発達障害

YouTubeの見せすぎで発達障がいになる?誤解と大切なポイント

YouTubeを見るこども 発達障害

現代のこどもたちにとって、YouTubeはあそびや学びの大切なツールになっています。

ですが、つい長時間見せすぎてしまい、「発達障がいに関係があるのでは…?」と不安になる方も多いですよね。

この記事では、YouTubeの見せすぎで起こりうる行動の変化や誤解を発達障がいとの関連にも触れながら整理します。

定型発達のこどもも、発達特性のあるこどもも、安心して動画と付き合うための具体的なポイントや工夫をご紹介していきます。

YouTubeの見せすぎで発達障がいになるの?

結論から言うと、YouTubeの見せすぎが発達障がいを引き起こすことはありません

しかし、長時間のスクリーン視聴によって、発達障がいに似た行動が現れることがあります。また、もともと発達特性のあるこどもにとっては、困難(苦手なこと)が強まる場合もあるのです。

発達障がいとは?

発達障がいとは、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)など、脳の発達や神経の働きの違いに基づく状態のことを指します。

これらは生まれつきの性質であり、子育ての仕方やスクリーン時間の長さが原因ではありません。

研究では、発達障がいの主な原因は遺伝的な要因が複雑に関与していると考えられています。遺伝要因意外にもいくつか要因が考えられていますが、まだ研究段階であり断定できるものではありません。

発達障がいではない子にも「似た傾向」が出ることがある

長時間のYouTubeや動画視聴によって、発達障がいのこどもだけでなく、定型発達のこどもでも似たような行動が現れることがあります。

例えば、注意が続かなくなったり、落ち着きがなくなったり、感情をコントロールしにくくなることがあります。こうした行動は、長時間のYouTube利用など環境の影響で一時的に現れる場合もあります。

このような場合は「表現型模写(phenocopy)」と呼ばれます。表現型模写とは、環境の影響で、あたかもADHDの特徴のように見える行動が現れることを指します。

大切なのは、環境を調整することで改善の可能性があるという点です。

スマートフォンやタブレットの使用時間を減らし、あそびや体験など他の活動を増やすことで、落ち着きや集中力が回復することも多いと言われています。

発達障がいのあるこどもにYouTubeを見せすぎた場合の影響

YouTubeの見せすぎは発達障がいの原因ではなく、症状を悪化させる要因になり得ると言われています。

特にADHDやASDのこどもは、生まれつきの特性のため、デジタルメディアの刺激を受けやすく、動画に依存しやすい傾向があります。

その結果、テンポの速い動画や強い報酬があるコンテンツは、こどもの落ち着きのなさや感情の乱れをさらに強める悪循環を生むことがあります。

影響①情緒や行動への影響

短く刺激の強い動画は、発達障がいに伴う感情や行動の困難を増幅させるきっかけになります。絶えず新しい映像や音が流れる環境では、こどもが注意を切り替えることが難しくなります。ADHDのこどもでは、動画による即時的な楽しさが、読書や宿題などの遅れて得られる満足感を退屈に感じさせ、多動や衝動性の増加として現れることがあります。ASDのこどもでは、集中力やこだわりが動画に向かいやすく、スクリーンから離れる際に大きな困難が生じる場合があります。

こうした影響は、自己永続的な悪循環を生むことがあります。スクリーンへの依存が強まると、現実世界の活動がより魅力に乏しく、行動のコントロールや感情の調整が難しくなることがあるのです。

影響②学習や生活リズムへの影響

YouTubeの長時間視聴は、学習や生活リズムにも影響を与えます。集中力や学習意欲の低下、成績の低下、宿題や日常のルーティンが疎かになることがあります。また、就寝前の過剰なスクリーンタイムは睡眠の質を下げ、慢性的な疲労や気分の落ち込みにもつながります。さらに、スクリーンに費やす時間が増えると、屋外あそびや運動など発達に大切な活動が減る「置き換え効果」も起こります。身体面でも、眼精疲労や肩こり、座りがちな生活習慣による体重変化などが見られることがあります。

