自分の思い・気持ちを伝えられない|発達障害による苦手を克服する方法
発達障害を持つ子ども達がよく抱える悩みの1つが、自分の気持ちを伝えられないことです。
「自分の感情がよくわからない」
「思っていることを言葉にして、うまく相手に伝えられない」
と、日常生活の中で不便さを抱えている子ども達が多くいます。
自分がやりたいことや嫌なこと、わからないことなど、自分の感情や思いが相手に伝えられないと、ストレスがどんどん蓄積してしまいます。誰かにお願いしたいことがあっても、頼めずにもどかしさで一杯になります。
では、なぜ彼ら・彼女たちは自分の気持ちを伝えられないのでしょうか。今回は、その理由を3つのポイントからご説明します。また、家庭でもできる伝え方のトレーニングも紹介します。具体的な方法を取り上げているので、すぐに実践をして頂けます。
自分の気持ちを伝えられない発達障害児の特徴
発達障害の子ども達の中には、自分の気持ちや意見を伝えるのが苦手、言いたいことが言えない子どももいます。ASD(自閉スペクトラム症)の子どもに多くみられるかもしれません。
苦手により、日常の何気ない場面でも人とうまくコミュニケーションを取れず、困ることが多くなってしまいます。
自分の気持ちを伝えられない子の具体的な特徴には、以下の2つがあります。
- 話しかけられてもすぐに考えを言葉にできない
- 相手に伝わりやすい言葉で話せない
それぞれどのような状態なのか説明します。
話しかけられてもすぐに考えを言葉にできない
発達障害を持つ子ども達は、人から話しかけられたときに適切な答えを頭の中で即座に導き出すのが苦手で、すぐに返事ができないことがあります。
また、会話の中で相手からの情報量が多すぎて思考が追いつかず、言葉を返すことができない場合もあります。
すぐに返事ができないことで、相手から「無視された」と誤解されたり、自分の意見や希望を言えずに我慢を強いられたりする原因になります。
大人になってもこの特性があると会議や商談など、コミュニケーションが重要になる仕事の場面で困ることが増えるかもしれません。
相手に伝わりやすい言葉で話せない
相手に何かを伝えたいときは、相手の立場になって理解しやすい言葉や表現をすることが大切です。
しかし、発達障害の特性によって相手の立場になって考えることが苦手なケースもあります。この場合、自分の感覚だけで話をしてしまうのでうまく相手に伝わりません。
関連記事:ASDでもADHDでもコミュニケーション面の苦手さがあります。
なぜ、発達障害の子ども達にはこのような特徴があり、自分の気持ちを伝えることがうまくできないのでしょうか。
発達障害の子が自分の気持ちを伝えられない3つの原因
発達障害を持つ子ども達が自分の気持ちを伝えられない原因は、以下の3つが考えられます。
- 自分の感情に気付けない
- 意見や考えを言語化するのが苦手
- 言わなくても相手がわかってくれるという誤解
1つずつ、詳しく説明していきます。
①自分の感情に気付けない
発達障害の特性で、自分のことに気付きにくい特徴があります。
- 自分の体調や疲れ具合
- 今自分はどう思っていて、何がしたいのか
- 何が好きで何が嫌いか
など自分の状態、考えや感情がよくわからないので、それを相手に伝えることもできません。そのため、苦手なことを言えずにやるハメになってしまうなど、困った状況に陥りがちです。
関連記事:感情が薄い?ASDの子の特徴と自分の気持ちを人に伝えるトレーニング方法
②意見や考えを言語化するのが苦手
自分の意見や考えを、言葉にして相手が理解できるような表現にすることが苦手です。
ASDの人は、特性によって抽象的なことの理解が困難です。そのため、頭の中で想像したことや気持ちなどの目に見えない曖昧なことは言葉にして伝えるのが難しくなります。
例えば「今日は学校どうだった?」と聞かれたときに、「縄跳びしたよ」のように起こった事実を伝えることはできても、「今日は好きな授業ばっかりだったから楽しかったよ」などと感想を伝えることは苦手なのです。
さらに発達障害の特性によっては、文章を読み解くことや作ることが苦手なため、例え自分の考えでも言葉にするのが難しくなります。
関連記事:ASDでは子どもの気持ちを言語化してあげることも効果的です。
③言わなくても相手がわかってくれるという誤解
普段の生活の中で、言葉にして言わなくても相手がこちらの気持ちを汲んで行動してくれたり、先読みして提案してくれたりすることがあります。
それが続くと、言葉で伝えなくてもわかってくれるから伝える必要はないと思い込んでしまうことがあります。
例えば、
- お腹が空いてキッチンに行ったら、母親が「お腹空いたの?おやつ食べて良いよ。」と言っておやつを用意してくれた
- 学校で消しゴムがなくて困っていたら、隣の子が察して「使っていいよ」と貸してくれた。
このような「周りが察してくれた」経験が繰り返されると、困ったことがあっても勝手に誰かが助けてくれると思い込み、自分から伝えようとしなくなることがあります。
この3つの原因が重なり、自分の気持ちや考えを相手に伝えることが苦手になっています。
思いを伝えられないストレスが発達障害児の問題行動を増やす
