運動が苦手なアスペルガー症候群でも遊びながら改善!運動音痴の問題と克服方法
アスペルガー症候群は「自閉スペクトラム症」の一種です。自閉症の特徴を有しつつも、ことばや知的発達の遅れが見られないのが特徴です。
アスペルガー症候群を含む自閉スペクトラム症(以下、ASD)の子ども達は、運動を苦手とする傾向があります。「運動音痴」と呼ばれることもありますが、これは神経伝達物質の働きに異常があるためです。脳の興奮と抑制状態のバランスが悪いことが影響を与えています。
学校生活では周りとの差が気になりやすく、大きな悩みの種になることも少なくありません。
しかしアスペルガー症候群だからといって、運動を諦める必要はありません。遊びの中で軽い運動を行う「運動療育」なら、苦手を改善できる可能性があります。「こどもプラスの教室」でも、生活動作の向上や巧緻性の獲得など、運動療育の効果を日々実感しています。
本記事では、アスペルガー症候群の子ども達が運動の苦手を克服するポイントと、運動療育の効果を説明します。プログラムの実例も取り上げますので、日々の生活に取り入れてみてください。
1.アスペルガー症候群とは
アスペルガー症候群は、「自閉スペクトラム症」に含まれる発達障がいの1種です。知能や言語に遅れはないものの、以下の点で自閉症の特徴を示します。
- コミュニケーションを取りづらく、良好な人間関係を構築しにくい
- 場の空気を読むことが難しく、社会性に問題を抱えがち
- 五感のいずれかが過敏になり、感覚が偏っていることがある
- こだわりが強く、法則や規則に従って行動したがる
- 体をうまく動かすことや、細かな作業が苦手
これらの特徴から、アスペルガー症候群の人は「変わり者」とみなされがちです。とくに学校生活では浮いてしまうことが多く、「友人ができない」「先生から叱られる」などの問題が起こります。
そのため子ども達は学校生活で失敗や挫折を感じやすく、ストレスを溜め込む恐れがあります。周囲の大人ができるだけ早く特性に気づき、生活習慣や環境を整えなければなりません。
ASDのことをもっと知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。 |
2.アスペルガー症候群と運動神経の悪さとの関係
本章ではアスペルガー症候群の人が「運動音痴」になる原因を説明します。
アスペルガー症候群と運動音痴の結びつきは、長年不明なままでした。しかし近年の研究で、「GABA」と呼ばれる神経伝達物質の影響が指摘されるようになりました。
また、ASD全体で起こりうるのが「発達性協調運動症」との併発です。発達性協調運動症は、ASDやADHD(注意欠如・多動症)などと併発しやすいと言われています。
本章で運動が上手にできない原因を理解しましょう。
2-1.アスペルガー症候群に見られる運動の苦手「あるある」
学校は体を動かす機会が多いため、アスペルガー症候群の子が「運動音痴」を自覚しやすい環境です。友達との差を感じやすく、悩みに発展することも多いでしょう。
よくありがちなのは、
- 自分だけうまくできず、先生や友達に責められているように感じる
- マラソンや水泳など個人競技で他人に笑われる
- チームプレーでは最初から外される
- 失敗ばかりするためチャレンジ意欲をなくす
- 運動全般が嫌いになり、休み時間も体を動かさない
- 運動に限らず、チャレンジそのものを嫌がるようになる
などです。
これらは教師がアスペルガー症候群への知識を持ち、特性にあわせた指導をすれば解決します。しかし授業は教室単位で進められるため、個別対応をしたくてもしきれないのが実情です。
2‐2.脳の興奮と抑制状態の不均衡が運動の苦手を生む
アスペルガー症候群の子はなぜ運動音痴に陥るのでしょうか?
