ADHDで片付けられない5つの理由と苦手を克服する方法
ADHDの人の特徴に、部屋の片付けや身の回りの整理整頓が苦手なことがあります。
「散らかしたつもりはないのに気づくと部屋が散らかっている」
「片付けようと思ってもやり方がわからない。使ったものを元に戻せない」
「片付けの途中で違うことを始めてしまって最後までできない」
「整理整頓ができないのでなくし物や忘れ物が多い」
これらは本人のやる気のなさや努力不足などではなく、ADHDの脳の特性が原因で引き起こされています。
片付けができないのは、脳の特性だから仕方ないかもしれません。しかし、身の回りがいつも散らかり、なくし物や忘れ物ばかりしていては、学校や職場など社会生活を送っていく上で、生き辛さにつながります。
発達障害の特性による苦手なことは、本人だけで解決することが難しいので、周囲の大人が一緒に考えながらサポートすることが必要です。
この記事では、ADHDで部屋の片付けが苦手になる原因や背景、どういった対処法が有効なのかを解説します。
片付けられないADHDの特徴をチェック
片付けられないADHDの特徴をチェックしていきましょう。
ADHD(不注意・多動性・衝動性)によく見られる行動
ADHD(注意欠如・多動性障害)の主な特性は、不注意と多動性・衝動性の3つです。この特性により、具体的に以下のような行動の特徴が現れます。
<不注意>
- 活動に集中できない
- 気が散りやすい
- 物をなくしやすい
- 順序立てて活動に取り組めない
<多動性・衝動性>
- じっとしていられない
- 静かに遊べない
- 待つことが苦手
- 順番が守れない
- 人の話を遮って話し始めてしまう
参照:(ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療-e-ヘルスネット|厚生労働省)
このような特性、行動の特徴があることで日常のあらゆる場面で支障が出てきます。ときに人間関係のトラブルにつながってしまうこともあるので、適切な支援で困り事を減らしていってあげることが大切です。
片付けられないADHDの共通点
ADHDでは、不注意と多動性・衝動性により、次のような片付けられない共通点が見られます。
- 整理整頓が一向に進まない
- 整理整頓ができず探し物が見つからない
- 捨てるべきもの・残すものの判断が難しい
なぜこういったことが起きるのか、5つの理由を説明します。
なぜADHDでは片付けられない?苦手になる5つの理由
ADHDの人が片付けられないのは、5つの特性が関係しています。
- 実行機能の弱さ
- 先延ばしグセ
- 脳内多動
- 過集中
- 空間認知能力の低さ
それぞれの程度の差はありますが、ADHDの人が共通して持ちあわせている特性です。詳しく見ていきましょう。
1.実行機能の弱さ
実行機能とは、目的を達成するために計画を立て、自分の行動や思考、感情をコントロールする脳機能のことです。
ADHDでは、この実行機能の働きが弱いことで物事の優先順位付け、段取りが苦手になります。そのため、片付けようと思ってもどこから始めれば良いのか、どう進めていけば良いのかがわかりません。
また、目の前のことに気を取られて作業が中断してしまうことが多いので、なかなか最後までやり遂げられません。
2.先延ばしグセ
ADHDの人では、やるべきことを後回しにして、やりたいことを先にやってしまう、先延ばしグセがある人が多くいます。
物事の優先順位を好きか嫌いかで判断してしまうので、好きなことなら積極的に取り組めるのに、興味がわかないことはどんどん先延ばしにします。これは、満足感や達成感を司る脳の報酬系の機能が弱いことで、将来の成果よりも今の感情を優先してしまいやすい特性によるものです。
また、ワーキングメモリと呼ばれる脳のメモ帳の機能が弱いことで、やるべきタスクをどんどん忘れていってしまうことも原因になります。
3.脳内多動
体の多動は、脳内が多動だから現れる症状です。
脳内が多動とは、頭の中に次から次に直近の記憶やタスク、新しいアイデア、過去の記憶などの情報が暴走するように出てきて、混乱してしまう状態です。
このとき頭の中に出てくる情報に対して、考えるよりも前にいちいち反応してしまうので、それが体の多動として現れます。多くの人の場合、体の多動は成長と共に収まっていきますが、大人になっても完全に消えるわけではありません。
また、脳内の多動もずっと続きます。そのため、片付けようと思ってもあちこちに気が散ってしまったり、急に思いついて違うことを始めてしまうことが続き、なかなか終わりません。
