前頭前野を発達させるには?こどもの可能性を最大限に引き出そう!

前頭前野を発達させるには、運動あそびを通じたアプローチが効果的とされています。
「集中力が続かない」「感情のコントロールが苦手」といった特性は「前頭前野」という脳の部位と深く関係しています。
この領域は「脳の司令塔」とも呼ばれ、お子さんの将来の学習能力や社会性、そして人生の豊かさを左右する重要な役割を担っています。
前頭前野を発達させるには、お子さんの発達段階に応じた適切な方法を選ぶことが大切です。
本記事では、お子さんの可能性を最大限に引き出すための具体的な方法をお伝えします。
今すぐ始められる!前頭前野を育てる運動あそび
前頭前野を発達させるには、「楽しく身体を動かしながら脳に適度な負荷をかける」運動あそびが効果的な方法の一つです。
私たちが長年の研究と実践を通じて開発したい運動療育プログラムは、お子さんが夢中になって遊んでいるうちに、自然と前頭前野の重要な機能である「抑制力」「注意力」「判断力」を育てることができます。
幼児向け「スタート&ストップ」あそび
「動く」と「止まる」の切り替えにより、前頭前野の抑制機能を効果的に鍛える基礎的なあそびです。
このあそびは、前頭前野が担う「GO・NO-GO」という重要な機能(何かをする・しないを瞬時に判断する力)を楽しみながら育成できます。
基本のあそび方
- スタートの合図で、自由に動き回りましょう(言葉や手の動作など、お子さんが分かりやすい方法で)
- ストップの合図で、ピタッと止まりましょう
動くと止まるのメリハリを大切にし、特に「止まる時にピタッと止まる」ことがポイントです。
足の指先まで意識して止まることで、身体コントロール力も同時に向上します。
発展バージョン:ポーズ付きストップ
慣れてきたら、止まる時に指定したポーズを取るように発展させましょう!
- 「ストップ!」の合図で止まった後、「ライオンのポーズ」「しゃがんでカエルさん」など、具体的な動きを指示
- 大人や友達の動きを真似することで、観察力と模倣力も育ちます
- 大切なのは「じっと我慢する時間」も作ることです。すぐに次の動きに移るのではなく、時には静かに待つ時間も設けることで、集中力と自制心を養います
この運動あそびは、「止まる瞬間の我慢」が前頭前野の抑制機能を直接的に鍛えます。
日常生活での「待つ」「我慢する」といった場面でも変化が現れることが多いのです。
小学生向け「カンガルー色鬼」
複数の認知機能を同時に使いながら楽しく身体を動かすことで、前頭前野の総合的な発達を促すあそびです。
このあそびでは、聞く力、考える力、瞬発力、そして身体をコントロールする抑制力を同時に鍛えることができます。
あそび方
- 逃げる人:両足を揃えたカンガルージャンプで移動します
- 鬼役:「トマトの色!」「空の色!」など、色を指定して追いかけます
- ルール:逃げる人は、鬼が言った色を触ることで捕まらなくなります
- タッチされたら鬼と交代しましょう
なぜ前頭前野に効果的なのか
このあそびが特に効果的な理由は、複数の課題を同時に処理する必要があることです。
お子さんは以下のことを同時に行う必要があります。
- 鬼の言葉を注意深く聞く(注意機能)
- 「トマトの色=赤」のように言葉を理解・変換する(理解・推論機能)
- 素早く周囲の色を探す(視覚的注意・判断)
- 興奮していても足を揃えてジャンプする(身体制御・抑制機能)
最初はバラバラに走ってしまうこどもたちも、継続することで「焦っていても正しい動きを維持する力」が向上します。
これは前頭前野の抑制機能が鍛えられている証拠で、学習場面での集中力向上にも直結する重要な能力です。
小学生向け「口パクジェスチャー」
集中力と相手を理解しようとする気持ちを同時に育てる、コミュニケーション能力向上にも効果的なあそびです。
この活動は前頭前野の中でも特に、注意の持続と相手の気持ちを推測する「心の理論」の発達を促します。
あそび方
- 大人が口パク(声を出さずに口の動きだけ)とジェスチャーで言葉を伝えます
- いつもより大きな口の動きと、分かりやすいジェスチャーを心がけます
- お子さんたちは答えが分かっても、指名されるまで黙って待ちます
発達への効果
- 共感力:相手の言っていることを理解しようと努めることができる
理解力:口の動きやジェスチャーをヒントに相手の言っていることを理解しようとする
集中力:しっかりと相手の口や動きを見ることができる
このあそびを通じて「相手の話を最後まで聞く」「順番を待つ」といった社会性を育てます。
前頭前野は社会性とも深く関わっているため、このような複合的な効果が期待できるのです。
運動あそびによる前頭前野の発達は、楽しみながら継続できることが最大の利点です。
これらのあそびは、お子さんの年齢や発達段階に応じて調整しながら、ご家庭でも気軽に取り入れていただけます。
前頭前野を発達させるには、継続的な運動あそびの実践が重要です。
次は科学的なメカニズムについて詳しく解説していきます。
前頭前野発達の科学的メカニズムとは?