その原因は、2020年に国立障害者リハビリテーション研究所が発表した研究結果に示されています。
脳には運動を司る運動領域(一次運動野と補足運動野)があります。そこで運動制御にかかわる神経活動が行われることで、人間は体を動かせます。その神経活動を抑制する働きを担うのが「GABA」と呼ばれる神経伝達物質です。
ASDの人は、補足運動野のGABA濃度が低いことで、脳の興奮に対する抑制がうまく働きません。その不均衡が、全身を協調して動かす技術を低下させるのです。
この研究結果が明らかになったことで、今後はリハビリや薬の開発に活かされることが期待できます。近い将来、運動音痴がリハビリや薬で治る日が来るかもしれません。
(参照:自閉スペクトラム症者の運動の不器用さの神経科学的根拠を世界で初めて発見 | 国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
2-3.発達性協調運動症を併発している可能性も
発達性協調運動症は、複数の身体部位を協力させて動かす運動が困難な障がいです。ASDやADHDの人は、この発達性協調運動症を併発しやすいと言われています。
通常人間は「歩く」「座る」「立つ」などの体を大きく使った「粗大運動」と、「箸を持つ」「文字を描く」などの「微細運動」とを組みあわせて生活しています。
発達性協調運動症の人は、これらを組みあわせることが困難です。自分の体を円滑に動かせずちぐはぐな動きになることや、手先をうまく使えず「不器用」とレッテルを貼られることが多々あります。
運動に極端に苦手を感じる場合は、発達性協調運動症の併発も疑うべきでしょう。
詳しくは『【ADHD・ASD】手先の不器用さをもたらす発達障がいと改善に導く方法』をご覧ください。
3.アスペルガー症候群の子が運動の苦手を乗り超えるポイント
本章ではアスペルガー症候群の子どもが運動の苦手を乗り越える方法を説明します。
ポイントは2点あります。前章で説明した「アスペルガー症候群と運動音痴との関連」から考えることと、「アスペルガー症候群の子がおかれている現状」から考えることです。
3-1.与える運動の質を変える
ASDの人は神経伝達物質「GABA」の濃度が低く、脳の興奮を上手にコントロールできないことを前章で説明しました。ここから考えられる対策は、「与える運動の質を変えること」です。
3-1-1.「楽しい」範囲の運動にとどめる
うまく体が動かせないのなら、最初から難しい運動をテーマにしないことです。アスペルガー症候群の子が「楽しい」と思える内容で運動を行います。たとえば「遊びの中に軽い運動を取り入れる方法」ならば、運動だと思わずに取り組めます。
3-1-2.運動にゴールを設けない
運動にゴールを設けないことも大切です。学校では「技術の習得」をゴールに体育を教えます。しかし「ゴールを達成しなければならない」運動は、失敗体験の多いアスペルガー症候群の子ども達には困難に感じられます。
「できなくても良い」ことを大前提に、強制しないことが大切です。
3-1-3.過度の興奮が起こらないよう心がける
脳の興奮のコントロールが難しいのであれば、過度の興奮を起こさないことも必要です。それには、子ども達が運動でストレスを感じないよう留意します。
- やり遂げることが難しい運動をしない
- 体を酷使させる運動をしない
- 体力的・精神的につらい内容は取り入れない
- 他人と比較しない環境を作る
などがポイントです。
3-2.成功体験をつくる
アスペルガー症候群の子ども達が学校でおかれている状況を考えると、「成功体験」の重要性がわかります。
子ども達は、
- 運動ができないこと
- 他人と違うこと
- 先生に怒られること
- 友達に馬鹿にされること
など思い悩みます。こうした悩み事は、自己肯定感を低下させます。
自己肯定感は成功体験によって育まれます。運動は、成功体験にも失敗体験にもなり得る諸刃の剣です。アスペルガー症候群の子どもに与える運動は「成功体験に結びつくもの」でなければなりません。
関連記事:発達障害の子ども達は成功体験の積み重ねで自信をつけることが大切です。
3-2-1.個性への対応
では「成功体験に結びつく運動」とはどのようなものでしょうか?
