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自閉症の子どもが急な予定変更でパニックになる原因と3つの対処法

自閉症スペクトラム

自閉症(自閉スペクトラム症)の子どもは、急な予定変更でパニックになります。

学校行事や外出予定の変更を、お子様にどうやって伝えるべきかお悩みの保護者様もいらっしゃるでしょう。

予定変更で起きるパニックには、発達障がいの特性が影響しています。この記事ではパニックに陥る原因と、おすすめの対処法を3つ説明します。

お子様の不安やストレスを取り除き、安心できる環境づくりをしましょう。

  1. 1.急な予定変更でパニックを起こす自閉症(ASD)の子ども
    1. 1-1.運動会や遠足の雨天順延を受け入れられない
    2. 1-2.通学経路が変わるだけで学校に行けない
  2. 2.自閉症だと大人でも急な予定変更でパニックになる
    1. 2-1.自分で対処するからこそ困難を実感する
    2. 2-2.急な予定変更でイライラし仕事が手につかない
  3. 3.急な予定変更の苦手を生む発達障がい(ASD)の2つの特性
    1. 3-1.自閉スペクトラム症(ASD)とは
    2. 3-2.特性①こだわりが強く特定の行動を繰り返す
    3. 3-3.特性②推測やイメージが困難で見通しが立てられない
  4. 4.自閉スペクトラム症(ASD)の特性が生まれる理由
    1. 4-1.こだわりの強さは目から入る情報量が少ないため
    2. 4-2.情報処理に経験を活用しないため予測が苦手
      1. <国立障害者リハビリテーション研究所の実験>
  5. 5.急な予定変更で自閉症の子どもをパニックにしない3つの対処法
    1. 5-1.対処法①変更の可能性をあらかじめ伝える
    2. 5-2.対処法②見通しをわかりやすく指示する
      1. 5-2-1.小さな子どもには図やイラストを利用する
    3. 5-3.対処法③予定は変更されるものと認識させ慣れさせる
  6. 6.急な予定変更によるストレスも取り除く運動療育
    1. 6-1.発達障がいにも有効な運動療育とは
  7. 6-2.推測する力や臨機応変な行動が身につく
    1. 6-3.こどもプラスの運動療育「亀コースター」
  8. さいごに