関連記事:ADHDで頭の中がごちゃごちゃする原因と脳内多動を静め整理する対処法
4.過集中
過集中は、1つのことに過度に集中しすぎてしまう特性です。
一見、集中力があって良いことのように思えますが、食事や睡眠など生きていくために必要なことまで忘れてしまうほど異常な集中状態に陥ります。もちろんこれでは、日常生活にも心身の健康面にもさまざまな悪影響が出てきます。
片付けをしていても、途中で見つけた本を読み始めて気付いたら何時間も経っていたり、1カ所の汚れを取ることだけに没頭して1日終わってしまったりすることがよく起こり、すべての片付けを終わらせるまでに時間を要します。
5.空間認知能力の低さ
空間認知能力とは、物の形や大きさ、位置、間隔などを把握する能力です。
発達障害がある人では、この空間認知能力が低いことがあります。そのため、どの大きさの物がどこに入るかがイメージできなかったり、空いているスペースがうまく活用できないので、片付けや整理整頓の苦手につながります。
関連記事:発達障害で空間認識能力が弱い子の特徴とトレーニング法
ADHDで片付けられないことによる困りごと
ADHDで部屋を片付けられないことは、自身の健康面や周囲との人間関係、学校の成績や仕事の評価など、家庭・学校・職場の日常生活のあらゆる場面で困りごとをもたらします。
- 部屋がゴミ屋敷になる
- 学校生活では忘れ物が多く学力に影響する
- 社会人では自己管理ができず仕事に支障が出る
- 投薬で片付けられるようにはならない
などの不都合が挙げられます。具体的にどのような影響があるのか、詳しく解説します。
部屋がゴミ屋敷になる
本人は部屋を散らかすつもりがなくても、気づくと散らかっていることがほとんどです。
何かをやりかけて、そのまま放置されたものがあちこちに散乱し、捨てようと思って一旦机に置いたゴミが山のようになるなど、いろいろな物が積み重なり、部屋がゴミ屋敷のようになってしまいます。そのため、必要なものがすぐに見つからないことは日常茶飯事です。
また、自分の持ち物が把握できず同じ物をいくつも買ってしまうことが起こります。さらに掃除を怠ったり、食べ物を長期間放置したりすると、部屋の中にカビ・小さい虫が発生するなど、衛生面でも良くない影響が出てきます。
学校生活では忘れ物が多く学力に影響する
部屋や通学カバンの中など身の回りが片付かず、なくし物や忘れ物が多くなります。注意力散漫で落ち着いて学習に向かいにくいADHDの特性に加えて、学習に必要な物が揃わないことで学力への影響も出てきます。
授業で使うものがなくて活動に参加できないことがあるためです。また、宿題など提出物を忘れることが多いと、成績表の生活欄の項目で評価が下がってしまうこともあります。
社会人では自己管理ができず仕事に支障が出る
社会人になると、家庭でも職場でも自分の身の回りのことは自分で管理をする能力が求められます。
しかし、身の回りが整理整頓できていないことで大事な書類をなくしたり、スケジュールを忘れたりなど、仕事でのミスにつながりやすくなります。
また、部屋が散らかっていることで衣服がシワシワで汚れていると、職場の同僚や取引先、お客様に与える印象も悪くなります。
投薬で片付けられるようにはならない
薬物療法では、ADHDによる症状を完治させられません。
ほかの療育方法と組み合わせることが有効です。発達障害と診断されたら、全員が薬物療法を受けるわけではありません。必要と判断された場合に薬物療法が行われます。
また、現段階で発達障害を治癒させる薬はなく、投薬はあくまでも症状に対して処置をする対症療法です。
薬を飲んだから片付けられるようになる訳ではありません。投薬により薬が効いている間はADHDの問題症状が抑えられ、落ち着いて行動ができ注意力が上がります。薬の効果が持続している間は、片付けもスムーズにできるでしょう。
ADHDの「片付けられない」を克服する!整理整頓術5つ
ADHDの「片付けられない」を克服する、整理整頓術をまとめてみました。
- 片付ける場所は1カ所に絞る
- タイマーをセットする
- 収納箱を使う
- 床や机に物を置かないルール決め
- 決め物を減らす・増やさない
ADHDの特性だとしても、片付けられないことで、日常生活に大きな支障をきたします。困りごとはライフステージが変わるごとに増していきます。
子どものうちは先生や保護者など身近な大人のサポートがありますが、大人になるにつれてサポートは手薄になり、自分自身の力で解決しながら生活することが求められます。
