発達障害で嫌な記憶がフラッシュバックする人の特徴と対処法
突然過去の嫌な記憶を思い出して頭の中がいっぱいになり、その当時の心身状態に陥ってしまうことをフラッシュバックと言います。
発達障害を持つ人は、フラッシュバックを起こしやすい傾向にあります。
それは、発達障害の特性による苦手の多さ、白黒思考、感覚過敏、対人不安の強さなどからトラウマが起きやすいことが関係しています。また、ASD(自閉スペクトラム症)の人の特徴的な記憶の仕方も影響を及ぼしています。
フラッシュバックが起きるのは「発達障害の特性によるものだから仕方ない」と放置しないようにしましょう。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症にもつながりかねません。悪化するとさらなる二次障害の発症や日常生活の困難、将来の進学や就職の際の妨げになる可能性があります。
フラッシュバックを防ぐために、嫌なことを思い出さないように気をつけたり、気持ちや考えを切り替えたりする方法はあります。しかし多くの場合、自分だけでは対処が難しく、早い段階で適切な対処法を身につけることが大切です。
この記事では、運動療育のプロで放デイの教室を運営する「こどもプラス」の視点から、達障害の特性によるフラッシュバックとの向き合い方をお伝えしていきます。
嫌な記憶がフラッシュバックする原因や予防法、今すぐできる対処法も紹介しますので、嫌な思い出から楽になるためにお役立てください。
フラッシュバックとは
フラッシュバックとは、過去のショックな出来事が何かのきっかけで突然鮮明に蘇り、まるで再体験しているかのように思い出すことです。
みんなの前で先生に叱られた、いじめや虐待を受けたなどの辛い出来事をただ思い出すだけではなく、そのとき見えた外の景色や相手が着ていた服、聞こえた音、匂い、そしてそのときの感情まで鮮明に蘇ってくるのが特徴です。
フラッシュバックが、単なる「思い出す」と違うのは次の点です。
- 自分の意志と関係なくあるきっかけによって突然始まること
- 当時の強い感情体験も同じように伴うこと
参考:トラウマ体験がフラッシュバックするひとたち|日経メディカル
この2点により、当時の辛かった気持ちがまた当時と同じように繰り返され、とても苦しくなるのがフラッシュバックです。
このフラッシュバックが発達障害を持つ人に多いのは、なぜでしょうか。その関連性を解説します。
発達障害とフラッシュバックの関連性
発達障害を持つ人たちは、フラッシュバックを起こしやすい傾向があります。
その詳しいメカニズムは明確にはわかっていませんが、発達障害の特性が関係していると言われています。中でもASDの人にフラッシュバックが多く起こるとされており、その理由はASDの人の「脳の記憶の仕方」に特徴があるからだと考えられます。
では、ASDの人の特徴的な記憶の仕方とは、どのようなものなのでしょうか。
ASDの特性で嫌な思い出が鮮明に残る
ASDの人の中には、「カメラアイ」と呼ばれる瞬間記憶能力の特性を持つ人がいます。
見たものを写真を撮ったように瞬間的に記憶できるのが特徴です。例えば、説明書の内容を一度見ただけで一字一句間違えずに覚えていたり、難しい英単語や数式も一瞬で暗記します。
一見便利な能力のようにも思えますが、この特性によって嫌な思い出も鮮明に記憶してしまいます。そのため、フラッシュバックが起きたときに当時の記憶がはっきりとそのまま思い出され、大きなストレスとなるのです。
記憶は長く残る特徴があるので、長期間に渡り繰り返しフラッシュバックを起こす原因になってしまいます。
参考:自閉スペクトラム認知特性と視覚芸術|はなぞのクリニック 華園 力
ASDの特性で嫌な出来事を長く鮮明に記憶してしまうことがフラッシュバック発症の1つの原因です。
<発達障害の記憶やストレスに関連する記事>
そしてもう1つの原因は、その嫌な出来事から起こる「トラウマ体験」です。
トラウマ体験がフラッシュバック発症の原因
