マルチタスクが苦手!発達障害で二つのことを同時にできない理由と対処法
マルチタスクとは、複数の作業を同時進行することを指します。
例えば
- 電話をしながらメモを取る
- 雑談しながら作業をする
- 家事をしながら子どもの宿題をみる
など、日常生活の中で多く見られる行動が、マルチタスクに該当します。
同時進行と言っても、私たちの脳は構造上、一度に一つのことしか処理ができません。つまり正確には同時進行ではなく、短い時間でタスクの切り替えを次々に行なっていることになります。
この脳の切り替えがうまくできるかできないかが、マルチタスクの得意や苦手に関係していて、とくにADHDやASDなど発達障害の人では苦手な傾向があります。
今回は、発達障害の特性で一つのことしかできない原因を解説します。さらにマルチタスクが苦手な子どものための具体的な対処法、そして将来向いている仕事も詳しく解説します。
マルチタスクができない発達障害の基礎知識
マルチタスクができない発達障害の基本的な知識を理解しておきましょう。
発達障害は、生まれつき脳の機能に障害があることから起こる脳機能障害です。
大きく分けるとASD(自閉スペクトラム症/アスペルガー)・ADHD(注意欠如/多動性障害)・LD(学習障害)の3つに分類されます。各発達障害に注意力や想像力、記憶力、コミュニケーションなどで特性があり、その特性によって日常生活の多くの場面で困難があります。
マルチタスク(同時に二つ以上のことをすること)は、発達障害の人たちが苦手とすることの1つです。
発達障害は前頭前野の機能に問題がある
発達障害(ASD・ADHD・LD)では脳の前頭前野の機能不全があることがわかっています。
前頭前野は脳の司令塔とも呼ばれている場所で、「考える」「判断する」「記憶する」「集中する」「行動や感情をコントロールする」などの重要な役割を担っています。
つまり、タスクを行う際に適切な判断を行いながら遂行していくのも前頭前野なので、発達障害がある人では一つのことしかできなくなるのです。
発達障害の日常にもマルチタスクが求められる
では、マルチタスクはどのような日常生活の場面で必要になるのかを見てみましょう。
家庭、学校、職場など、二つ以上のことを同時にできないこと困る例を挙げました。
<家庭>
- 歯磨きをしながら日記のネタを考える
- 勉強をしながら会話をする
- 本を読みながらメールを返信する
<学校>
- 先生の話を聞きながらノートをとる
- 自分の意見をまとめながら友達の意見を聞く
- 時間を見ながら次の授業の準備をする
<職場>
- 電話応対をしながらメモをとる
- 複数の案件がある場合に全体のバランスを見て同時進行する
- お客様と会話をしながら頼まれたものを準備する
もし、生活を送っていく中でマルチタスクの苦手による影響がある場合には、対策を講じる必要があります。
最もシンプルな対策は、「シングルタスクにすること」です。「シングルタスク」は、一つの作業を終わらせてから次のタスクに取り掛かるようにすることです。
やることを分解すると、中途半端なやり残しや抜けを防ぎやすくなります。ただし、中には二つ以上のことを同時進行しなければいけない場面もあるので、周囲の人の協力も得ながら工夫して対策していくことが大切です。
マルチタスクができないと生活ができないわけではありません。しかし、できると生活面でも学習面でもスムーズなことが多いので、自分なりの原因と対策を知っておくとより快適に日常を送れるでしょう。
では、ADHD、ASDでなぜマルチタスクが苦手になるのかを解説していきます。
ADHDでマルチタスクが苦手になる理由
ADHDの主な特徴は、不注意・衝動性・多動性です。LDはADHDと合併しているケースが多くあります。ADHDの特性がマルチタスクの苦手につながる理由は、次のとおりです。
<不注意>
- 物事を整理したり優先順位をつけるのが苦手で、抜けや漏れが多い
- 興味がないことに取り組むのが苦手で、先延ばしにして忘れてしまう
<衝動性、多動性>
- 作業途中で別の情報が入ったり、別のことを思い付いたりすると気を取られて作業が終わらない
- じっとしていられないので作業に集中できない
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・ADHDで頭の中がごちゃごちゃする原因と脳内多動を静め整理する対処法
