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発達障害・アスペルガーによる白黒思考とは?認知の歪みの問題点と対策

発達障害の子どもに多い白黒思考の問題点と対策 発達障害

誰にでも、勘違いや思い込みでイライラしたり、物事を悪い方にばかり考えたりして、必要以上に落ち込んでしまうことはあるものです。

しかし、これが度を過ぎてしまうと「認知の歪み」がある状態と言えるかもしれません。

認知とは、物事の捉え方や受け止め方のことです。認知が歪むと、無自覚に偏った考え方をしてしまいます。その結果、物事を悪い方にばかり考えてイライラや不安、悲観的になるなどネガティブな状態に陥ってしまいます。

認知の歪みには、10個のパターンがあると言われています。

<認知の歪み10パターン>

  1. 全か無かの思考
  2. 行き過ぎた一般
  3. 心のフィルター
  4. マイナス思考
  5. 論理の飛躍
  6. 拡大(過小)解釈
  7. 感情の理由付け(決め付け)
  8. 「〜すべき思考」
  9. レッテル貼り
  10. 誤った自己責任化(個人化)

(参照:デビッド・D・バーンズ 『いやな気分よ、さようなら : 自分で学ぶ「抑うつ」克服法』(2版)星和書店9、2004年4月

今回の記事では、認知の歪み10パターンの中から「全か無かの思考」をテーマにします。

全か無かの思考は、白黒思考とも呼ばれています。発達障害(とくにアスペルガー症候群)の特性があると、白黒思考に陥りがちです。そこで発達障害ならではの白黒思考の特徴や問題点、対策を詳しく解説します。

発達障害に見られる白黒思考とは

白黒思考とは

発達障害に見られる白黒思考を解説します。

物事は、常に白か黒かはっきりしているわけではありません。グレーな部分が必ずあります。

多くの人は、はっきりしないグレーな状態を受け入れられますが、中にはあいまいな状態が理解できず、はっきりしないことに対して不安や憤りを感じる人がいます。その場合、グレーを無視して白か黒のどちらかしかないと考えます。

この極端な考え方を、「白黒思考」と呼びます。

0か100の極端な思考

白黒思考の特性を持つ人は、物事を白か黒か、0か100か、善か悪か、好きか嫌いかという極端な思考をします。見方によっては、納得感を大事にしていて考えの軸がブレない人とも言えますが、実生活では融通がきかなくて思い込みが激しい人と思われてしまう傾向があります。

ASD(アスペルガー症候群)に多い思考のクセ

白黒思考・0か100か思考など認知の歪みの生じやすさは、発達障害とも深く関連していると言われています。

発達障害の1つであるASD(アスペルガー症候群、自閉スペクトラム症)では、外の世界に関心が薄く、物事を主観的に捉える傾向があります。

そのため、客観的な事実を二の次にして自分の価値観や想像だけで物事を捉えがちです。事実と自分の思考のズレが生じることが、よく起こります。極端な思い込みは、ASDの人の特徴の1つです。

ASDの思考を学びたい方には、こちらの記事も参考にしてみてください。

では、この白黒思考が日常生活にどのような影響を与えるのでしょうか。

発達障害の白黒思考で困る3つのこと

白黒思考で困る3つのこと

極端な思考である白黒思考を日常的にしてしまうと、多くの困り事や生き辛さにつながりやすくなります。発達障害の子どもが抱える困り事の中で代表的なものが、以下の3つです。

  1. 完璧主義になりやすい
  2. 対人関係でトラブルになりやすい
  3. マイナス感情の処理が難しい

それぞれどんな状態なのか、詳しく解説していきます。

①完璧主義になりやすい

勉強でも遊びでも、すべてにおいて完璧でなければ気が済みません。

完璧であることを自分にも他人にも求めるので、自分のダメな部分ばかりに目を向けて自分を責めたり、周囲の人にも不満を感じやすくなります。

また、完璧でなければ意味がないと考えるので、少しでもつまづくと途端に意欲を失ってしまいます。

例えば、テストの問題はすべて分かりたいから空白にすることはできないし、1カ所でもできなければすべてがダメだと思い込み、ひどく落ち込んだりパニックを起こしたりすることもあります。

しかし、世の中はいつもうまくいくことばかりではありません。その度に自分を責めて落ち込んだりイライラしていては、体も心も持ちません。

②対人関係でトラブルになりやすい

偏った思考によって物事の捉え方や受け止め方が歪んでしまうと、勝手な思い込みから負のループに陥りやすくなります。

例えば、友達が2人で笑いながら話しているのを見て「自分をバカにしているに違いない」などと勝手に悪い方向に考えて、イライラしたりネガティブな気持ちになってしまったりすることがあります。