トラウマとは、心的外傷と訳されるように「心の傷」のことです。ショックな出来事によって心にできた傷が、後遺症のように後になっても心や体に害をもたらす状態を指します。
トラウマになるような辛い出来事は、家族の死や自然災害、試験の失敗など日常の中には多くありますが、生き辛さを抱えている発達障害の人ではさらに多くなります。
このトラウマが、フラッシュバックを引き起こす要因になっています。
特性と周囲の環境とのミスマッチがトラウマになる
発達障害の人は、一人ひとりがさまざまな特性を持っています。人とコミュニケーションを取ることが苦手、じっとしていることが苦手、注意力が持続しないなど、特性は十人十色です。その特性が周囲の人や環境とうまくマッチしないとき、それが大きなストレスとなり心に深く傷を追うトラウマになり得ます。
発達障害の特性がトラウマ体験につながりやすい理由を、代表的な4つの例を挙げて解説します。
得意・不得意の差が大きい
発達障害を持つ人は、発達に凹凸があるため全般的に得意なことと不得意なことの差が大きくなります。
例えば、
- 算数の計算問題は誰よりも得意だが、漢字はまったく覚えられない
- 歌を歌うことは得意だが、不器用で楽器はうまく弾けない
- 昆虫の知識は図鑑が頭に入っているかのように豊富だが、九九や歴史など暗記問題は苦手
- 走るのは速いが、ダンスや球技はほとんどできない
- 日常会話は問題ないが、音読はひどく苦手
このように、得意なことでは周囲も驚くような能力を発揮することがある一方で、不得意なことは極端に苦手になる傾向があります。そのため、周囲からサボっていると誤解されて注意叱責をされたり、いじめやからかいを受けたりすることも少なくありません。
この失敗経験の多さや周囲の誤解が精神的なダメージになり、トラウマ体験につながりやすくなります。
関連記事:得意と苦手の差が大きい発達障害では自信をつけることがまず大切です
白黒思考
ASDの人に多い特性で、「白黒思考」があります。これは物事を0か100かでしか考えられない極端な思考です。
例えば「今日はずっと楽しかった」日であっても、1つ嫌なことが起これば、ほかの楽しかったことはすべて0になります。
全体を通して考えれば楽しいことのほうが多かったはずなのに、1つでも嫌なことが起こると頭の中は嫌な記憶に支配されて、今日は嫌な1日だったことになってしまうのです。
特性による失敗経験の多さにこの白黒思考が追い討ちをかけ、思考がネガティブになりトラウマを抱えやすくなります。
感覚過敏
発達障害を持つ人の中には、五感(視覚・味覚・嗅覚・聴覚・触覚)が極端に敏感な感覚過敏の特性を持つ人がいます。
私たちの日常生活の中には、さまざまな音や光、匂いなどの情報が刺激として溢れています。感覚に敏感さがある人にとって苦手な感覚への刺激は大きなストレスになり、パニックになることもあります。
- 長時間雑音の多い場所にいることを強いられた
- 苦手な食べ物を無理矢理食べさせられた
など、過度な刺激を受けた場合、その体験が心を傷つけるトラウマになることもあるのです。
また、日常的にストレスにされされることによって心身が疲弊し、ストレスに弱くなることも考えられます。精神的に脆い状態では、辛い体験がより強いトラウマとして残りやすくなります。
関連記事:発達障害による感覚過敏には多くのパターンがあり個々への対処が必要です
対人不安が強い
発達障害を持つ人の多くは、人とのコミュニケーションに困難さを感じています。
過去の対人関係での失敗経験も多くなりがちで、他人が怖くなってしまうケースがあります。他人の目を気にして失敗することへの恐怖を感じやすく、些細なことでもトラウマになり何もできなくなってしまうことがあります。
上記のような理由から、発達障害を持つ人はトラウマを抱えやすくなります。
では、トラウマ体験が多い発達障害の人がフラッシュバックを防ぐには、どのような方法があるのでしょうか。
関連記事:コミュニケーション面でのサポートが子ども達には欠かせません
フラッシュバックを防ぐ3つの対処法
フラッシュバックを予防するためにできることを3つ紹介します。
