発達障害で会話のキャッチボールができない子の特徴と上達のコツ
子どもに話が伝わらない・子どもの言いたいことがわからなくて会話が続かない、と発達障害の特性がある子どもと会話のキャッチボールができず悩んでいる方は少なくありません。
会話が成り立たない状態にはいろいろなパターンがあります。
発達障害の子どもとの会話の例として
- 「今日ね、あのね、」から話が続けられない
- 「先週から隣のクラスに新しい先生が来たって聞いたけど、どんな先生だった?」など長くて抽象的な質問には答えられない
- 「どこから来たの?」と聞いても「どこから来たの?」とこちらの言葉を繰り返す
- 「今日友達とぶつかって転んだよ」→「怪我したの?大丈夫?」→「給食にゼリーが出ておいしかったよ」→「怪我は?」→「休み時間に逆上がりができたよ」など話が噛み合わない
これらは、会話のキャッチボールができていない状態です。
日常会話がうまくできないと家庭や学校で困る事が起こるだけでなく、将来大人になって社会に出てからも人間関係の構築で支障が出ます。他人との雑談や会話に困りがちで、場合によってはコミュニケーションがうまくできず仕事でのトラブルにも発展しかねません。
できるだけ早い段階で会話のスキルを身につけておくことは、子ども達の生きる力になり豊かな人生のためにも欠かせない土台になります。
この記事では、発達障害で会話のキャッチボールができない・苦手になる理由や上達する方法をお伝えします。
会話のキャッチボールとは
会話は、よくキャッチボールに例えられます。キャッチボールは、相手にボールを投げて、相手のボールをキャッチすることの繰り返しです。
キャッチボールをするときには、相手が取りやすいボールを投げること、相手のボールの軌道を考えてしっかりキャッチすることを意識しています。会話もこれと同じです。
- 「相手が取りやすいボールを投げる」→「相手が理解しやすい言葉や話し方をする」
- 「相手のボールをキャッチする」→「相手の話の意図を汲み取って要点を理解する」
この作業がうまくできなければ、自分の話が伝わらず、相手の言いたいことが理解できないので会話は成立しません。
会話はコミュニケーションの基本
コミュニケーションの方法は1つではありません。言葉を使った会話、メールや手紙のほかに、ジェスチャーや視線などの表情だけでもコミュニケーションは取れます。
その中でも、基本になるのは言葉を使った会話によるコミュニケーションです。ジェスチャーや表情は、会話の中で話の意図をわかりやすくするための補助としても使われます。
どのコミュニケーション方法もしっかりと身につけておくことが、スムーズな会話をするためには欠かせません。
では、会話が苦手になるのはどのような子ども達で、なぜキャッチボールが難しくなるのでしょうか。
なぜ発達障害だと会話のキャッチボールができない子が多いのか?
発達障害の子どもに見られる会話のキャッチボールができない問題を、ASD・ADHD・LDの特性ごとに見ていきましょう。「人の話を聞かない」「話を理解してもらえない」「周りの空気が読めない」など、コミュニケーションが成立しにくい問題を紐解きます。
そもそも人との会話は、脳を活発に働かせる必要があるとても高度な行動です。
会話をするときには、以下の5つを素早く繰り返し行う必要があります。
<会話に必要な行動>
- これから話す内容を頭の中でまとめる
- 口や舌を動かして、1の内容を実際に言葉にして話す
- 相手の反応を見て、どんな気持ちか確認する
- 相手の話を聞いて要点を理解する
- 相手の話の内容を覚えておいて、適切な返答を考える
専門的な話になりますが、言葉を発する機能をブローカ中枢、話し言葉を聞いて理解するための機能をウェルニッケ中枢と言います。ただし、言語を理解するには、大脳基底核や小脳、さらには扁桃体、大脳基底核も関係していると考えられます。
つまり会話は単純なものではなく、大規模で複雑なネットワークが形成され、成立するものです。
スムーズな会話をするためには、これだけ多くのことを脳で瞬時に行わなければいけません。生まれつき脳機能の発達に凸凹や未熟さがある発達障害では、これらの作業が難しく会話のキャッチボールがうまくできない場合があります。
代表的な3つの発達障害で、それぞれどのような特性がありなぜ会話が苦手になってしまうのかを解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)の場合
ASDでは、特性として社会性とコミュニケーションの困難があります。そのため、相手の話に耳を傾けたり、相手の表情や声のトーンから感情を読んだり、言葉の裏にある意図を汲み取ることが苦手と言われています。。