それは個性に対応した運動です。画一的に運動のゴールを設定しても、すべての子どもが成し遂げられるわけではありません。一人ひとり、身体能力には差があります。とくにアスペルガー症候群の子はできないことが多く、それを放置すれば失敗体験に結びつきます。
親や教師は子どもの凹凸を見極め、個性に対応した運動を提供しなければなりません。「楽しい」範囲で運動を行い、画一的なゴールを設けないことが大切です。そして、些細なことでも、達成できた内容を褒めるようにしましょう。
4.アスペルガー症候群の苦手克服なら「こどもプラス」の運動療育
本章では、楽しく遊びながら成功体験をつくれる、こどもプラスの運動療育を紹介します。
こどもプラスの運動療育は、発達障がいを持つさまざまな子どもの個性に対応しています。これまで多くの子ども達の身体能力を伸ばし、「箸の持ち方がうまくなった」「日常動作をスムーズにこなせるようになった」などの喜びの声をいただいています。
また教室での子どもどうしのかかわりから「集団生活のルールを守れるようになった」と社会性の獲得にも評価をいただいています。
子ども達の能力を伸ばせる理由は、「楽しい」ことに重点を置いているからです。私たちの運動療育は「運動遊び」です。あくまでも「遊び」の中で能力を高めます。
また、提供するプログラムが脳科学に裏付けられている点も、こどもプラスの特徴です。
4-1.柳沢運動プログラムとは
こどもプラスの運動療育は、独自の運動プログラムである「柳沢運動プログラム」を採用しています。
「柳沢運動プログラム」は、柳沢秋孝先生(松本短期大学名誉教授)が開発しました。脳機能のを改善し、日常生活でさまざまな効果があることが認められてきました。
これまで長野県教育委員会、兵庫県豊岡市教育委員会など全国各地の教育委員会や保育園、学校で採用されてきました。また一般企業にも認知され、ベネッセやポピーなどで利用されています。
詳しくは柳沢運動プログラムの詳しい内容はこちらをご覧ください。
4-2.「遊び」であることの重要性
前章で説明したとおり、アスペルガー症候群の子ども達の運動能力を高める秘訣は、「楽しい範囲で」「ゴールを設けず」体を動かすことです。
そのため、こどもプラスの運動療育は、遊びながら体を動かす「運動遊び」です。子ども達は遊びの中で徐々に運動能力を獲得します。
また個別の対応も大切にしており、一人ひとりの体と心の状態を的確に見極めながら、提供する運動遊びを変えています。子ども達は挫折することなく成功体験を積み重ね、自分から体を動かすようになります。
4-3.脳科学が実証する発達障がいの子どもの運動神経改善効果
運動遊びは、前頭前野に刺激を与え活性化させます。前頭前野はワーキングメモリ、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知と実行を行う部分です。運動遊びはこれらの能力を引き出すきっかけになります。
発達障がいは、前頭葉の機能障がいであると言われています。前頭葉は前頭前野、運動前野などから形成される脳組織です。したがって前頭前野を活性化させる運動遊びは、前頭葉に問題を抱える発達障がいにも有効です。
子ども達は運動遊びをすることで、反応のコントロールや行動の切り替えなど、運動能力を高めていきます。夢中になって遊ぶ中で、徐々に運動神経が改善されていくのです。
(参照:前頭葉の発達とその障害 | 青柳 閣郎、保坂 裕美、相原 正男)
5.アスペルガー症候群でも運動が得意に!運動療育の事例紹介
さいごに、こどもプラスの運動療育で実際に行われている遊びを紹介します。ご紹介するのは「走り前回し跳び」です。
5-1.運動療育プログラム「走り前回し跳び」
「走り前回し跳び」は、短縄を使用し、前回しをしながら走る遊びです。
速く走ると縄とタイミングがあわないため、走るスピードと縄の回転スピードを意識しながら走ります。
通常の前回しでは両足でジャンプしますが、走りながら行なうことで片足ジャンプをすることになります。
両足ジャンプは、跳ぶ(動)と着地(静)のメリハリがはっきりしているため、比較的容易に行なえます。その反面、走りながらの片足ジャンプは、常に動いている状態になるため、難易度が上がります。
徐々にリズムを感じながら取り組めるよう、最初は距離を長めに設定し、ゆっくりしたリズムから挑戦していきます。
ジャンプに関する運動遊びをはじめ、こどもプラスのインスタグラムでは、さまざまな運動遊びを紹介しています。運動療育に詳しい運動保育士が動画付きで解説しているので、ぜひ実践してみてくださいね!
▼ ここでは『大の字ジャンプ』の投稿を紹介 ▼
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ジャンプや縄跳びを使った運動遊びをもっと知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
さいごに
アスペルガー症候群の子は運動神経に問題を抱えています。学校生活ではクラスメイトとの違いを自覚しやすく、困りごとに発展しがちです。周囲が子どもの特性に気づき、できるだけ早く手を打たなければなりません。
アスペルガー症候群の子どもが運動音痴を克服するには、以下のポイントがあります。
- 「楽しい」範囲で運動を行うこと
- 運動に習得のゴールを設けないこと
- 運動で身体的・精神的ストレスがかからないようにすること
- 個性に対応し成功体験をつくること
放課後等デイサービスの運動療育は、これらの条件を満たします。こどもプラスでは遊びの中で運動を行う「運動遊び」を、子ども達の個性にあった形で提供しています。
弊社の運動遊びは脳科学でも効果が実証されており、発達障がい全般に有効です。楽しく体を動かす中で、自然と身体能力や社会性が備わります。
成功体験を積み重ねるうちに笑顔が増え、ご家庭でもお子様の変化を実感していただけるでしょう。
プログラムの詳細は各教室でご案内します。随時入所体験も行えますので、ご興味のある方はぜひ最寄りの教室までお気軽にお問いあわせください。