1.急な予定変更でパニックを起こす自閉症(ASD)の子ども

急な予定変更でパニックを起こす自閉症(ASD)の子ども

自閉症(自閉スペクトラム症)の子どもは、急な予定変更が苦手です。

日常生活でも困難を感じる場面が多々あります。よく見られるケースを2つ紹介します。

お子様の不安やストレスの原因を確認しましょう。

1-1.運動会や遠足の雨天順延を受け入れられない

運動会や遠足の雨天順延を受け入れられない園や学校生活でありがちなのが、行事の順延です。

運動会や遠足などの外行事は、天候に左右されます。自閉症の子どもは、急な変更を受け入れられず、極度にイライラしたり、大声で泣き叫んだりすることがあります。

自閉症の子どもにとって、普段の授業と異なる行事は、努力を要する非日常です。開催日に向け、心の準備をして順応させます。

何日も前から自分に言い聞かせた行動指針が、急な変更で一気に崩れ去ります。現実を受け入れられず、パニックになるのです。

1-2.通学経路が変わるだけで学校に行けない

通学経路が変わるだけで学校に行けない急な変更は突発的に発生することもあります。たとえば工事でいつもの通学路が塞がれ、迂回せざるを得ない場合です。

自閉症の子どもは、無理に突破しようとするか、立ち止まったまま途方に暮れるでしょう。

決まった行動から外れると、咄嗟の判断ができません。なにをして良いかわからなくなります。

道を歩くことは慣れた習慣の一つです。突然習慣を崩されることに耐えられないのです。

迂回して学校に行く気分になれず、家に戻ってしまうかもしれません、

2.自閉症だと大人でも急な予定変更でパニックになる

予定変更に対する苦手は、子どもだけの特徴ではありません。大人でもパニックになることがあります。

大人の場合、予定変更に適応できないと、仕事の困難に結びつきます。職務を遂行できなければ、失職する恐れもあります。早めに対策しなければなりません。

よくある2つのケースを紹介します。

2-1.自分で対処するからこそ困難を実感する

大人は急な予定変更に一人で対処しなければなりません。強い怒りでパニックになっても、周りは手を差し伸べてくれないでしょう。

自分で行動を管理することで、強い困難を感じます。

仕事はすべてがルーティンで進むわけではありません。臨機応変な対応を迫られることが多くあります。障がい特性への理解がない職場では、苦労の連続でしょう。

2-2.急な予定変更でイライラし仕事が手につかない

自閉症の人は、普段の行動を遮られることに怒りがちです。

手順にこだわっている仕事、プライドを持って臨んでいる仕事ほど、急な予定変更が許容できないでしょう。

予定変更があった日は、一日中イライラしてしまい、周囲を驚かせるかもしれません。仕事のパフォーマンスも低下し、普段ならできる仕事も満足にこなせないでしょう。

3.急な予定変更の苦手を生む発達障がい(ASD)の2つの特性

急な予定変更の苦手を生む発達障がい(ASD)の2つの特性急な予定変更の苦手を生む発達障がい(ASD)の基本と、具体的な2つの特性を紹介します。

  • こだわりが強く特定の行動を繰り返す
  • 推測やイメージが困難で見通しが立てられない

自閉症(自閉スペクトラム症)の人が急な予定変更に対応できないのは、障がい特性が大きく影響しています。しっかりと特性を理解しましょう。

3-1.自閉スペクトラム症(ASD)とは

自閉症は、アスペルガー症候群、広汎性発達障がいと症状の多くが重なります。現在は呼び方が統合され、「自閉スペクトラム症(ASD)」と称されています。

自閉スペクトラム症(ASD)は、主に遺伝的な要因で起こる脳機能障がいです。独特の感性やこだわりの強さ、対人関係の困難に特徴があります。

幼少期から症状が現れやすく、日常生活でしばしば困難に直面します。

<自閉スペクトラム症(ASD)の特徴>

  • 人との適切な距離がわからず、人間関係の構築が困難
  • 想像力が乏しく、場の空気を読めない
  • こだわりが強く、特定の行動を繰り返す
  • 感覚が過敏、または極端に鈍い
  • 運動が苦手

有効な治療法は確立されておらず、対症療法が中心です。自閉スペクトラム症(ASD)の特性を理解し、特性にあった環境を整える必要があります。

3-2.特性①こだわりが強く特定の行動を繰り返す

ASDの人が急な変更を苦手にする理由の一つは、こだわりの強い特性です。

さまざまな物事にマイルールを適用し、「いつもの行動」をASDの人はしたがります。

新たな挑戦や、変化のある物事は好みません。いつもの行動を、いつもと同じようにおこなうことにこだわります。

急な予定変更があると、こだわりを貫徹できません。いつもと違うことが苦痛でたまらないのです。

こだわりの強さは、発達早期から現れます。遊ぶおもちゃや遊び方に強いこだわりがあり、やめさせると癇癪を起こす子どももいます。

周囲がこだわりを認識し、急な変更が起きないよう配慮する必要があります。

関連記事:発達障害でのこだわりには柔軟な対応が必要です。

3-3.特性②推測やイメージが困難で見通しが立てられない

ASDには、想像力が乏しい特性もあります。

急な予定変更では、これから起こることをイメージし、推測する力が必要です。

ASDの人は予定変更後の流れが想定しづらく、自分の行動を決めるのも難しいかもしれません。見通しが立たず、ただ不安が募るのです。

とくに子どもは大きな不安を抱えます。予定変更にさらされた経験が少ないからです。大人なら経験から予測がつく物事も、子どもにはできません。

わかりやすく見通しを示し、不安の除去に努めるのは、周りの大人の役目です。

関連記事:ASDでは他者だけでなく自分の感情も認識しにくい場合があります

4.自閉スペクトラム症(ASD)の特性が生まれる理由

自閉スペクトラム症(ASD)の特性が生まれる理由ASDのこだわりの強さや想像力の乏しさは、近年の研究で原因が究明されています。

4-1.こだわりの強さは目から入る情報量が少ないため

ASDの人は目から入る情報量が少ないため、認識できるものに強くこだわります。

理化学研究所によると、ASD者のこだわりの強さを生むのは、視覚意識の過剰な安定性です。

<視覚意識の過剰な安定性とは?>

私たちは目に写ったものを、脳内の神経活動により認識しています。神経活動によって作られたイメージが、視覚意識です。

ものを認識する神経活動が活発におこなわれないと、作られる視覚意識も少なくなります。

視覚意識が安定した状態になることは、目から入る情報量が少ないこととイコールです。

ASDの人には感覚が鈍麻な特性(※注)があります。視覚の鈍麻により、捉えられる視覚情報量が少ないことで、認識している物事に固執しがちなのです。

※注)感覚鈍麻とは逆に、感覚が過敏な特性もあります。

(参照:自閉症のこだわりの強さと感覚症状に共通の神経基盤 | 理化学研究所

(参照:「意識」はいつ生まれるのか | Yumenavi(大阪大学教員による講義))