YouTube見せすぎ?兆候チェックリスト

以下は、こどもが動画やゲームに夢中になりすぎていないか、生活や気持ちに影響が出ていないかを見極めるためのチェックリストです。

すべての項目が当てはまる必要はありませんが、複数のサインが見られる場合は、YouTubeの使い方を見直すきっかけにできます。

カテゴリー 具体的な兆候・症状(例)
行動・感情 ・スクリーンを制限されると強い怒りや不安を示す(例:テレビやスマホを取り上げると大声で泣く、物を投げる)
・以前楽しんでいた活動への関心が薄れる(例:外あそびやお絵かきに興味を示さなくなる)
・衝動的な行動が増える(例:順番を守れない、突発的に走り出す)
認知・学業 ・課題への集中力低下(例:宿題をすぐ投げ出す、話を聞かずに別のことをする)
・成績低下(例:テストの点数や提出物の質が落ちる)
・デバイスへの注意が常に向く(例:食事中もスマホを気にする)
社会性 ・家族や友人との交流を避ける(例:一緒に遊ぶことを拒否して自室で動画を見る)
・オンライン活動を優先する(例:友達とのあそびよりゲームや動画視聴を選ぶ)
身体・生活リズム ・睡眠パターンの乱れ(例:夜更かしして寝不足になる、朝起きられない)
・頭痛や眼精疲労(例:目をこすったり、頭を抱えることが増える)
・食生活の不規則さ(例:食事を抜いたり間食ばかりになる)

まとめると、YouTubeの見せすぎは発達障がいを引き起こすわけではありませんが、ADHDやASDのこどもでは症状を悪化させ、感情・行動・学習・生活リズムにさまざまな影響を与える可能性があります。

保護者が日常の様子を観察し、スクリーンタイムの長さや使い方に注意を払うことが、こどもが安心してデジタルメディアと付き合うための第一歩です。

最後に、YouTubeとの付き合い方についてみていきましょう。

YouTubeとの付き合い方 ― 大切なのは「見せすぎない」ためのルール作り

こどもと一緒に動画視聴をする

YouTubeの視聴を制限するだけでなく、親子で一緒に楽しみ、デジタル以外の活動とバランスを取ることで、こどもの発達に良い影響を与えることができます。

現代では、YouTubeなどのデジタルメディアは生活の一部として切り離せない存在です。

そのため、保護者の目標は「全面禁止」ではなく、こどもがテクノロジーと健全でバランスの取れた関係を築けるように導いてあげることが大切です。

ポイントは、視聴時間に明確な境界線を設けると同時に、YouTube以外の生活の充実にも目を向けることです。

YouTube視聴時間の目安

まず基本となるのは、世界や日本の保健機関・小児科学会が示す推奨に基づき、こどもに合ったスクリーンタイムの目安を設けることです。

たとえば、世界保健機関(WHO)は、2歳未満の乳児にはスクリーンタイムを推奨していません。これは、この時期は感覚や運動能力の発達、親子の愛着形成が最も大切で、実際の世界との相互作用が必要だからです。

2歳から4歳のこどもについては、1日1時間以内に制限し、対話的で質の高いコンテンツに触れることが推奨されています。

日本小児科学会も同様に、特に2歳未満のこどもには長時間のテレビや動画視聴を控えるように勧めています。寝室にテレビを置かない、食事や授乳中はスクリーンフリーにする、といった家庭環境の工夫も推奨されており、家族のつながりや対話の大切な時間を守ることが目的です。

米国小児科学会(AAP)は、年長のこどもや思春期のこどもに対しても、エンターテインメント目的のYouTube等のメディア視聴は1日1〜2時間を目安にし、質の高い教育的・向社会的なコンテンツを優先することを勧めています。

これらのガイドラインは、こどもがYouTubeを楽しむ一方で、学びやあそび、休息など必要な活動が妨げられないようにするための指針です。

YouTubeの視聴を有効に活用する

スクリーンタイムの制限だけでなく、その質を高めることも重要です。

特に効果的なのは、親がこどもと一緒に動画を見たり、内容について会話したりすることです。たとえば、一緒に歌を歌ったり、「次に何が起こると思う?」と質問して考えさせたり、見た内容を日常生活や体験と結びつけて説明したりすることで、こどもの理解を助けることができます。

このような「対話的視聴」は、YouTubeの視聴を「こどもが孤立する原因」ではなく、「親子のつながりのきっかけ」に変えます。

親が一緒に見ることで、年齢に合わない内容や不適切な動画からこどもを守ることもできます。特に、YouTubeのアルゴリズムによって予期せぬ動画に誘導されるケースもあるため、親が関与することが安全面でも重要です。

【コラム】教育系YouTubeは上手に活用できる?