こうした思い違いや思い込みが多いため、友達とトラブルになりやすく人間関係の構築も難しくなりがちです。

関連記事:発達障害での人間関係のトラブルは年齢ごとに増えてくるので早めの対応が必要です。

③マイナス感情の処理が難しい

一度思い込むと自分の考えを変えることが難しい特性のため、一人で悩みを抱え込んでしまい、なかなか気持ちを切り替えられません。

「あの時こうすればよかった」「本当はこうなるはずだったのに」などといつまでも思い悩み、ストレスが高い状態が続いてしまいます。

後悔や反省は誰にでも思い当たるようなことですが、度を過ぎてしまうと、日々の暮らしや人生の満足度が上がらず、生き辛くなってしまいます。場合によっては、うつ病をはじめ精神障害に陥る可能性もあります。

白黒思考チェックリスト

白黒思考チェックリスト

白黒思考を簡単にチェックできるリストを用意しました。自動思考という言葉の通り、無意識のうちに自動的に行われるものなので、なかなか自分では歪みに気付きにくいものです。

自分やお子さんが白黒思考かな?と思ったら、参考までにセルフチェックしてみてください。

 

<白黒思考チェックリスト>

□1カ所でもうまくいかないとすべてがダメだと思う

□失敗しそうだと思ったら途中でもやめてしまう

□一度失敗したら二度とやらない

□テストの解答は1問解くごとに正解か確認しなければいられない

□テストは100点でなければ意味がない

□物事を勝ち負けだけで評価する

□人は良い人or悪い人のどちらかだけだ

□少し注意されただけで相手に嫌われたと思ってしまう

 

いかがでしたか?

チェックがついた数が多ければ、白黒思考の傾向があるかもしれません。この思考のクセによって生き辛さを感じている場合は、早期に修正してあげることが必要です。

自分を知ることの必要性

日常生活の中で感じている困り事や生き辛さを改善していくためには、まずは自分の持つ特性をよく知ることが大事です。自分が持っている特性が分かれば、困り事の原因の解明につながります。

原因が分かれば、どう工夫すれば辛さを回避できるのか、ストレスなくスムーズな生活が送れるのかなど、具体的な対応策を考えられます。

つまり、困り事の改善や生き辛さ軽減のための第一歩は「自分をよく知ること」です。

発達障害で白黒思考になる理由

白黒思考になる理由

白黒思考のような極端な思考は、今まで経験してきたことや育ってきた環境などから培われる考え方の土台になる部分の歪みから起こります。

(参考:ベックの抑うつ理論:抑うつの認知理論|東京大学総合総合文化研究科 丹野義彦

これは発達障害も密接に関わっており、発達障害が白黒思考の1つの原因として挙げられます。

(参考:松浦直己『教室でできる気になる子への認知行動療法』)中央法規出版、2018年10月

白黒思考は、上述したように発達障害のASDの人に多く見られます。ASDの特性の中でも「あいまいな物事が苦手」「こだわりの強さ」「マルチタスクが苦手」という3つの特性が、それぞれ白黒思考になりやすいと言われています。

その理由を見ていきましょう。

①あいまいな物事が苦手

ASDの人は想像力が乏しいため、あいまいな物事を理解することが苦手ではっきりしないことに対してひどく不安になります。その不安を解消するために、白黒はっきりさせて明確に答えを出そうとします。

関連記事:自閉症児への指示は端的に具体的にはっきりと行ないます。

②こだわりの強さ

ASDの症状として、特定の物事への執着やこだわりが強く、柔軟な思考が困難です。その特性が、「これしかダメ」「〇〇でなければいけない」といった極端な思考につながります。

③マルチタスクが苦手

ASDの人は、一度に複数のことに注意を向けるマルチタスクが苦手です。そこで、「0か100か」「好きか嫌いか」という二択の思考にすれば注意を向ける対象が絞れるので、極端な思考のクセがついてしまいます。

関連記事:マルチタスクが苦手!発達障害で二つのことを同時にできない理由と対処法

白黒思考を誘発する3つの原因

白黒思考を誘発する3要素

白黒思考は脳の特性による思考のクセと言えるので、特定の状況だけで起こるわけではなく、常にその傾向があります。ただ、特に陥りやすくなってしまう環境や要素があります。

以下の3つは、白黒思考を誘発する原因になるので、できれば避けたいものです。

  1. 得意または不得意なこと
  2. 過敏な感覚への刺激
  3. 心身の疲労

これらに当てはまる要素が多いほど、白黒思考に陥りやすくなります。

なぜこの3つが白黒思考を誘発するのでしょうか。

①得意または不得意なこと

得意なことや不得意なことは、良い意味でも悪い意味でも関心が強いために、自分の価値観や感覚だけに偏って捉えてしまいやすくなります。得意なことや不得意なことに関わるときは、それを知っておくだけでも白黒思考に縛られることを回避できるかもしれません。

関連記事:発達障がい(ASD)の興味の偏りを克服し強みに変える方法

②過敏な感覚への刺激

発達障害を持つ人は、感覚(視覚・味覚・嗅覚・聴覚・触覚)に過敏さや鈍麻といった偏りがある場合があります。そのため、苦手な感覚への刺激が続くと耐えられないほどの苦痛やストレスを感じます。その辛さから逃れるために、白か黒という極端な選択肢で早く問題を済まそうとする傾向があります。