まずは、できることから始めて自分にあう方法を見つけていくと良いでしょう。ここでは、オススメの方法などを5つ紹介します。
1.片付ける場所は1カ所に絞る
部屋の片付けをする場合、一度に全部を片付けようとすると目についたところから手をつけてしまいます。その結果、部屋の至るところの片付けが中途半端になり、捨てるべきものが判断できず、結果的に散らかる可能性が高くなります。今日ははここだけ、など場所を絞って片付けていくのがオススメです。
段取りを紙に書く
ADHDの人は優先順位をつけて物事を進めるのが苦手です。片付けをする場合にも、片付ける場所の順番や掃除の進め方、タイムスケジュールなどをあらかじめ紙に書いて貼っておくと、迷わずスムーズに進められます。
2.タイマーをセットする
過集中の特性や切り替えの苦手さがあるADHDの人では、片付けに限らずタイマーを使うのがオススメです。○時までは勉強机の片付けをすると決めておき、タイマーが鳴ったら途中でも終わりにします。もし過集中状態でタイマーの音が聞こえない可能性がある場合には、家族に声をかけてもらうと良いです。
休憩時間でメリハリをつける
部屋を片付けると言っても、「必要な物と捨てる物を分ける」「物を整理整頓する」「掃除機や雑巾がけをする」など、やることは多岐に渡ります。時間も労力もかかるので、休憩時間を取りながら無理なく行うことがすべてやり遂げるためのポイントです。
3.収納箱を使う
広い空間に物を収納をするのは、空間認知能力が弱いADHDの人には難しいことです。
分類別に箱などの入れ物を用意すると、どこに何を入れるのかがわかるので収納がしやすくなります。また、箱の中身を箱の側面などに書いておくことで、忘れたり迷うことなく物をしまえます。
物の住所を決めて使ったら戻すを習慣付け
収納箱を用意して物の住所が決まったら、あとは常にそこに戻すようにするだけです。
やりっぱなし、出しっぱなしが多いのもADHDの特性の1つなので簡単ではありませんが、「使ったらすぐに戻すよう意識する」「途中でその場を離れる場合でも必ず戻す」ことを習慣付けられれば、気付いたら部屋が散らかっている状態が減らせます。
4.床や机に物を置かないルール決め
片付けが苦手な人にはありがちなのが「外から帰ってきたときに、鍵をその辺に置いて次の日どこにあるかわからなくなる」「上着を脱いだ場所に置いてしまうので、すぐに部屋のあちらこちらに洋服が散らかってしまう」ようなことです。
これを防ぐためには、物の住所を決めることがまずは大事ですが、床や机、ソファには絶対に物を置かないことを自分の中でルールとして決めておくことも有効です。
このルールを守るだけで部屋の散らかりを防げ、少なくとも足の踏み場がない状態は避けられます。
動線を考えた収納
どんな良い収納があっても、ルールを決めても、自分にとって使いにくければ活かすことができません。家に帰ったら玄関を入ってすぐのところのフックに鍵をかけて、隣のポールハンガーに上着と帽子をかけるように、生活の動線を考えながら収納場所を決めると、とりあえずそこに置くことが防げて動きの無駄もなくせます。
5.物を減らす・増やさない
物が多すぎると、部屋は散らかりやすく片付けにくいものです。
また、持ち物の把握も難しくなり、同じような物を買ってしまってどんどん物が増える原因にもなります。一度すべてを見直して、必要な物以外は処分するところからスタートしましょう。
そして、必要以上に物が増えないように、1つ買ったら1つ捨てるなどのルール決めも大切です。
定期的に物を捨てる
どんなに物が増えないように気をつけていても、どうしても増えてしまうことはあります。
そこで、2か月に1回など定期的に日にちを決めて、持ち物を整理する時間を意識的に作るようにします。物が減って部屋が片付くだけでなく、今ある物を把握することにもつながるので、同じ物を買うダブりも防げます。
対処法はほかにもあります。大切なのは、自分にあう方法を見つけて困りごとをなくしていくことなので、ぜひいろいろな方法を試してみてください。
ほかにも、放課後等デイサービスの教室「こどもプラス」では、さまざまな声かけをしています。インスタグラムで紹介しているので、あわせてご覧ください。
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<片付けが苦手なお子さんの支援で役立つ記事>
- 不注意優勢型のADHDでは片付けが著しく苦手な特徴があります。