ASDでマルチタスクが苦手になる理由
ASD(自閉スペクトラム症/アスペルガー)の主な特徴は、想像力・社会性・対人関係の困難です。ASDの特性がマルチタスクの苦手につながる理由は、次のとおりです。
<想像力>
- 急な予定変更が苦手で、内容が変わったり別のタスクが横から入ってくるとパニックになってしまう
- こだわりが強く、手順通りに1つのことを終わらせなければ次の作業に移れない
<社会性・対人関係>
- 空気を読んだり雰囲気を感じることが苦手で、相手が求めていることに気づかず自分の仕事に没頭してしまう
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- 会話はASDの子ども達にとって難易度が高くとても混乱させるものです。
- ASD(自閉症・アスペルガー)では相手の立場にたって考えることが苦手でサポートが必要
発達障害で二つのことを同時にできない人はタスク管理が大切
発達障害で二つのことを同時にできない人でも、確実なタスク管理と周囲の人のサポートがあれば、解決に近づけることが可能です。
発達障害の特性による困り事は本人だけで解決できるものではないので、周囲の人のサポートは不可欠です。
周囲の人ができることは、
- 伝えたいことは一度に1つにする
- 伝えたいことが複数ある時は紙に書いて渡す
- 話しかける時はテレビなど周りの音を消す
- 本人が何かをしているときはなるべく話しかけない
このような伝え方の工夫をするだけで指示が理解しやすくなり、作業に集中しやすくなるので、当事者の困り感を減らすことにつながります。
発達障害でマルチタスクができない人の対策8選
発達障害(ASDや・ADHD)の特性によってマルチタスクが苦手な人におすすめの対策を8つ紹介します。
確実なタスク管理によってこれからやるべきことがすべてわかれば、やり残しをなくせます。確実にタスク管理を行うための対策としては、即座にメモをすることが必須です。
タスクが1つなら忘れなくても、2つ3つと増えたり、時間が経つと忘れてしまいやすくなります。それを防ぐためにはメモに残すことが最も有効です。
ただ、メモをする際にもいくつかポイントや注意点があります。具体的な対策を8つ挙げるので、参考にしてみてください。
対策1 ToDoリストを作り優先順位をつける
ToDoリストとは、やるべき作業をリスト化したものです。
リストにすることでやるべきことが可視化されて整理でき、優先順位をつけられます。
対策2 タスクは1つずつ片付ける
タスクは1つずつシングルタスクに分け、一度に1つのタスクにしか手をつけないようにします。
1つずつ終わらせていくことでタスクの抜けを防ぎながら、効率的に進められます。
対策3 すぐに手帳やスマホにメモをする
新しいタスクができたら、その場ですぐにメモをします。
タスクが2つ3つと増えたときに、記憶力だけに頼っていると収拾がつかなくなり抜けや漏れの原因になるので、すぐにメモに残すことが大切です。
対策4 メモやリストは1つの媒体で管理する
例えすべてのタスクをメモしてあっても、手帳、メモ帳、スマホなどバラバラの場所にメモがしてあったら、確認する場所もバラバラになり抜けが出てしまいます。メモをする場所は必ず1つに統一しておきます。
対策5 メモやリストはすぐに出せるようにしておく
忘れないように記録したメモやリストがすぐに出せない場所にあると、確認すること自体を忘れてしまいやすくなります。
また、新たにメモをしたいときにも、すぐに出せないとメモができないので、目に見える場所やすぐに出せるところに置くのがおすすめです。
対策6 周囲の人にタスクの進捗をチェックしてもらう
タスクを1つずつ片付けるようにしていても、途中で別のことを頼まれたりすると、今やっている作業を忘れて次の作業に移ってしまうことがあります。
また気をつけていてもメモをとり忘れてしまうこともあるでしょう。それを防ぐために、定期的に周囲の人に声をかけてもらう、リストのチェックをしてもらうなどの対策で、タスクのやり残しをなくせます。
対策7 タスクの整理だけをする時間を作る
やるべきことがたくさんあって忙しいときなどは、メモばかり溜まって何からやれば良いかわからなくなってしまうことがあります。