「YouTube以外の活動」でバランスを取る

YouTubeの視聴を減らすだけでは十分ではありません。こどもの生活をデジタル以外の魅力的な活動で満たすことが、健全な発達のためには不可欠です。屋外でのあそびや創造的な活動、読書、家族や友達との交流など、多様な活動をバランスよく取り入れることで、スクリーンが置き換えてしまった発達機会を補うことができます。

これは、食事の栄養バランスに例えると分かりやすいです。脳の発達には、身体的なあそび、創造力を使う時間、社会的相互作用、静かな読書、十分な休息といった「必要な栄養」が欠かせません。

一方で、YouTubeなどのデジタルエンターテインメントは「ジャンクフード」のようなもので、楽しいけれど偏りすぎると成長に必要な刺激が不足します。

特にからだを動かすあそびは、身体面だけでなく、認知面や社会性の発達にも重要です。

また、ボードゲームやパズル、絵を描く、ブロックあそび、楽器、料理の手伝いなど、家庭でできる多様な活動も、発達に必要な体験の補完になります。

こどもと協力してルール作りをする

YouTube視聴の管理は、こどもと協力してルールを作ることがポイントです。

単に親が命令するのではなく、「なぜそのルールが必要か」をこどもと話し合い、理解と賛同を得ることが大切です。ルールは具体的で、従いやすく、時間や場所、タイミングまで明確に定めます。

ルールを守らなかったときの結果も事前に共有し、一貫して対応することで、こどもは納得感を持ちやすくなります。また、親自身も手本を示すことが重要で、家族時間中に自分のスマホばかり見ていると、ルールは形だけになってしまいます。

親子で取り組むことで、こどもの「自分で調整する力」を育てることができます。

【コラム】教育系YouTubeは上手に活用できる?

YouTubeなどの教育コンテンツは、正しく使えばこどもの学びをサポートしてくれる強力なツールです。

ただし、ただ動画を見せるだけでは十分な効果は得られません。大切なのは、こどもが受動的に眺めるのではなく、親や教育者と一緒に関わりながら学ぶことです。

よく作られた教育動画は、アニメーションや実演、視覚的なストーリーテリングを通して、難しい内容や抽象的なテーマを分かりやすく伝える力があります。蝶のライフサイクルや内燃機関の仕組みなど、こどもが興味を持った内容を楽しく理解するきっかけになるでしょう。動画は静止画や教科書よりも記憶に残りやすく、語彙や知識を広げる助けにもなります。

しかし、教育的価値は動画自体にあるわけではなく、親がどのように関わるかが大切です。親が一緒に見て質問をしたり、動画で学んだことを現実の体験につなげたりすることで、単なる受け身の視聴から、実際に考えたり試したりする学びに変わります。

例えば、種を植える動画を見た後に、実際に一緒に種を植えてみることで、デジタルの学びを現実の体験に結びつけることができます。また、長い動画は小分けにして視聴し、その都度話し合ったり関連する活動を挟んだりすると理解が深まります。

教育系YouTubeは、授業の代わりやこどもだけの学習手段としてではなく、親や教育者がうまく活用するためのツールと考えるのがポイントです。

親がこどもと一緒に動画を見て、その内容を日常生活やあそびに結びつけることで、スクリーンはただの“子守り役”ではなく、こどもが実際の世界を学び、体験できるきっかけになります。

この記事を書いた人
アバター画像

発達支援に特化した放課後等デイサービスを全国190教室以上展開する「こどもプラス本部」は、筑波大学大学院博士課程修了・柳澤弘樹博士(体育科学)の研究成果を基に設立されました。
身体活動と脳機能に関する研究を行い、発達障がいのお子様向けの運動プログラム開発に貢献しています。

発達障害
発達障がいのお子様向け放課後等デイサービス・児童発達支援 - こどもプラス
発達障がいのお子様向け放課後等デイサービス・児童発達支援 - こどもプラス