所を探して作り上げていくので、空間認識能力がとても養われます。物によって難易度調整も簡単なので、長く遊べる遊びです。

 

 

 

 

 

3Dゲーム

本来は、山のぼりなど大自然の中で遊ぶことがおすすめです。山あり谷ありの地形、不安定な足場やいろいろな形・大きさの植物や石などに実際に触れることができるので、空間認識能力を養うためには最適です。しかし、現代の環境では難しいことも多いので、そんなときは3Dゲームも良い方法です。今のゲームはとても進化しているので、自然の中で遊ぶ擬似体験やゲームの中で建築物を作る体験もできます。ゲームだと、子どもも興味を持ちやすいかもしれません。

 

 

 

 

 

 

鬼ごっこ

鬼ごっこは、鬼に捕まらないように鬼と自分との位置関係を常に意識する遊びです。

ほかの友達や周りの障害物にも意識を向けて逃げます。逃げるときは、どのタイミングでどの方向に、どれくらいの速さでどこまで逃げれば鬼に捕まらないかを常に考えながら動くことが求められます。

常に全体を把握して動くスキルが必要になるので、空間認識能力を育てるのには最もおすすめの遊びです。

こどもプラスが運営するInstagramの公式アカウントで、鬼ごっこをバリエーション豊富に紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。

発達障害で空間認知能力が低い子どもには運動遊びがおすすめ

発達障害で空間認知能力が低い子どもには、療育活動に遊びを取り入れた運動遊びがおすすめです。

たち放課後等デイサービスの教室「こどもプラス」が提供している運動遊びの中にも空間認識能力を養える遊びは豊富にあります。

その中から「スキップで記憶遊び」をご紹介します。

<遊び方>

  1. 跳び箱・鉄棒・コーン・平均台・フープなどを間隔を空けて並べ、コースを作ります。
  2. このコースを端から順番に回るのではなく、指導者の指示した遊具だけを使って、指示されたとおりにコースを回って戻ってきます。
  3. 例えば「クマさん歩きでフープの道を渡って、鉄棒でコウモリをしたら、平均台の下をくぐって、カンガルージャンプで戻ってきましょう」などの指示を出して行います。
  4. 最初は言葉での説明だけでなく、実際に見本を見せながら説明します。難易度は子どもにあわせて調整し、簡単すぎたり難しすぎたりしないようにすることで効果的に力の発達を促していきましょう。

筋力や体力などの運動によって身に付く力だけでなく、コースを覚える記憶力、全体を見通して動くことで空間認識能力もしっかり養われる遊びです。

空間認知能力を鍛えられる運動遊びをもっと知りたい方は、こちらの療育プログラムも参考にしてみてください!

生きる力を育てるこどもプラスの運動療育

こどもプラスの運動療育では、子ども達の生きる力を育てることを大事にしています。生きる力とは、基礎体力や基礎筋力のある健康で動ける体、社会性・コミュニケーション能力・集中力・判断力・記憶力・思考力・想像力・創造力などの生きていくために必要な能力です。

空間認識能力もその1つです。子どものうちにこれらの力を身につけておくことが、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。

そしてこれらは、子ども自身が日常生活での経験や体験、遊びの中で身につけていくものです。しかし、現代の環境では遊ぶ場所や遊ぶ時間がなくて経験しにくいことも多いので、私たちは運動遊びという形で発達を促しています。

子ども達が本来持っている力を最大限に引き出し、将来につながる力になるようにサポートをしていくのがこどもプラスの運動療育です。

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