- 発達障害では療育で苦手を補う方法や合ったやり方を見つけることが大切です。
- 発達障害特性で片付けが苦手な子にはスモールステップでの支援が必要です。
片付けられない発達障害・ADHDの子どもへの対処法
片付けられないADHDの子どもの脳を落ち着かせる方法を紹介します。
一般的に脳は活性化させれば良いと思われがちですが、そうではありません。実は、私たちの脳が一番活性化しているのは、パニックを起こしているときです。
パニックを起こさないことが大切
やることが多くて目が回るほど忙しいときを思い出してみてください。
あれもこれもとパニックになってあちこち中途半端に手をつけてしまい、結果的に生産性が上がらないことがあるのではないでしょうか。
実はこのパニック状態のときが、脳が一番活性化しているのです。本来は、何かをするときには、脳のその能力を担当する部位だけが活性化していて、それ以外の部位は活性が落ち着いているのが良い状態です。
運動が脳内多動を落ち着かせる
ADHDの人の脳は、障害特性による多動性によって脳内も多動になりやすいので、脳が常に余裕がなくパニックを起こしやすい状態です。この脳を適正な状態に落ち着かせるために最も有効なのが、運動であることがわかっています。
私たちが行なった実験で、運動遊びが発達障害の子どもの脳機能の改善に効果的であることが明らかになっています。
脳機能を改善させる運動遊び
運動遊びとは体を使った遊びのことで、鬼ごっこ、鉄棒、縄跳び、ボール遊びなどがあります。
子どもの基礎的な体力や筋力、運動能力の発達だけでなく、社会性やコミュニケーション能力など生きていくために必要な能力を育てられるので、子どもの発達には欠かせないと言われています。
運動遊びにより「前頭前野背外側部」の活動が活発化した実験は、こちらの記事をご覧ください。前頭前野背外側部とは、考えることや創造力など、脳の司令塔としての役割をもつ領域です。
低強度の楽しい運動遊びが子どもの体と脳を育てる
運動が脳機能改善に効果的だからといって、運動なら何でも良いとわけではありません。
マラソンや長時間の筋トレのような強度の高い運動は、脳の血流が低下して認知機能が下がり、コルチゾールと呼ばれるストレスホルモンが増えることもわかっています。
特に子ども達には、低強度の楽しい運動遊びが脳の活性化に最も効果的で、継続にもつながります。楽しいと感じられる運動遊びを継続的に行うことで、子ども達に体力や基礎筋力がついて怪我や病気に負けない体作りができ、脳に良い刺激が与えられることで機能が改善されて脳が育ちます。
集中力・注意力を育てる運動遊びの紹介
ADHDで集中力や注意力に弱さが見られる子ども達にオススメの運動遊びを1つご紹介します。
<タッチタッチゲーム>
- 指導者と子どもは向かい合ってしゃがみ、目線の高さを合わせます。
- 指導者が手を出したら、子どもは素早くタッチします。
- 手を出す位置は、上下左右いろいろな場所にランダムにします。
- 慣れてきたら、手を出すスピードを上げたり、「パーのときはタッチする、グーのときはタッチしない」などのアレンジを加えて遊びます。
アレンジを加えることで、集中力や判断力、記憶力、抑制力なども養うことができます。また、目の焦点を繰り返し動かすことができるので、ビジョントレーニングにもなる遊びです。
お子さん一人ひとりの課題や困りごとにあわせて提供しながら、楽しく力を育てていきます。
集中力が鍛えられる運動遊びをもっと知りたい方は、こちらの療育プログラムも参考にしてみてください!
こどもプラスの運動遊びでADHD児の片付ける力を育てます
こどもプラスが提供している「柳沢運動プログラム」は、運動遊びが大脳(特に前頭前野)の発達を促し、心と身体の発達に寄与するという理論に基づき開発した独自の運動プログラムです。
プログラムの内容は、動物に変身したり身体を使ったゲームです。日常生活の中だけではあまり使われない筋肉を動かし、基礎的な体力、筋力、運動能力を遊びながら身につけられるようになっています
身体面だけでなく、友達同士で遊ぶ中で我慢したり、相手を思いやったり、協力したりする経験から心も育みます。また、運動ができたときの達成感や満足感を自信につなげ、運動以外の場面でも挑戦できる意欲ややる気を育てます。
この運動プログラムを、一人ひとりにあわせて運動強度、頻度、様式を変えながら提供するのが私たち「こどもプラス」の療育です。全国に190教室を展開しています。ご興味のある方はぜひ最寄りの教室までお問い合わせください。