- 療育で特性を和らげる
- トラウマを思い出さないようにする
- 心身の健康を保ち気持ちの余裕を作る
この3つを意識的に行うことで、少しずつフラッシュバックを減らし生活の安定につなげることができます。
①療育で特性を和らげる
日常の困り事を減らすことで、フラッシュバック発症の原因となるトラウマ体験を減らすことができます。
まずは子ども自身の持っている特性に合わせて周囲の環境調整をします。
- 雑音の多い場所が苦手な子はイヤーマフをつける
- 目に入る情報が多いと集中できない子は机の周りにパーテーションを置く
- じっとしていられない子には定期的に立ち上がる作業をしてもらう
などの方法があります。
このような環境調整をした上で、療育によって苦手を克服したり、苦手をカバーする方法を身につけたりしながら、安心して生活が送れるように導いていきます。
療育とは、障がいを持つ子どもやグレーゾーンと呼ばれる障害がいの可能性がある子どもが、今抱えている困りごとを解決し、将来自立して生活できるよう、それぞれの特性・状態に応じた個別支援をおこい、発達を促すことです。
②トラウマを思い出さないようにする
過去のトラウマ体験を思い出すことがフラッシュバックを引き起こすため、できるだけ思い出さないようにします。
過去の記憶は、意識しなくても思い出してしまうものなので簡単ではありませんが、思い出しそうになったら体を動かしたり、違うことを考えたりするクセをつけると良いかもしれません。
また、何度か繰り返すうちに思い出すときのトリガーが何なのかがわかってきます。思い出すときの場所、匂い、音楽、言葉などのきっかけがわかれば、それを避けることでトラウマを思い出さないようできます。
③心身の健康を保ち気持ちの余裕を作る
誰でも体調が悪いときやストレスが溜まって疲れているときは、気持ちに余裕がなくなり精神的にも弱くなるものです。そういうときには思考もネガティブになりがちで、失敗経験ばかり思い出して過去の嫌な記憶も蘇りやすくなってしまいます。
食事・睡眠・運動の基本的な生活習慣を整えること、好きなことをする時間を確保することなどで心身の健康を保てるようになります。今の生活を充実させることがフラッシュバック予防のために効果的です。
発達障害で嫌な記憶がフラッシュバックしたときの対処法3選
発達障害で嫌な記憶がフラッシュバックしたときの対処法を3つ紹介します。
- 気持ちを切り替える
- リフレーミングで視点を変える
- カウンセリングを受ける
フラッシュバックを起こさないようにできる限り対策をしても、突然起こるものなので避けきれないこともあります。
フラッシュバックを起こしてしまった場合は、長引くと精神的なダメージや日常生活への影響が大きくなるため、できるだけ早く元の状態に戻れるように自分なりの対処法を身につけておくことが大切です。
発達障害で嫌な記憶がフラッシュバックを起こしてしまったときの具体的な対処法をお伝えします。
①気持ちを切り替える
過去の嫌な記憶が頭の中に生々しく蘇ってきて辛いと感じても、「今は違うから大丈夫」と気持ちを切り替えるようにします。
一瞬辛くなっても、早めに気持ちを切り替えられるようになると心身の消耗が少なくて済みます。具体的な方法を3つ紹介します。
意識的に違うことを考える
辛い記憶は、忘れようとすればするほど頭から離れなくなるものです。忘れようと思うのではなく、まったく別のことを考えるようにします。自分の好きな食べ物のことや飼っているペットのこと、翌日の友達との約束など気持ちがポジティブになれることを考えると良いでしょう。
休憩をとる
心身が疲れていると思考がネガティブになり、嫌なことを思い出しやすくなります。発達障害を持つ人は自分の疲れや体調不良に気付きにくい傾向があるため、一度ゆっくり休憩をとってリフレッシュしてみると良いかもしれません。
運動をする
体を動かすと、心も体もスッキリします。運動にはストレス発散効果もあるので、もやもやした気持ちもなくなり前向きになれます。生活習慣を整えるためにも、毎日適度に体を動かすのがおすすめです。