4-2.情報処理に経験を活用しないため予測が苦手

ASDの人が物事の推測に困難を感じるのは、情報処理に経験が活用されないためです。

私たちは体の感覚から、さまざまな情報を受け取っています。情報は脳で処理され、脳が身体に必要な命令を送ります。

今までに経験したことがある情報は、記憶として脳内に蓄積されています。

新たな感覚を感じても、脳内の記憶と適合すれば、「これは〇〇だ」と素早く認識し、必要な行動ができます。

突然の予定変更でも、経験から予測を立て、行動できるのです。

<国立障害者リハビリテーション研究所の実験>

国立障害者リハビリテーション研究所がおこなった実験によれば、ASDの人は、感覚信号の処理に事前の経験をあまり使わない傾向があります。

なにか感覚を捉えても、経験から情報が引っ張り出されません。脳は新たな感覚として捉えます。

突然の予定変更が起きても、事前の経験則を活かせません。初めての経験と同じ状態です。

大きな不安に駆られても無理はないでしょう。

(参照:発達障害者の感覚・知覚の特徴(2)予測・推定の障害 | 国立障害者リハビリテーションセンター研究所

5.急な予定変更で自閉症の子どもをパニックにしない3つの対処法

急な予定変更で自閉症の子どもをパニックにしない3つの対処法ASDの特性から、急な予定変更でパニックにならない対処法を考えましょう。

対策は3つにわかれます。

  1. 事前に行う対策
  2. 予定変更が起きてしまったときにおこなう対策
  3. 予定変更を経験した後の対策

①で不安を消すことが大切ですが、実際には想定外の予定変更も起こります。②や③を身につけることも大切です。

5-1.対処法①変更の可能性をあらかじめ伝える

予定変更の可能性は、あらかじめお子様に伝えておきましょう。

予定変更が起こらないよう努力しても、100%防ぐことはできません。天候の不順や事故、災害など、予測できないことも起こり得えます。

予定変更がないよう留意しつつも、変更があり得ることを伝えます。

変更後のプランは、できるだけ詳細を示しましょう。自閉症の子どもは、予測できないことに不安を抱くからです。

あらかじめ詳細が理解できていれば、変更があっても不安に駆られません。

5-2.対処法②見通しをわかりやすく指示する

急な予定変更が起きてしまったときは、お子様を落ち着かせます。

変更後の見通しと、お子様が取るべき行動を丁寧に説明しましょう。

自閉症の子どもが不安になるのは、見通しが立てられないからです。取るべき行動がわかれば、予定が変わっても対応できます。

一点注意したいのは、こだわりを遮られる不快感は残り続けることです。予定どおりの行動ができない悔しさで、お子様は怒ったり、喚いたりするかもしれません。

見通しを示すと同時に、お子様に共感することも大切です。

 

「お父さん、お母さんも本当は予定どおりに行動したいんだよ。でも〇〇の理由で、予定変更しなくちゃいけない」

と丁寧に説明します。

 

親の真摯な気持ちを感じれば、お子様の気持ちも収まるでしょう。

5-2-1.小さな子どもには図やイラストを利用する

未就学児や小学校低学年のお子様には、計画変更を言葉で説明しても伝わりません。お子様がわかるよう、図やイラストを使いながら説明します。

大切なのは、これから取るべき行動が、お子様にはっきりと伝わることです。図やイラストを使い、身振り手振りも交えながら説明すると良いでしょう。

5-3.対処法③予定は変更されるものと認識させ慣れさせる

急な予定変更を体験したお子様には、変更に慣れさせることも重要です。

 

「予定は変更されるもので、今回のようなことは今後もあり得る」

と繰り返し教えます。

 

「予定は変更されるもの」という認識ができれば、行事に対する考え方も変わります。予定変更時の対応も考え、心の準備を進めるようになります。

 

学校行事なら、中止時の行動も同時に意識する癖がつくでしょう。

あらかじめ心の準備ができていれば、急な予定変更も受け入れやすくなるでしょう。

考慮したいのは、想像するのが苦手な特性を自閉症の子どもが持っていることです。

予定の変更が起こり得ると理解できても、変更時の行動まではイメージできない可能性があります。

 