前頭前野を発達させるには、その成長メカニズムを正しく理解することが重要です。
前頭前野の発達は、なんと25歳ごろまで続く長いプロセスです。
この前頭前野は、脳の中でも特にゆっくりと育っていく部分で、4歳ごろに神経細胞同士のつながり(シナプス)が最も多くなります。
その後は、私たちがどんな経験をするか、どんな環境にいるかによって、「よく使うつながり」は残され、「あまり使われないつながり」は取り除かれていきます。
この過程は「シナプスの刈り込み」と呼ばれ、脳をより効率的に働かせるためにとても大切な作業です。
生まれたときの脳には、使われるかどうかわからないたくさんの神経のつながりがあります。
その中から、本当に必要な回路だけを残すためには、「実際にその神経を使うこと」がとても重要です。
この整理作業の背後では、「Arc遺伝子」や「細胞の中のカルシウムの動き」といった、分子レベルでの細かいしくみが関わっています。
私たちが経験すること一つひとつが、脳の形をつくっていくのです。
思春期の脳の特別な状態
思春期は前頭前野発達の「第2感受性期」と呼ばれる特に重要な時期です。
この時期に注目すべきなのは、脳の発達の“アンバランスさ”です。
報酬を求めて「やりたい」「楽しい」と感じる脳の部分(報酬系)や、
怒りや不安などの感情を強く感じる部分(扁桃体)は、
思春期ごろにはすでに大人と同じくらいのレベルにまで発達しています。
一方で、それらの感情や欲求をコントロールする役割を担う「前頭前野」は、まだ発達の途中にあります。
このため、感情が高ぶったり衝動的な行動をとったりしやすくなるのです。
これは車に例えると、「アクセルは大人並みに強力なのに、ブレーキがまだ発展途上」という状態です。
そのため、思春期のお子さんに見られる衝動的な行動・感情的な反応・リスクを伴う行動などは、
単なる「反抗」ではなく、脳の発達上の自然な特性なのです。
私の考えでは、この脳の発達特性を正しく理解することで、思春期のお子さんへの関わり方を根本的に改善できると思います。
「なぜそうなるのか」が分かれば、感情的に叱るのではなく、前頭前野の発達を促すような具体的なサポートができるようになります。
前頭前野の発達が25歳頃まで続くという事実は、成人になってからも脳の改善が可能であることを意味し、「今からでも遅くない」という希望を与えてくれる重要な発見でもあります。
前頭前野を発達させるには、その成長メカニズムを理解した上で、年齢に応じた適切なアプローチを選択することが不可欠です。
次に、具体的な年齢別の発達アプローチについて詳しく見ていきましょう。
年齢別!前頭前野発達アプローチ
前頭前野を発達させるには、お子さんの年齢に応じた最適なアプローチを選択することが成功の鍵となります。
前頭前野の発達段階に応じたアプローチにより、各年齢で最も効果的な刺激と環境を提供することができます。
お子さんの脳は年齢によって発達の特徴が大きく異なるため、その時期に最も適した方法を選ぶことが、効率的な成長につながります。
0-5歳:基盤づくりの大切な時期
この時期は前頭前野の「土台作り」の期間です。
0歳ではほぼ未発達だった前頭前野が、3歳頃から急激に発達し、神経のつながりがピークに達します。
この時期に重要なのは、豊富な体験と社会的な関わりです。
おすすめの取り組み
- 「見る・聞く・真似する」あそび:大人の動きや表情を真似することで、基本的な認知機能が育ちます
- 砂場あそびや水あそび:感覚をフルに使ったあそびが脳に豊富な刺激を与えます
- 他のお子さんとの交流:社会的経験の不足は前頭前野の発達を妨げる可能性があるため、お友達とのあそびを大切にしましょう
この時期に多様な感覚体験と温かい人間関係を経験したお子さんほど、その後の学習や社会性の基盤がしっかりと育つ傾向が見られています。
「三つ子の魂百まで」ということわざがありますが、脳科学的にも非常に理にかなった言葉だと実感しています。
6-12歳:実行機能がぐんぐん育つ時期