相手が自分に話しかけていることにすら気付かず、比喩や冗談、皮肉などの抽象的な表現も伝わりづらく、言葉の通りに受け取ってしまうことも珍しくありません。また、相手の立場に立って考えることが難しいので、どう言えば相手がわかりやすいか、これを言ったら相手がどう思うかなどの想像ができない人もいます。
つまり、伝えることも聞くことも苦手なので、会話のキャッチボールが困難になります。ASDの人と話すと、表情の変化が乏しく、話し方に抑揚がないと感じることがあるかもしれません。
<ASDによく見られる会話事例>
- 比喩や冗談がわからない
「びっくりして目が飛び出ちゃった」→「え!大丈夫?」
「バカだなー」→「僕ってバカなんだ…」
- 相手の立場に立てない
「この服似合う?」→「小さくて変だよ」
「このクッキー食べる?」→「クッキーは食べません。おやつはポテトチップスを食べます。ポテトチップスはじゃがいもからできています。じゃがいもの種類は…」
関連記事:会話が噛み合わない原因はアスペルガー症候群?その特徴と改善法を解説
ADHD(注意欠如/多動性障害)の場合
ADHDでは、衝動性が強く抑えられない特性があります。
その特性によって、考えるよりも先に行動してしまうので、場の雰囲気やこれを言ったら相手がどう思うかなどを考えずに思ったことをそのまま口に出してしまう傾向があります。場の雰囲気や相手の気持ちが想像できないわけではなく、衝動が抑えられないのです。
さらに、相手の返事を待たずに自分の話ばかりをしてしまうので、人の話を聞けないと思られがちです。またADHDの人は話が飛びやすく、相手からの質問に答えられないこともあり、他人とのスムーズな会話が成り立ちにくくなります。
ADHDの人と話すと、話が噛み合わないと印象を抱くかもしれません。雑談をしても、話題が飛んで話が広がらないこともあります。。
<ADHDによく見られる会話事例>
- 考えるより先に言葉にしてしまう
「今度ここ行ってみたいね」→「楽しくなさそうだね」
- 自分が話したいことばかり話す
「このゲーム知ってる?」→「知ってる!最初の場面で出てきた敵が強くて時間かかったよ。いつもはすぐ勝てるんだけどな。それからこんな場面になって…」
- 思いついた先から口に出るので話が飛ぶ
「今日どんなことして遊んだの?」→「お庭でブランコして、飛行機がきて、逆上がりができたよ!」
- 今話していたことをすぐ忘れてしまう
「さっき話した約束のことだけど…」→「なんのこと?」
関連記事:発達障害では年齢と共に人間関係の悩みが大きくなり支援が必要です。
LD(学習障害)の場合
LDでは、「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算・推論する」の能力のうち特定の能力に困難が見られます。「話す」能力に困難があることで会話が難しくなります。物事を順序立てて話すのが苦手で、話が飛ぶことが多くなります。また、助詞がうまく使えないなど、話し方にも特徴が見られます。
「聞く」能力は相手の話を聞いて理解する力で、話すことと密接に関わりがあります。相手の話を集中して聞くことが苦手で、聞き間違いや聞き取れないことも多いため、スムーズな会話が困難になります。
<LDによく見られる会話事例>
- 順序立てて話せない
「今日給食がカレーでおかわりしたんだけど、走って教室に戻ったら先生に怒られちゃった。体育の授業あったからお腹空いてたんだ」
- 助詞がうまく使えない
「そのペン、友達にもらったの?」→「〇〇ちゃんにくれたよ」
- 話が聞き取りにくい
「今日は午後から天気が悪いから公園に行くのをやめて図書館にしよう」→「午後公園に行くの?」
関連記事:LDでは話を聞いて理解したり覚えておくのが苦手なことがあります。
発達障害で会話のキャッチボールができない子の特徴
発達障害の特性が会話の苦手さにつながっていることをお伝えしましたが、会話のキャッチボールができない発達障害の子には、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。
代表的な特徴は、5つあります。
- 一方的に話してしまう
- 話が飛ぶ
- 言いたいことが伝わらない
- 相手の話の内容が覚えられない
- 話の内容が理解できない
この5つがそれぞれどんな状態なのか、解説していきます。
一方的に話してしまう
相手の立場に立って考えることが難しく、話したい衝動が抑えられないことで、自分が言いたいことだけを言って相手の話を聞かずに終了させてしまったり、説明や前置きをせずに急に話を始めたりすることがあります。