意識的にタスクを整理するだけの時間を作り、都度優先順位をつけて先の見通しを持ちながら作業を進めていけるようにします。
対策8 タスク管理ができるアプリやツールを使う
メモやリストは自分で作成しても良いですが、スマホのリマインダー機能やアプリを使う方法もあります。
また、最近では発達障害当事者のアイデアから開発されたタスク管理アプリもあり、ビジネス用、子ども用と用途に分けて作られているものも増えてきています。自分が一番使いやすいものを使用して、タスク管理をスムーズに行いましょう。
楽しくメモをするコツ
こまめにメモをすることが大事ということはわかっても、実際に習慣付けて行うのは慣れるまでは難しいかもしれません。メモを習慣付けるためには、メモ帳などのツールを選ぶときに3つのポイントがあります。
<メモ帳選びのコツ>
- 持ち歩くよりも身に付けるウェアラブルな物を使う
- 形や大きさ、罫線のタイプなどを自分好みの物にする
- 好きな色や見た目のかっこよさなど好みの物にする
自分が気に入ったデザインや使いやすい物を選択することが、メモを習慣付け続けていくための大事なポイントです。また、メモをとるときや、それを元にリストを作るときにも少し工夫をすることで一気に使えるメモになります。
<使えるメモにするコツ>
- 色分けして見やすくする
- 数字や記号、絵を使ってわかりやすくする
- 終わったタスクは消す
実際のメモのイメージです。自分が一番わかりやすいメモのとり方を探ってみましょう。
一つのことしかできない発達障害がある人の仕事の向き・不向き
発達障害がある人が将来仕事を探すときには、自分の持っている特性にあう仕事を選ぶことが、仕事を長く続けていくためのポイントになります。
マルチタスクが苦手なのにマルチタスクを必要とする仕事に就いても、うまくいきません。
ただ、持っている特性は一人ひとり違うので、マルチタスクが苦手な人にはこの仕事は向いていないと言い切れる訳ではありません。
実際の職場環境や仕事の内容は会社によっても違うので、就労移行支援サービスなどを利用して相談しながら決めることを推奨します。
向いているのは自分の判断で動ける職種
マルチタスクが苦手な人が向いているのは、自由度が高く、何かを作ったり表現をするクリエイティブ系の仕事です。
クリエイティブ系の仕事でも人との関わりはあり、期限などもありますが、比較的自分のペースでできてシングルタスクの積み重ねであることが多いので、マルチタスクが苦手な人も能力を発揮しやすい職種です。具体的な仕事はこちらです。
①カメラマン系
雑誌や記念撮影、テレビ番組や映画、CMやMVの撮影をするカメラマン、芸術性の高い写真を撮るフォトグラファーや写真家は、写真や動画を撮る仕事です。比較的自由度が高く、コミュニケーションを取ることも多くないので、発達障害がある人も多く活躍している分野です。
②料理人系
調理師、寿司職人、パン職人、パティシエ、料理研究家、野菜ソムリエなど、料理や調理に関する仕事です。料理はマルチタスクが必要とされる作業ですが、発想力が豊かでモノ作りが好きだったり、作業に没頭したりするタイプの人には向いている分野です。
③エンジニア系
システムエンジニア、Webエンジニア、プログラマーなど、専門的な知識やスキルを持つ技術者です。一定の規則性にこだわりがあり、深く追求することが得意なASDの人が多く活躍している分野です。
④アーティスト系
漫画家、ミュージシャン、スタイリスト、俳優、書道家など、自分で作った作品の魅力で勝負する仕事です。発達障害では、興味があることに強く能力を発揮しやすい人が多く、自分の興味があることを好きなように表現できるこの分野は、向いている人が多くいます。
不向きなのは人との関わりが多い職種
マルチタスクが苦手な人が向かない仕事は、事務作業やスケジュール管理が必要な仕事と、人との関わりが多い仕事です。
発達障害がある人の多くは、人とのコミュニケーションに苦手さがあります。そのため、多くの人と会話をする必要がある仕事はスムーズに行えずマルチタスクも必要とするので、不向きです。
ほかにも、長時間座っていられない、雑音や視覚刺激が多い場所では集中できないなど、人それぞれに努力ではどうにもならない特性があるので、職種だけでなく自分の特性にあう職場を探すことが大切です。具体的な仕事の例としては、以下のとおりです。