学童期には前頭前野が担う「実行機能」(計画を立てる、問題を解決する、感情をコントロールする)が本格的に発達します。
この時期は「頭で考えて身体を動かす」活動が効果的です。
効果的な運動あそび
- 先ほどご紹介した「カンガルー色鬼」や「口パクジェスチャー」
- 鉄棒・縄跳び・ジャンプあそび:身体をコントロールしながら目標を達成する経験が前頭前野を刺激します
- 鬼ごっこの発展版:ルールを覚えて守りながら身体を動かすことで、複数の脳機能が同時に鍛えられます
学習面での工夫
- 計画を立てる練習:宿題の順番を自分で決める、週末の予定を一緒に考えるなど
- 失敗から学ぶ体験:うまくいかなかったときに「どうすればよかったかな?」と一緒に振り返る
この時期に様々な習い事や活動を組み合わせることもおすすめです。
特にピアノは、楽譜を読む、指を動かす、ペダルを踏むなど、複数のことを同時に行うため、前頭前野を効率的に鍛えることができます。
13-18歳:感情と理性のバランスを学ぶ時期
思春期の前頭前野は「感情のコントロール」と「将来を見据えた判断」を学ぶ重要な時期です。
先ほどお話しした通り、この時期は感情が先走りやすい脳の状態にあるため、感情を客観視し、コントロールする方法を身につけることが大切です。
効果的なアプローチ
- マインドフルネス(mindfulness)の実践:自分の感情や思考を客観的に見つめる習慣が、前頭前野の活性化と扁桃体(感情中枢)の鎮静化に効果的
- 将来について話し合う時間:短期的な欲求と長期的な目標のバランスを考える練習
- リスクについての対話:禁止するだけでなく、なぜリスクがあるのかを科学的に説明し、自分で判断する力を育てる
思春期は確かに難しい時期ですが、この時期の適切なサポートが、将来の自立した大人への重要なステップとなります。
感情的に対立するのではなく、脳の発達段階を理解した上で、温かく見守りながら必要なサポートを提供することが大切です。
成人期:生涯にわたる維持・向上
前頭前野は20-25歳頃で成熟しますが、その後も適切な刺激により機能を維持・向上させることができます。
大人になってからも「脳トレ」は決して遅くありません。
継続的な取り組み
- ワーキングメモリトレーニング:1日20分程度の記憶課題で前頭前野の体積が実際に増加することが研究で確認されています
- 有酸素運動:ウォーキングなどの軽い運動でも前頭前野の血流が向上し、機能アップにつながります
- 新しいことへの挑戦:楽器演奏、外国語学習、料理など、脳に適度な負荷をかける活動
前頭前野を発達させるには、年齢に応じた適切な方法を選ぶとともに、運動以外の生活面からのサポートも重要になります。
次に、睡眠や栄養などの総合的なアプローチについて詳しく解説していきます。
運動以外のサポート:生活全体で前頭前野を育てよう
前頭前野を発達させるには、運動あそびに加えて生活全体の質を高めることが重要な要素となります。
運動あそびに加えて、質の良い睡眠、バランスの取れた栄養、そして適切な環境。
これらの要素は互いに影響し合い、総合的なアプローチによって最大の効果を発揮します。
睡眠は前頭前野の「充電時間」
質の良い睡眠は、前頭前野が日中に蓄積した疲労を回復し、翌日の活動に備えるための大切な時間です。
睡眠不足が続くと、特に前頭前野の機能が低下しやすく、集中力や判断力、感情のコントロールに影響が現れます。
お子さんの睡眠を改善するコツ
- 朝の光浴:起床後すぐに太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の自然な眠気につながります
- 夜は照明を暗めに:就寝1時間前からは間接照明に切り替え、眠りを促すメラトニンの分泌を助けましょう
- 入浴のタイミング:就寝1-2時間前のぬるめの入浴で体温を一度上げ、その後の体温低下により自然な入眠を促します
睡眠リズムが整うと、日中の集中力や感情の安定性が向上します。
これは、大人でも実感したことはあるのではないでしょうか?