相手の反応に気を配れないので、相手が話の内容を理解していなかったり、不快に思ったりしていても、気付かずに話し続けたりする傾向があります。
関連記事:ASDの子どもは独り言が多い?ずっと喋っている3つの理由とうるさい時の対処法
話が飛ぶ
衝動性が強い子どもは、話がどんどん飛んでしまいます。なぜなら、話している途中でも、目に入ってきたもののことを話し始めたり、頭の中に話したいことが次から次と浮かんできて、それをそのまま口に出したりするためです。
話が脱線しやすく本人もそもそも何の話をしていたのかわからなくなってしまうことがあります。
言いたいことが伝わらない
発達障害を持つ子ども達では、自分と人は違う考えや感覚を持つ別の人間である「自他の区別」がつきにくいことがあります。
「自他の区別」がつきにくいことで、相手がわかっている前提で話をしてしまいます。自分が考えていることは、言わなければ相手に伝わらないということがわからないためです。そのため、話が噛み合わなかったり、言いたいことがうまく伝わらなかったりして、会話のキャッチボールが成立しません。
また、相手の立場に立てないことで、相手がわかりやすい言葉や表現を使うという配慮が難しく、内容が伝わりにくいこともあります。
相手の話の内容が覚えられない
会話をするときは、相手が話した内容を一時的に記憶に留めておき、それに対する適切な返答を考えて言葉にする必要があります。しかし、発達障害の特性で短期記憶に弱さがある場合は、相手が話した内容を記憶しておくことが困難です。
聞いているうちに話を忘れてしまうので、ちぐはぐな回答をする、聞かれたことに答えられないなどのことが起こります。
話の内容が理解できない
理解力の弱さがある場合もありますが、それ以外にも複数の要因が挙げられます。上述したように短期記憶に苦手さがある場合は、一度に複数の情報を伝えられると混乱してわからなくなってしまいます。言っていることは理解できても、言われた端から忘れてしまうのです。
こだわりが強い特性があると、話の中で1つのことだけに思考が集中してしまい、その後の話が頭に入ってこなくなってしまうことがあります。例えば、自分が好きな車の話が出たら、そこから頭の中は車のことしか考えられなくなってしまいます。
また、発達障害の子に多いのが「耳からの情報を理解するのが苦手」という特性です。耳から入ってくる情報は聞き取りにくく、理解するのも苦手です。
周りに雑音があると、すべての音が同じ音量で聞こえてしまい、相手の声だけを拾うということができないので何を言っているのかわかりません。
話が長いと、どこに注意を向けて聞けば良いのか途中でわからなくなってしまい、要点が伝わりません。
関連記事:自分の思い・気持ちを伝えられない|発達障害による苦手を克服する方法
苦手な会話のキャッチボールを克服する3つの方法
ここまで、会話のキャッチボールが苦手になる理由をみてきました。ここからは、苦手を克服する方法を紹介していきます。
会話のキャッチボールも、普通のキャッチボールと同じように繰り返し練習をすることが上達につながります。練習をする際には、3つのコツがあります。
<会話のキャッチボールが上達する3つのコツ>
- 1対1でトレーニング
- 相手の理解度を会話の節々で確認する
- 話すときも聞くときも要件は1つに絞る
日頃からこの3つを意識して行うと、少しずつ会話のキャッチボールができるようになってきます。
①1対1でトレーニング
会話のキャッチボールの練習をするときは、身近な大人が相手になるのがおすすめです。放課後等デイサービスのような療育施設の先生や、家庭で練習するときはお母さんやお父さんが良いでしょう。
初めのうちは、子どもが投げてきたボールが明後日の方向に飛んでいっても、それに慣れている人なら何とかキャッチしてあげることができて、そこから子どもがキャッチしやすい位置や速さで投げ返してあげることができる人が相手の方が、ステップアップしていきやすいからです。
好きや興味を話題に選ぶのがポイント
会話の練習をするときには、子どもが興味があること、好きなことや楽しいことを話題にすると話が弾みやすく練習がはかどりやすいでしょう。
例えば、給食のこと、今ハマっているゲームのこと、好きな漫画のことなど、子どもが話したいと思える内容を選ぶのがポイントです。
興味を持って話を聞くのがポイント
子どもが「話したい!」「聞いてほしい!」という気持ちになるようにすることが大切です。言い間違いがあっても、話を遮ったり、先回りして結論を出してしまったりしないようにしましょう。どんな話でも、興味を持って気持ちに寄り添いながら聞いてあげることで子どもも話しやすくなります。
ただ、練習なので改善点を伝えてあげることも必要です。
