運動療育のサーキットとは?こどもの成長にどんな効果があるの?

運動療育のサーキットは、感覚統合理論とSPARK理論という科学的な根拠に基づいて、お子さんの体、頭、心の成長を総合的にサポートする療育手法です。
単なる運動ではなく、脳の神経回路を強化し、感覚処理能力を向上させ、社会性を育むアプローチの一つとして注目されています。
サーキットは、お子さんの「心と脳の発達を支える手段」として、科学的な根拠に基づいて行われる運動療育です。
この記事では、運動療育のサーキットがどんなものなのか、お子さんにどんな良いことがあるのかを、分かりやすくお話しします。
運動療育のサーキットって、どんなことをするの?
運動療育のサーキットとは、いくつかの運動を順番にやっていく活動のことです。
例えば、お祭りの縁日で色々な屋台を回るように、色々な運動コーナーを順番に体験していきます。
この活動の最も大切な特徴は、前庭覚、固有覚、触覚、聴覚、視覚といった五感を同時に刺激することで、感覚統合の促進を図ることです。
感覚統合は、脳が様々な感覚情報を効率的に処理し、整理する能力のことで、お子さんが周囲の環境に適応し、適切な行動を取るために欠かせない力です。
具体的には、以下のような感覚を刺激します。
- 前庭覚:バランス感覚や体の動きを感じる力で、ブランコや回転運動で刺激されます → 「今、体が傾いてる」「回っている」と感じる力です
- 固有覚:筋肉や関節からの情報で体の位置を知る力で、ジャンプや押す・引く運動で育ちます → 目を閉じても「手がどこにあるか」「足がどう曲がっているか」が分かる力です
- 触覚:皮膚で感じる感覚で、色々な素材や質感に触れることで刺激されます → 「ふわふわ」「ざらざら」「つるつる」を感じ分ける力です
- 聴覚:音を聞き取る力で、先生の声や音楽によって刺激されます → 大きな音の中でも先生の声を聞き分けたりする力です
- 視覚:目で見る力で、目標物や周りの環境を見ることで刺激されます → たくさんのものがある中で、必要なものを見つける力です
一つのお部屋の中に、例えばトランポリンのコーナー、バランスボールのコーナー、マットで転がるコーナーなどがあって、お子さんは自分のペースでそれぞれを体験していきます。
これらの複数の感覚を同時に刺激するように工夫されているのが、運動療育サーキットの大きな特徴です。
なぜ運動が脳と心の発達に良いの?感覚統合理論の科学的根拠
運動療育のサーキットには、しっかりとした科学的な根拠があります。その中心となるのが「感覚統合理論」です。
この理論によると、運動を通じて複数の感覚を同時に刺激することで、脳が広範囲にわたって活性化されます。
特に、身体の動きや位置に関する感覚、バランス感覚が向上し、結果として姿勢の安定性が養われるとされています。
感覚統合については、以下の記事で詳しく解説しています。気になる方は、こちらもご参考にしてください。

次に、具体的なサーキットの活動内容をご紹介します。
どんな運動をするの?サーキットの具体的な活動内容
運動療育のサーキットでは、お子さんの年齢や発達段階に合わせて、様々な運動を組み合わせて行います。
小さなお子さん(未就学児)の活動例
小さなお子さんには、通常3~4個の工程を組み合わせた短いコースで、飽きずに楽しめるような工夫がされています。
- グーパーグーパー:輪からはみ出ないようにジャンプする
- 段ボールキャタピラー:四つ這いで段ボールの中を進む
- トランポリン:両足でジャンプして輪の中に着地する
- マットの上をコロコロ:マットの端から端まで転がる
小学生以上のお子さんの活動例
小学生以上には、より多様で複雑な要素が組み合わされます。
- 頭でお手玉運び:バランスを取りながら頭にお手玉を乗せて運ぶ
- けん玉:日本の伝統的なあそび
- ケンケンパ:輪の位置に合わせて跳ぶ
- マット運動:前転などを行う
- カップタワー:見本と同じように色や位置を合わせてカップを積む
こどもプラスのプログラム例:「カエルさんサーキット」
こどもプラスの放課後等デイサービスで実際に提供されている運動療育プログラムから、「カエルさんサーキット」をご紹介します。
このサーキットでは、「カエルジャンプ」を基本として、3つのステーションを順番に回ります。
足をがに股に開いてしゃがみ、手の指をパーに開いて床について、手足同時にジャンプしながら進む動きのこと
【エリア1】縄ばしごコース
縄ばしごのような物を置いた決められたコースを、基本のカエルジャンプで進みます。こども同士がぶつかるリスクも下げられます。