睡眠は単なる休息ではなく、前頭前野の「メンテナンス時間」と考えることが大切です。
栄養で脳の材料をしっかり供給
前頭前野の健全な発達には、脳の構成要素となる栄養素をバランス良く摂取することが必要です。
特に重要な栄養素をご紹介します。
前頭前野に特に重要な栄養素
- DHA・EPA(青魚に豊富):脳細胞を柔軟にし、情報伝達を活発にします(サーモン、マグロ、イワシなど)
- タンパク質:神経伝達物質の材料となります(肉類、魚類、卵、大豆製品)
- ブドウ糖:脳の唯一のエネルギー源です(玄米、オートミール、バナナなど)
- ビタミンB群:神経伝達物質の合成に必要です(全粒粉パン、卵、魚、大豆製品)
特に朝食でのブドウ糖補給は重要です。
睡眠中も脳はエネルギーを消費し続けるため、朝には脳のエネルギーが不足状態になっています。
質の良い炭水化物をしっかり摂ることで、前頭前野が1日を通じて良好なパフォーマンスを発揮できるようになります。
環境を整えよう:適度な刺激と安心感のバランス
前頭前野の発達には、適度な挑戦と安心できる環境のバランスが大切です。
ストレスが少なすぎても多すぎても、健全な発達を妨げる可能性があります。
理想的な環境づくり
- 適度なチャレンジ:お子さんがちょっと頑張れば達成できる程度の課題を用意
- 失敗を受け入れる雰囲気:うまくいかなくても「次はどうしようか」と一緒に考える姿勢
- デジタルデバイスの適切な管理:過度の使用は前頭前野の疲労や発達の妨げとなる可能性があります
お子さんが「安心して挑戦できる環境」を作ってあげることが大切です。
前頭前野は、安心感がある中で適度な刺激を受けることで最も効率的に発達するからです。
デジタル時代の注意点
現代のお子さんは、スマートフォンやタブレット、ゲームなどのデジタルデバイスに囲まれて成長しています。
適切に使えば学習ツールとして有効ですが、過度の使用は前頭前野に「情報過多による疲労」を引き起こす可能性があります。
デジタルデバイスとの上手な付き合い方
- 使用時間の管理:年齢に応じた適切な時間制限
- 就寝前は使用を控える:ブルーライトが睡眠の質を低下させるため
- リアルな体験を優先:デジタルな刺激だけでなく、実際に身体を動かしたり、人と関わったりする時間を大切に
前頭前野の発達は、運動だけでなく、睡眠、栄養、環境といった生活全体の質によって左右されます。
どれか一つを完璧にするよりも、全体的にバランスの取れた生活を心がけることで、お子さんの前頭前野を健全に育てることができるのです。
前頭前野を発達させるには「特別なことをする」のではなく、「日常生活の質を高める」ことから始まります。
運動あそびで楽しく身体を動かし、しっかり眠り、バランス良く食べ、愛情に満ちた環境で過ごす。
そんな当たり前のことを丁寧に積み重ねることで、お子さんの可能性は大きく花開いていくのです。
お子さんの前頭前野を育てることは、将来の学習能力、社会性、そして人生の豊かさを育てることです。
一歩ずつ、お子さんのペースに合わせて取り組んであげてください。
本記事では発達方法を中心にお伝えしましたが、「前頭前野の基本的な働きや仕組みをもっと詳しく知りたい」という方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
前頭前野とは?場所・働き・発達障がいとの関係を分かりやすく解説
こどもプラスの放課後等デイサービスでは、運動あそびを通じて前頭前野を含む脳の発達を促しながら、こどもたちが安心して自分らしく成長できる環境づくりを大切にしています。
「今のやり方で良いのかな」「他にどんな工夫ができるだろう」といった日々の小さな疑問や心配事も、遠慮なくご相談ください。
お子さんのためにご家庭でできることや、私たちができるサポートを一緒に考えていきましょう!