①接客業
アパレル店員、飲食店やコンビニ店員など接客や販売を主とする仕事です。
場の空気を読むことや、文脈や相手の表情などから意図を読み取ることが苦手な特性を持つ人は、スムーズにやりとりができず難しく感じるでしょう。
また、接客の仕事は臨機応変な対応やマルチタスクを求められる場面が多いことも、発達障害のある人が不向きな理由になります。
②コールセンター
テクニカルサポート、商品の注文や予約の受付、電話取次などの受信業務と、商品アポイント(営業電話)、アンケートや市場調査、アフターフォローなどの発信業務を行う仕事です。
電話対応は、相手の顔が見えない分より想像力を働かせる必要があり高難度です。中にはきっちりマニュアル化されていればできる人もいるので、職場ごとの状況を確認しておくことが大切です。
③事務系
一般、営業、経理、人事、総務など、事務と言ってもいろいろな種類があります。
書類の作成・処理・整理、データ入力、電話応対、来客応対、備品の発注や管理など業務内容は多岐に渡り、他部署や外部とのやりとりも多い仕事です。そのため、コミュニケーションやマルチタスクが苦手だと難しくなります。
また、長時間座っていることが苦手、不注意でケアレスミスが多い、デスクが片付けられないなどの特性の人や、文字の読み書きが困難な人にも不向きな仕事です。
特性は活かせれば将来の強みになる
発達障害があることで、特性によって生き辛くなってしまうことは多々あります。
しかし、自分にどういった特性があって、どのような工夫や対策でストレスなくスムーズになるかがわかれば、特性を強みに変えることも可能です。
- ルーティン化された仕事ならミスなくできる
- 一点集中型なので一つの仕事なら誰よりも完璧に仕上げられる
- 一度見たものは忘れないのでチェック作業やピックアップは得意
など、特性を良い方向に活かして仕事をしている人は大勢います。
ただし、それは本人の努力だけで叶うことではありません。困り事を減らして日常生活がスムーズに送れるように周囲が適切にサポートを行うことで、生き辛さをなくし、自分に自信を持って能力を生かせるようになります。
脳を育てる運動療育が、発達障害によるマルチタスクの苦手を軽減
私たち「こどもプラス」が提供している運動療育プログラムは、運動によって体を鍛えるだけでなく、発達障害を抱える子ども達の脳を効率的に育てます。
子ども達がこれから社会の中で生きていくためには、学力、人間関係の構築、自立して生活する力など非常に多くの能力が必要になりますが、これらはすべて脳が司っています。つまり、脳の機能を高めればできることが増え、マルチタスクをはじめ、脳機能障害である発達障害の子ども達の苦手をも軽減させられます。
私たちが行なった実験で、楽しい運動遊びが発達障害の子ども達の脳機能改善に効果的だということがわかっています。
前頭前野背外側部の活動に関する実験はこちらの記事をご覧ください。
マルチタスクの力を育てる運動遊びのご紹介
2つのことを同時に進める、マルチタスクの力を育てる運動遊びのご紹介です。
体を動かすことは、脳を鍛えることに直結します。しかも楽しく体を動かすことが一番のポイントなので、私たちは運動遊びを子ども達に提供しています。
今回は、私たちの運動療育プログラムの中から運動遊びを1つご紹介します。
<前後カンガルー>
①2つの椅子にゴム紐をくくりつけて、高さのある障害物を設置します。
②このゴム紐を、両足ジャンプで跳び越します。
③指導者の「前」「後ろ」の指示にあわせてジャンプを繰り返します。
ポイントは
- ゴム紐に当たらないこと
- 両足を揃えて跳ぶこと
- 腕を振って一定のリズムで跳ぶ
ことです。
繰り返し前後に跳ぶことで、体幹の腹筋背筋や足の指先の踏ん張り力が養われ、まっすぐ速く走れるようになります。
慣れてきたら、レベルアップとして前後の指示をランダムにしたり左右の指示も混ぜて行うと、より考えながら動く力が必要になるので、2つのことを同時に行う力や、集中力、判断力も強く育てられます。
また、考えながら動く力が育つと感情コントロール力も高まるので、感情コントロールが苦手な発達障害のある子ども達にはとてもおすすめです。
<マルチタスク・同時進行力アップに役立つ記事>