【エリア2】ジグザグフープコース
小さめのフープを床にジグザグに並べ、フープの中をカエルジャンプで進みます。フープを踏まないよう注意しながら、ジグザグに方向転換していきます。
【エリア3】クモの巣ゴム紐コース
鈴を付けたゴム紐を低い高さで張った「クモの巣」を設置。この罠に当たらないようにカエルジャンプでジグザグに渡っていきます。
期待される効果
ジグザグにジャンプすることで、動きを左右に切り替える時にお腹に力を入れて足でしっかりと踏ん張る力が養われます。
また、フープやゴム紐があることで空間認知力や身体コントロール力なども養うことができます。
このように、同じカエルジャンプでも道具や設定を変えることで、段階的に難易度を上げながら様々な能力を育てることができるのがサーキットの特徴です。
サーキットに使用される主な遊具
運動療育サーキットでは、以下のような遊具が使用され、それぞれ異なる効果が期待されています。
遊具 | 期待される効果 |
---|---|
マット | 調節力、柔軟性、巧緻性、筋力(前転など) 身体意識、調整力(転がる動作) |
平均台・バランスストーン | バランス感覚、注意力、平衡感覚、集中力 |
鉄棒 | 固有感覚、前庭感覚、筋力、体幹 |
トランポリン | 筋力、バランス感覚、体幹、調整力、リズム感 |
ボール | 協調性、手眼協調 |
フープ・トンネル | 身体意識、空間認知 |
縄跳び | 全身運動、リズム感、持久力 |
この他にも、跳び箱、手作り滑り台、ケンケンパ、足型ジャンプなど、多種多様な遊具が使われます。これらの遊具を組み合わせることで、毎日違った狙いでの活動が可能になります。
このように、運動療育のサーキットでは、お子さんの年齢や発達段階に合わせて、様々な遊具や運動を組み合わせて行います。
次に、サーキット運動に期待できる効果について解説します。
運動療育のサーキット運動で期待できる効果
運動療育のサーキットの効果は、単独で現れるのではなく、相互に関連し合いながらお子さんの総合的な発達を支援します。
身体機能の向上
サーキット運動では、様々な運動課題を通じて基礎的な身体機能が向上します。
- バランス能力:平均台を渡ったり、高い器具から飛び降りたりすることで育つとされています
- 調整力:力の入れ具合をコントロールする力が身につくと期待されています
- 手足の協調動作:手と足を上手に連動させる力が育つ可能性があります
- 筋力や持久力:全身の筋肉を鍛え、持久力向上につながる可能性があります
これらの身体機能の向上は、日常生活での階段の上り下りや、将来のスポーツ活動など、様々な場面で役立つ基礎的な能力となります。
考える力(認知能力)の向上
運動療育サーキットは、身体を動かすだけでなく、考える力の発達にも大きく貢献します。
- 注意力:適切な場所に注意を向け、手や足を置く場所をしっかり見る力が育つとされています
- 達成感:スタートとゴールが明確なので、1周ごとに「できた!」という気持ちを味わえる設計になっています
- 問題解決能力:障害物を越える方法を考える力が身につく可能性があります
特に重要なのは成功体験の積み重ねです。
明確な目標設定により、お子さんは「できた!」という達成感を繰り返し体験し、これが自信と学習意欲の向上につながります。
社会性の発達
複数のお子さんが一緒に参加するサーキット活動では、自然に社会性が育まれます。
- ルールを守る力:決まったコースを通ることや順番を守ることの練習ができます
- 他者への意識:お友達の様子を見ながら参加することで、周りを気にかける心が育つ可能性があります
- 協調性:お友達の応援を受けたり、一緒に頑張ったりする経験ができるとされています
これらの社会的スキルは、幼稚園や学校での集団生活において重要な基礎となります。
心理的な効果
心の健康面でも、サーキット運動は重要な役割を果たします。
- ストレス発散:楽しく体を動かすことで、心の緊張がほぐれる効果が期待されています
- 自己効力感:「自分はできるんだ」という自信が育つ可能性があります
- 身体への意識:自分の体の大きさや動きを意識する力が高まるとされています
現代のお子さんは様々なストレスを抱えがちですが、運動を通じて健康的に発散し、自分に対する肯定的な感情を育むことができます。
感覚統合理論に基づいたアプローチにより、これらの効果が相互に関連し合いながら、お子さんの総合的な成長を促進することが期待されています。
運動療育のサーキットはどんなお子さんに効果的?
