ASDの子どもは独り言が多い?ずっと喋っている3つの理由とうるさい時の対処法
発達障害の中でも、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の人は独り言が多いと言われます。ずっと喋ってる人や話が止まらない人 、自分の話ばかりをする人もいます。
独り言は障害の有無に関わらず誰でもこぼしてしまうものですが、一般的には一人でいるときに言い、人前では控えるものです。
しかし、ASDの中には場面に合わせて臨機応変な行動をすることを苦手とする人がいます。場の空気を読むことや相手の気持ちを考えることも苦手なため、公共の場や静かにしなければいけない場面でも独り言を言ってしまう傾向があります。
また、同じことを繰り返す常同行動や、考える前に反射的に言葉が出てしまうなどの独り言を言いやすい特性も持っています。
独り言は、例え小さな声だったとしてもずっとしゃべっていたり場にそぐわない内容だったりすると耳につきやすく、周囲の人から「うるさい」と思われてしまうこともあるでしょう。「なにかの病気なのでは?」と心配されるかもしれません。
今回の記事は、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の人に独り言が多くなる理由と独り言をコントロールするための対策、また周囲の人ができるサポート方法も詳しくお伝えしていきます。
ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)とは
ASDとは、対人関係やコミュニケーションの困難さ、強いこだわりがあるのが特徴の発達障害です。
以前は、自閉症・アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)、広汎性発達障害など色々な名前で呼ばれていましたが、アメリカの精神医学会が発行している精神疾患の診断・統計マニュアル「DSM」が2013年に改訂され、「自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症」に診断名が統一されました。
「スペクトラム」とは連続体という意味を持ちます。これまで分けていた障害の特徴はそれぞれにオーバーラップすることがあり、明確に境界線を引くことが難しいことからこの言葉が使われるようになりました。
国内でのASD有病率は5歳児において3.22%であることがわかっており、傾向がある子も含めるとさらに高い確率になります。また、ASDの88.5%はADHD(注意欠如多動性障害)、DCD(発達性協調運動障害)、ID(知的障害)といった他の障害との併存があり、丁寧な関わりが必要であることがわかります。
(参照:5歳における自閉スペクトラム症の有病率は推定3%以上であることを解明|弘前大学大学院医学研究科)
3歳頃までに現れる、アスペルガー症候群の特徴
発達障害は先天性ですが、発達の過程でわかってくる障害です。
中でもASDやアスペルガー症候群は身近な大人が違和感に気付きやすく、早い子では1歳半健診で可能性を指摘されることもあります。
ASD・アスペルガー症候群がある子に現れる特徴は、以下の2つがあります。
- 対人関係・コミュニケーションの障害
- 行動・興味の偏り
それぞれ、具体的にどんな特徴として現れるのか説明します。
対人関係・コミュニケーションの障害
相手の立場に立って考えることや場の空気を読むことが苦手なため、人間関係がうまく築けません。また、指差しや目配せ、ジェスチャーなど言葉以外を使ったコミュニケーション、曖昧な表現も理解が難しく苦手です。
具体的な特徴は、
- 人と目を合わせない
- 同年代の子と遊ぶことを好まず1人遊びが多い
- 話しかけられたことに合う返事ができない
- 例え話や比喩表現、冗談がわからない
- 暗黙のルールがわからない
- 思ったことを言って相手を不快にさせてしまう
などが挙げられます。
関連記事:ASDでもADHDでもコミュニケーション面の苦手さがあります。
行動・興味の偏り
同じことを繰り返す常同的もしくは反復的な行動が見られ、同一性への強いこだわりがあります。興味の範囲は狭く偏っていて、知識も広く浅くではなく狭く深くなります。
具体的な特徴は
- クルクル回る、手をヒラヒラさせるなど同じ行動を繰り返す
- 物の配置はいつも同じでなければいられない
- 同じ場所、同じ道順、同じ手順などに強くこだわり、変化を嫌う
- 急な予定変更に対応できず、活動の切り替えも苦手
- 図鑑の内容や電車の時刻表、物の品番など興味を持つとすべて覚えてしまう
対人関係・コミュニケーションの困難と行動・興味の偏りから現れるこれらの特徴が、なぜ独り言の多さにつながるのでしょうか。
関連記事:自閉症の子どもが急な予定変更でパニックになる原因と3つの対処法
ASD・アスペルガー症候群に見られる独り言の特徴をチェック
対人関係やコミュニケーションに苦手さがあるASD・アスペルガー症候群の人は、スムーズな会話が苦手です。