予定の詳細がわかり次第、変更時の対応まで含め、丁寧にお子様にお伝えください。想像の余地を少しでも減らすことが大切です。

6.急な予定変更によるストレスも取り除く運動療育

急な予定変更によるストレスも取り除く運動療育障がいのある子どもへの、医学的・教育的支援を療育と言います。療育は、お子様の苦手克服と、心身の育成に役立ちます。

急な予定変更に困難を抱えるお子様におすすめしたいのが、運動療育です。

運動療育は遊びながら軽い運動をおこなう療育方法です。さまざまな運動をとおし、推測する力や臨機応変に対応する力が身につきます。

6-1.発達障がいにも有効な運動療育とは

運動療育は発達障がいの子どもに有効です。

運動は脳を活性化させ、覚醒させる効果があります。

発達障がいは脳の機能障がいです。脳を活性化させる運動は、発達障がいの子どもの脳も覚醒させます。

弊社の独自実験でも、運動をおこなった後は、子ども達の脳が覚醒し、集中力が増すことが明らかになりました。

遊びの範囲で楽しみながら、子ども達の力を引き出します。

6-2.推測する力や臨機応変な行動が身につく

私たち「こどもプラス」も、児童発達支援(未就学児向け)、放課後等デイサービス(小学生〜高校生)で、運動療育を提供しています。

多彩なメニューの中には、予測や判断力を促進するものもあります。

「予測じゃんけん」では、子ども達に出す手を予測してもらいます。指導者はいくつかのヒントで、子どもが予測しやすい状況をつくり出します。

子どもは予測にもとづき出す手を判断します。

勝つ手ではなく、あえて負ける手を出してもらうことで、遊びの難易度が上がります。予測する力や咄嗟の判断力が鍛えられます。

「走り幅跳び」も効果的です。

踏み切る位置の予測を立てて動かなければ、うまくジャンプできません。走りながら微調整する判断力も必要です。

急な変更が苦手なお子様も、運動療育なら楽しく遊びながら克服できる可能性があります。

「こどもプラス」のInstagramアカウントでも、療育プログラムを紹介しています。わかりやすい解説付きなので、ぜひ参考にしてください。

<関連記事>

判断力や抑制力を育てる「予測じゃんけん」

事前に動きを予測する力をつける「走り幅跳び」です

6-3.こどもプラスの運動療育「亀コースター」

「こどもプラス」の運動療育を詳しく知っていただくため、教室で実施しているプログラムのご紹介です。

今回は「亀コースター」を取り上げます。

<亀コースターの6STEP>

  1. 子ども達は2人一組になります。1人は亀役で、もう1人は亀を引っ張る役です。
  2. 亀はうつ伏せになり、足がお尻に着く程度まで両足を曲げます。
  3. 足を曲げたら上半身を起こしましょう。引っ張り役の両手を掴み、引っ張ってもらいます。
  4. 引っ張り役は後ろ向きに歩きます。亀役の手をしっかり握り、勢いよく引っ張らないよう注意しましょう。
  5. 亀役は腕に力を入れます。上半身をしっかり持ち上げると、うまく引っ張ってもらえるでしょう
  6. 円滑に進むには、2人の息を合わせることが大切です。お互いに相手をよく見て対応しましょう。慣れるまでは指導者が引っ張り役を担うのも良いでしょう。

亀コースターは、社会性と想像力を培うのに役立ちます。自分だけでなく、相手の立場も想像し、行動する必要があるからです。

身体の成長にも良い影響を与えます。遊んでいるうちに、腕の引きつける力や握力を伸ばせるでしょう。

亀役は上半身を持ち上げるため、背筋を中心とした筋力が、引っ張り役は足の指先の踏ん張り力や、腹筋背筋が鍛えられます。

さいごに

自閉症の子どもが予定変更でパニックにならないためには、変更後の行動を明確に示すことが大切です。不安要素がなくなれば、子どもは安心します。

自閉症をはじめ発達障がいには、さまざまな特性があります。周りの大人が特性を知り、行動すれば、子ども達の困難を減らせるでしょう。

私たち「こどもプラス」も児童福祉の専門機関として、保護者様を支えます。お子様の困難を減らすために尽力してまいります。

全国に190教室を展開しています。ご興味がある保護者様は、各教室までお気軽にお問いあわせください。