タイミングを見ながら、子どもが一方的に話したり話が飛んでしまう場合には、「〇〇のことよく知らないから教えて」や「鬼ごっこをしてたら友達がつまづいて転んだんだっけ?」などと適度に説明を促したり話を戻してあげるようにします。
表現力や語彙力が未熟で話が伝わりにくいときには、「そのときは嫌な気持ちだった?」や「友達ができて嬉しかったんだね」などと補足し、どんな風に話せば伝わりやすいのか教えてあげることで次に繋げていきましょう。
②相手の理解度を話の節々で確認する
自分が話しているときに、途中で相手にちゃんと伝わっているかどうか確認の言葉を入れてみましょう。相手が話についてこれていないのに一方的に話を続けても、相手に伝わらないだけでなくお互いに不快になるだけです。
話の節々で、「ここまでで何かわからないところある?」などと話したことが伝わっているかどうか確認してみると、つまづきポイントがわかるので話がスムーズになります。
③話すときも聞くときも要件は1つに絞る
一回の会話で、要件を1つに絞るのがおすすめです。
人と会話をすることに苦手意識があると、どうしても話しかけるのをためらってしまい、聞きたいことが溜まってからまとめて話そうとしてしまいます。そうすると、話す側も聞く側もいくつものことを覚えておかなければならず、抜けてしまったりわからなくなってしまったりすることが出てきます。
それを防ぐために、話したいことは一回の会話で1つに絞って話すこと、相手の話を聞くときは、話の意図を明確にして1つずつ話すようにしてもらうことが良い方法です。
会話・コミュニケーションのことをもっと学びたい方はこちらの記事も参考にしてただけます。 |
会話のキャッチボールをトレーニングできる「大繩の走り抜け」
会話のキャッチボールのトレーニングは、体を動かして遊ぶ運動遊びでもできます。運動遊びの中では友達や指導者とのやりとりもあり、自然にコミュニケーション能力の向上が目指せます。
今回は、放課後等デイサービスの教室を運営する「こどもプラス」が提供している運動遊びの中から、「大縄の走り抜け」をご紹介します。
<遊び方>
- 指導者は、大縄を一定のリズムで回します。
- 子どもは、回っている縄の中にタイミングよく入って一気に走り抜けます。
この遊びで最も重要な力は、リズム感です。縄が回るタイミングと自分が走り出すタイミングをうまく合わせる力が必要です。タイミングがわかりにくい場合は、声かけや合図を出して教えてあげてください。
タイミングは取れていても、怖くなって途中で止まってしまうことがあります。止まると縄に当たってしまうので、走り出したら一気に走り抜けるように見本を見せながら伝えましょう。また、上手な子と2人で手をつないで行うと成功体験が積めて自信がつきます。
慣れてきたら、3人で手をつないでやってみましょう。友達を意識しながら、走り出すタイミングや走るスピードを合わせて動く必要があるので、社会性や協調性が養われます。
ほかにも、走り抜ける方向を斜めにする、通るポイントを決めて行うなどいろいろなアレンジができます。子ども達の発達段階に合わせて楽しく遊びを提供してみてください。
<大縄跳びの関連記事>
こどもプラスのInstagramでも大繩とびを紹介しています。動画付きで解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
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発達障害で会話が続かないなら「こどもプラス」の運動療育がおすすめ
会話などのコミュニケーション能力と運動遊びは、一見関係がないように思えるかもしれませんが、実はとても深い関わりがあります。
運動遊びを始めるとき、指導者が子ども達に説明をします。子ども達は指導者に注意を向けて話を聞き、わからないところを質問したり、友達と教え合ったりすることで社会性やコミュニケーション能力が育まれます。
ときには、チーム分けをしてチームごとに作戦会議をして、役割分担をして行うような遊びもあります。自分の意見を主張しながらも相手の意見も聞き入れて意見を戦わせるなど、より高度な会話のやりとりを通してコミュニケーションスキルを高めます。
運動遊びで体を鍛えるだけではなく、生きていくために必要なスキルを遊びの中で着実に身につけていけるように導いていくのが「こどもプラス」の脳科学に基づいた運動療育です。
こどもプラスでは、子ども達が将来社会の中で自立し、充実した豊かな生活を送ることができるように、今身につけるべき力を見極めながら日々の関わりを大切にしています。
全国に190教室を展開しています。ご興味のある方はぜひ最寄りの教室までお問い合わせください。