会話をしようと思っても自分が言いたいことだけを話し続けたり、知識をひたすら羅列したりと一方的なおしゃべりになってしまいがちです。
人との会話は難しい一方で、独り言は多くなる傾向があります。周囲を気にする様子もなくいつもブツブツ何かを言っている、話している話題と違う内容のことを突然口にするなど、周囲からすれば驚いたり不思議がられたりするかもしれません。
場合によっては、無意識に発した独り言により、統合失調症のような病気(精神疾患)ではないかと思われることもあるでしょう。なお、統合失調症とASDの発症メカニズムは、一部重なっており、両者の関係性が深いことは認められているようです。
参考:自閉スペクトラム症と統合失調症:2つの精神疾患における発症メカニズムのオーバーラップを発見!―ゲノム医療への展開に期待―|国立開発研究法人 日本医療研究開発機構
また、ASDの二次障害として統合失調症が発症することもあります。しかし、ASDの人は考えていることや周りの声や話を反射的に口に出して独り言を発してしまうのに対して、統合失調症は妄想や幻聴に呼び返す独り言である点に、違いがあります。
では、なぜASDの人は独り言が多くなるのでしょうか。その理由を解説します。
ASD(自閉症・アスペルガー)で独り言が多い3つの理由
ASDの人に独り言が多い理由は以下の3つです。
- 同じことを繰り返している
- 周囲の音や発言に反応している
- 頭に浮かんだことをそのまま口に出している
独り言が止まらず、ずっと喋っていることもあります。それぞれ具体的にどういった様子なのか、見ていきましょう。
1.同じことを繰り返している
同じことを繰り返す常同行動の特性によって、お気に入りの言葉を場面問わず繰り返すことがあります。
お気に入りの言葉になるのは、
- 発語しやすい言葉
- リズムや語感が心地よい言葉
- 過去の良い思い出と結びつく言葉
などがあります。
ほかにも、何か情報を得たときに忘れないようにするため、または、理解できないことがあったときに理解しようとして繰り返すことがあります。
ASDの人の多くは、好きな言葉を繰り返すことや不安を口にすることで安心感を得ているので、独り言が習慣化しやすくなります。
2.周囲の音や発言に反応している
不意に外から聞こえてきた電車の音や音楽などに反応して、そこから連想される言葉を所かまわず言ってしまうことがあります。
また、ほかの人の発言を聞いているときに興味を引く言葉があったり、理解が難しい言葉があったりすると、それをなぞって言うこともあります。
相手に伝えようと思っていなくても、思ったことを反射的に言ってしまうため、独り言が多くなります。
関連記事:自閉症児では音に敏感な子が多く、対応策を考えることも必要になります。
3.頭に浮かんだことをそのまま口に出している
目に入ってきたものを端から言う、自分の行動の流れを確認するために言う、思考や作業の進行状況を実況するなど、見たものや感じたこと、考えていることなどをそのまま口に出してしまいます。
今目にした物や頭に浮かんできたことは、多くの人は頭の中で思うだけで声に出して言いません。しかし、ASDの人は今はしゃべって良い場面なのか、これは言うべきことなのかなどを考えるよりも先に口にしてしまうので、独り言の多さにつながっています。
関連記事:会話が噛み合わない原因はアスペルガー症候群?その特徴と改善法を解説
ASD(自閉症・アスペルガー)で独り言が多い子への対処法
独り言がいけない訳ではありませんが、電車やバスの中、学校の授業中、職場など静かにしなければいけない場面ではできるだけ控えたいものです。
中には、独り言を言うのにふさわしくない場面だということを伝えることで、独り言を抑えられる場合もあります。
しかし、独り言は脳の特性よるものなので多くの場合は簡単にやめられないでしょう。そこで、本人も周囲も不快にならないように適切な対応で支援していくことが大切です。
まずは周囲がどのように支援をしていけば良いのか、お伝えします。
独り言は無理にやめさせない
ASDの人は、独り言を言うことで不安を払拭したり思考を整理したりしているので、やめられない人も多くいます。無理にやめさせようとすると、ストレスが大きく精神的な負担になるので、決して無理にやめさせてはいけません。
少しずつ対処法を身につけて、社会生活を送っていく上でできるだけ支障を減らしていけるようにサポートしていきましょう。ここでは3つの対処法を紹介します。
声のトーンを抑える
シンプルに、独り言の声を小さくします。ただ「声を小さくして」と言っても、ASDの人は曖昧な表現を理解するのが苦手なため、「小さく」がどのくらいの声なのかが分かりません。ASDの人の多くは視覚からの情報が理解しやすいので、紙に5段階の表などを書いて音量調節ができるように練習する方法がおすすめです。
関連記事:ASDでは独り言が多く声量調整が難しいので繰り返し教えていきます。
話しても良い時間・場所を決める