関連記事:ASDでの感覚過敏はかなりのストレスなので、周囲の配慮が大切です。

③心身の疲労

心身が疲れているときは、誰しも思考力や判断力が鈍ります。また、ストレス状態で気持ちのコントロールも難しくなります。疲労困憊で辛い状況から、とにかく早く逃れようと極端な思考になりがちです。

発達障害の白黒思考を改善するためのヒント

白黒思考を改善するためのヒント

発達障害の白黒思考による困り事や辛さは、うつなどほかの精神疾患につながる可能性もあり、できるだけ早く解決したいものです。

しかし、思考は個々の経験や知識に基づいて行われるもので、脳の特性とも関連していれば修正は簡単ではありません。ただ、意識的に別の考え方をしてみる習慣を付けることで、改善も見込めます。

では、別の考え方をしてみるときのヒントを3つお伝えします。

ワンクッションおいて気持ちを整理

思考は、物事や起きたことに対して無意識のうちに行なってしまうものです。感情を爆発しそうになる手前で、気持ちを落ち着けて客観的に考え直してみることが大切です。

例えば、友達に送ったメールの返信がない場合に「自分のことが嫌いになったから返信が来ないんだ」という思考が生まれ、そこから怒りや悲しみの感情が出てきます。

イライラしたり落ち込んだりする前に一度冷静になって「もしかしたら忙しくて返信ができないのかもしれない」と、別の側面から解釈してみようとすることは有効な方法です。

結果だけにフォーカスしない

うまくいかなかったとき、「失敗した自分はダメな人間だ」「自分だけがうまくできない」と結果だけを見て必要以上に自分を責めてしまうのが白黒思考です。

そこで、結果だけにフォーカスを当てず、以下のような行動をすると、失敗しても見え方が変わってきます。

  • 「いつもと違う環境だったから」「他の友達も何人もできていなかったから」など周囲の状況にも目を向ける
  • 「たくさん間違えたけど、新しい漢字が覚えられた」「一緒に練習する友達ができた」など良かったところを見つける

プロセスにも価値を見出し、楽しめるようになっていきます。

関連記事:失敗を恐れる自閉症児には間違いを指摘せず修正することが大切です。

自分を認める

必要以上に自分を責める必要はないと頭ではわかっていても、知らないうちにやってしまいがちです。それに気付いたら、今の自分をありのまま受け入れるだけでも改善への足がかりになります。

「自分はいつも考えすぎてしまう性格だから、今日はあと5分だけこれについて考えよう」などルールを決めて、気持ちを切り替えられるように、工夫してみるのもおすすめです。

いずれにしても子ども一人では難しいことなので、大人が一緒に考えながら良い方向に導いてあげることが大切です。

発達障害による白黒思考の改善方法をもっと知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください!

こどもプラスの運動遊び「アヒルの音聞き」の紹介

私たち「こどもプラス」の教室で提供している運動遊びの中から、気持ちの切り替え力や柔軟な思考を養う「アヒルの音聞き」をご紹介します。

<遊び方>

  1. 足を横に開いてしゃがみます。
  2. 手は口とお尻の位置にそれぞれくっつけて、アヒルのくちばしとしっぽに見立てます。
  3. 指導者が叩くタンバリンの音にあわせて「1,2,1,2」と歩きます。
  4. 途中でタンバリンの音が止まったら、動きをピタッと止めます。
  5. タンバリンの音が鳴りはじめたら、また歩いて行きます。
  6. これを繰り返して遊びます。

 

 

アヒル歩きは、今の子ども達が苦手なことが多い股関節を開く動作を行える、おすすめの遊びです。また、足の指先の力など主に下半身や体幹の筋力が育つので、バランス力の向上が期待できます。

タンバリンの音にあわせて動き、音が止まったら動きを止めるという動作で抑制力や集中力、切り替え力が養われます。切り替え力は柔軟な思考につながるので、遊びの中で時間をかけながら、無理なく育てていくことが良い対処の仕方です。

発達障害によるネガティブ思考を克服するなら「こどもプラス」の運動療育

運動が脳を活性化するということは今や周知の事実です。運動によって脳が活性化されると、記憶力が高まったり頭がすっきりして良いアイデアが浮かんだりと良い影響が多くありますが、自律神経が整う効果もあります。

自律神経が整うと、ネガティブな思考からポジティブな思考へと変わってきます。今回のテーマである白黒思考の改善にも効果が期待できると考えられます。子どもの時期にたくさん体を動かして脳に良い刺激を与え、動ける体と社会の中で生き抜く力を育てていくのが、私たち「こどもプラス」の運動療育です。

こどもプラスでは、子ども達が将来社会の中で自立し、充実した豊かな生活を送ることができるように、今身につけるべき力を見極めながら日々の関わりを大切にしています。

全国に190教室を展開しています。ご興味のある方はぜひ最寄りの教室までお問い合わせください。