②リフレーミングで視点を変える
リフレーミングとは、今の枠組み(フレーム)で捉えられている物事を、枠組みを外して違う枠組みで捉え直すことです。
ネガティブな思考をポジティブに変換することで気持ちが前向きになれる効果があります。
例えば、
「半分しかできなかった」→「半分もできた」
「テストでたくさん間違えた」→「苦手なところがわかって良かった」
「自分は優柔不断でなかなか決断できない」→「物事をよく考えて慎重な判断ができる」
このように考え直してみると、失敗や嫌なこともダメなことばかりではないことがわかり、次からも失敗を恐れずに前向きに取り組めるようになります。
③カウンセリングを受ける
過去の強烈な辛い記憶のフラッシュバックは、自分自身ではどうしようもできない場合もあります。
自分でできる対策をしてもフラッシュバックが収まらない場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症している可能性もあります。
PTSDとは、死に直面するほどの危険や恐怖を体験した記憶が、自分の意志とは関係なく当時に戻ったように感じるほど思い出され、不安や緊張が高まり日常生活に支障をきたす強く不快な状態です。
一人で抱え込まず、精神科や心療内科、保健所などの相談窓口を通じてカウンセリングを受けることも、ときには必要です。
発達障害で嫌な記憶がフラッシュバックしたら「運動遊び」もおすすめ
発達障害で嫌な記憶がフラッシュバックしたら、遊びを取り入れた療育活動「運動遊び」もおすすめです。
健康な心身を保つためには欠かせないのが運動です。体を動かすことには、ストレスを発散し気分をリフレッシュする効果や、基本的な生活習慣を整える効果もあります。
遊びの要素を含んだ「運動遊び」で、楽しく実施するのが一番のポイントです。
今回は、私たち放課後等デイサービスの教室「こどもプラス」で提供している運動遊びの中から「跳び箱からジャンプ」を紹介します。
<遊び方>
- 跳び箱の上に乗って、跳び下ります。
- 跳ぶ時は足がバラバラにならないように足を閉じてジャンプします。
- 着地も足を閉じて行い、膝を曲げて膝のクッションを使うようにします。
- 慣れてきたら、着地点にフープを置いたりテープを貼ったりして着地位置を指定するアレンジ、着地点にフープを3つほど並べておき、着地の後ジャンプして渡るアレンジなどがおすすめです。
着地で膝のクッションをうまく使えるようになると、縄跳びでの連続ジャンプができるようになります。膝の曲げ伸ばしを意識して、練習してみてください。
また、アレンジでは跳び箱の高さを高くするだけでは怪我のリスクが高まります。着地の正確性でより身体コントロール力を育てるようなアレンジや、ほかの動きをプラスしていろいろな体の使い方ができるようなアレンジ、記憶力や抑制力を高めるようなアレンジをすることが子ども達のさらなる成長につながります。
ほかにもいろいろな種類のジャンプ遊びや、気持ちの切り替え、感情コントロール力を育てる運動療育が「こどもプラス」には数多くあります。公式インスタグラムで、一部紹介しているのであわせてご覧ください。動画付きで分かりやすく説明しています。
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発達障害を持つ子ども達は、特性により人一倍生き辛さやストレスを抱えています。その辛さを解消し、生きる糧にしていく術も持ち合わせていないことが多く、精神的に追い込まれてうつなどの二次障害に悩まされてしまうケースが少なくありません。
二次障害は今の生活への支障だけでなく、将来の就職や自立した生活にまで影響を及ぼします。それを防ぐためには、早期の療育が有効です。
こどもプラスでは、子ども達が将来社会の中で自立し、充実した豊かな生活を送ることができるように、今身につけるべき力を見極めながら日々の関わりを大切にしています。
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