独り言を言っても良い時間や場所を決めて、その範囲内でコントロールできるようにしていきます。最初のうちはコントロールが難しいかもしれません。
しかし、「時計の針が1になったらお話ししてもいいよ」や「声に出して言うときは、隣の部屋に行って言おうね」など無理のない範囲で繰り返していくことで、少しずつ身につけていきます。
興味を引くことで気をそらす
病院の待合室など、どうしても静かにしていなければいけない場所では、子どもの興味を引くことで独り言をストップさせるのも有効な方法です。
その子が好きなおもちゃや音楽など興味を引くもので気をそらせてあげると、安心して座って待つことができます。これは、思考が変わることで一旦独り言をやめられるためです。
場面によってこの3つの方法を使い分けたり組み合わせたりしながら、効果的な支援方法を見つけていきましょう。
ASD(自閉症・アスペルガー)の独り言をコントロールする対策
ASD(自閉症・アスペルガー)の独り言をコントロールする対策を3つ紹介します。
- 過集中を避ける
- 周囲の人に指摘してもらう
- 思考を整理するメモを使用する
ポイントは、独り言を言いやすくなる状態を避けることです。
子どものうちは本人の努力だけでは難しいので、大人がサポートしながら一緒に取り組んでいきましょう。
過集中を避ける
ASDでは、物事に過度に集中しすぎる過集中の特性を持つ人が多くいます。過集中の状態では、目の前のことに集中しすぎて周りが見えなくなるのでどうしても独り言を言いやすくなります。
- 好きなことに取り組むときにはタイマーをかける
- 家族に声をかけてもらうように頼んでおく
などの方法で過集中にならないように意識していくと良いでしょう。
周囲の人に指摘してもらう
無意識のうちに独り言を言ってしまっているときには、周囲に「独り言言ってるよ」と指摘してもらうのも良いかもしれません。学校なら、事前に先生や近くの席の友達に頼んでおくことでまずは独り言に気付けるようにしてみましょう。
思考を整理するメモを使用する
作業の手順や行動の流れなど、頭の中で整理したいことはメモ用紙などに書き出すようにします。書くことで視覚的になり、理解しやすくなるメリットもあります。
ほかにも、気になったことやそのときの感情などをメモしておくと自分の思考や行動の傾向がわかったり、書くことで気持ちの整理ができたりするので、口に出さずに済むこともあります。
すぐに独り言をコントロールできるようになるのは難しいですが、根気良くサポートしてあげることでその子にあう方法が必ず見つかります。まずは1つずつ試してみてください。
発達障害で独り言が多い人には運動遊びがおすすめ
発達障害で独り言が多い人には、運動を取り入れた療育活動をおすすめします。
私たち放課後等デイサービスの教室を運営する「こどもプラス」では、運動遊びによる運動療育を主軸に提供しています。
運動遊びは体を鍛えるだけでなく、指導者の話を聞く時間、友達と相談をする時間、準備や片付けの時間などがあり、社会性やコミュニケーション能力を育てることにも長けています。
運動遊びの中で、ルールを守り良好な人間関係を築くための社会性やコミュニケーション能力が育つことで、独り言のコントロールもできるようになっていきます。
今回は、私たちが提供している運動遊びの中から「横跳びカップタッチ」を紹介します。
〈遊び方〉
- 赤・青・黄など複数の色のカップを間を空けながら2列に並べます。
- 両足をくっつけて跳ぶカンガルージャンプで、カップをタッチしながら進んでいきます。
- 横にジャンプをするためには、腕振りを連動させることが必要です。
- 慣れてきたら、タッチするカップの色を指定して挑戦してみましょう。
カップにタッチすることに気を取られると、ジャンプがおろそかになってしまいます。その場合は、カップタッチは無しで横ジャンプを重視して行いましょう。
カンガルージャンプは、「こどもプラス」のインスタグラムで紹介しています。動画付きの分かりやすい解説なので、よければご確認ください。
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生活の支障を減らし得意を伸ばす「こどもプラス」の運動療育
社会性や対人関係、コミュニケーションの面で困難さが多いASDでは、何もサポートがない状態で生活を送っていくことはとても生きにくく辛いものです。
独り言と同じように自分ではコントロールが難しいこと、理解できないことや耐えられないほど苦手なものも数多くあります。
発達障害を持つ子ども達が自分らしく伸び伸びと成長していき、今後豊かな人生を送っていくためには、こうした困り事、生き辛さをできるだけ早い段階でなくし、子ども自身が本来持っている能力を最大限に発揮できるような支援が必要です。
そのための足がかりとして、こどもプラスでは運動療育を用いて、子ども達の心・体・脳の総合的な発達を促していきます。
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