運動療育のサーキットは、特に以下のような特徴を持つお子さんに効果的とされています。
発達障がいのあるお子さん
障がい名 | 特徴 | サーキットでの効果・配慮 |
---|---|---|
注意欠陥・多動性障害(ADHD) | ・落ち着きがない ・集中が続かない |
・短時間で活動が次々と変わるため、集中しやすくなる |
自閉スペクトラム症(ASD) | ・コミュニケーションが苦手 ・こだわりが強い |
・構造化された環境で、予測しやすい活動ができるため安心 |
発達性協調運動症(DCD) | ・体の動きがぎこちない ・不器用 |
・運動を通して協調運動が改善される |
感覚処理に課題があるお子さん
感覚の特性 | 特徴 | サーキットでの効果・配慮 |
---|---|---|
感覚過敏 | ・音や触感が苦手 | ・段階的に慣れていくことで安心して活動できる |
感覚鈍麻 | ・感覚の入力が少ない | ・適切な刺激を与えることで反応を引き出せる |
このように、運動療育サーキットは単なる運動活動を超えて、身体、認知、社会、情緒の各領域にわたって包括的な発達支援を提供します。
最後に、こどもプラスの直営施設である「こどもプラス塩田教室」の様子をご紹介します。
実際の療育現場での様子
こどもプラスの直営施設である塩田教室での実際のサーキット運動の様子は、こちらで見ることができます
施設では、お子さんたちの年齢や発達段階、その日の様子に合わせて、使用する道具や遊具の種類、使い方を柔軟に調整しながら実施されています。
現場で大切にされていること
- 個別支援計画に基づく支援:児童発達支援管理責任者が保護者とお子さんの意向を丁寧に確認し、一人ひとりの個性に応じた計画を作成します。
- こども主体のアプローチ:お子さんの興味を第一に考え、無理強いをしない方針で進められます。興味を示さない子がいたら、アプローチ方法を柔軟に変更していきます。
- 楽しさを重視:「楽しい」と感じることが何より大切で、お子さんが「もう1回やりたい!」と言ったときは、時間が許す限り繰り返し行います。
何より大切なのは、お子さんが「楽しい!」「できた!」という気持ちをたくさん感じることです。
そうした体験が積み重なることで、お子さんの自信が育ち、新しいことにもチャレンジしていける力が身についていきます。
保護者の皆さんには、お子さんの小さな変化も見逃さずに、たくさん褒めて認めてあげてほしいと思います。
専門の先生たちと連携しながら、お子さんのペースに合わせて、楽しく成長をサポートしていきましょう。
こどもプラスでは、お子さんの「できた!」という笑顔を大切にしながら、科学的根拠に基づいた運動療育を行っています。
具体的なプログラム内容や支援方法については、[こちらの運動療育プログラムページ]で詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。