自分の気持ちが相手に伝えられないことで、自分にとって不都合なことや我慢を強いられることが続くと、常にストレスを抱えた状態になります。強いストレス状態では、身体的にも精神的にも不安定な状態に陥りやすくなります。
それによって増えてくるのが、かんしゃくや周囲とのトラブルなどの問題行動です。自分の気持ちが伝わらないストレスが問題行動につながる流れを説明します。
かんしゃくの原因になる
自分が「こうしたい」という思いがあっても、それを相手に伝えられないため実現しません。
やりたいことが叶わない苛立ちが募り、感情がコントロールできなくなって
- 泣きわめく
- 人や物を叩く
- 物を投げる
- 暴れる
などの行動に出やすくなります。
つまり、子どもが何かに困っているとき、欲求があるときにそれをうまく解消することができないと、かんしゃくは起こります。
かんしゃくを起こしているときは、感情が爆発して混乱状態に陥っています。いわゆるパニック状態です。
周囲が声をかけても届かないどころか悪化してしまうこともあるので、本人が落ち着くまではどうすることもできません。かんしゃくを起こすと心身が消耗し、子どもにとって大きな負担になります。
関連記事:発達障害ではイライラしやすい傾向があり適切なサポートが必要です。
誤解が生じてトラブルの元になる
自分の意見が言えないことで他人に誤解を招き、トラブルに発展しやすくなります。
例えば
- 友達から意見を聞かれたときに何も答えられずにいたら、別の意見に同意したとみなされてしまった。後から反論したが聞いてもらえなかった。
- やりたくないけれど、意思表示がうまくできなかったためにやらなければいけなくなってしまい、本当はやりたくなかったと言ったらずるいと言われてしまった。
- 自分の仕事だけれど、いつも誰かがやってくれるから今回もやってくれるだろうと思って待っていたら、誰もやってくれなくてケンカになってしまった。
などが挙げられます。
このように意見を聞かれたときに答えられない、自分の気持ちが言えない、伝える必要はないと思い込んでしまうことなどが原因になり、人間関係の中で誤解が生まれやすくなってしまいます。
では、自分の気持ちや意見を相手に伝えられるようにするには、どうしたら良いのでしょうか。
発達障害で思いを伝えられない人は、まず自分の気持ちを理解しよう
発達障害を持つ子ども達は、自分自身の気持ちや考えがよくわからない特徴を持っている場合があります。
欲求や不満、喜びや悲しみなどの感情を周囲に伝えられると、我慢することが減り生きやすくなるはずです。発達障害で思いを伝えらられない人は、まずは自分の気持ちに気が付き自分をよく理解することから始めましょう。
自分は今どんな風に感じていて、どう考えているのかを一度頭の中でゆっくり整理して言葉にします。自分の気持ちが言葉にできたら、次はそれを相手が理解しやすい表現にして伝えられるように考えていきます。
どのような方法で伝えれば相手に伝わりやすくなるのか、コツやポイントを紹介していきます。
自分の気持ち・考えの伝え方|発達障害の人が今すぐできる3つの対策
自分の思いや意見、考えを相手に伝えるのが苦手な発達障害の人が、相手に伝わるように話をするときには大事なポイントが3つあります。
- 大事なことはメモやメールで伝える
- 考えをまとめる時間を作る
- ロールプレイングでコツをつかむ
この3つを意識して行うことで、自分の思っていることが相手に伝わりやすくなります。
①大事なことはメモやメールで伝える
話の中で最も伝えたい内容は、紙に書いたりメールで残したりすることがポイントです。話すときはそれを見ながら話すとお互いに理解しやすくなります。
場合によっては、文字だけでなくイラストや図表など自分が得意な方法を使って伝える工夫をしてみると、より伝わりやすくなります。
②考えをまとめる時間を作る
不意に意見を聞かれたり、受け取る情報量が多かったりすると、自分の考えをまとめて言葉にするのに時間がかかります。
急ぎの場合でなければ、自分の考えを言語化してまとめるための時間をもらってから話せるようにすると、相手に伝わりやすくなります。考えをまとめるのに時間がかかることを事前に伝えておくか、その場で伝えて少し時間をもらえるようにしてみましょう。
③ロールプレイングでコツを掴む
ロールプレイングとは、実際の場面を想定した疑似体験の中でスキルを習得していく学習方法です。意見を求められた場面、嫌なことややりたいことがあって相手に伝えたい場面などを想定して、自分の気持ちや意見を伝える練習をします。
また、練習で会話に慣れておくことでメンタルが鍛えられ、実際の場面で話すときの緊張感が和らぐ効果もあります。
困り事改善の助けになるように、自分ができそうなことから少しずつ試してみてください。
発達障害児のコミュニケーション問題をもっと学びたい方は、こちらの記事もお役立てください。
<関連記事>
- 自閉症では脳の特性で言葉の理解やコミュニケーションが苦手です。
- 会話はASDの子ども達にとって難易度が高くとても混乱させるものです。
- ASDの子どもは独り言が多い?ずっと喋っている3つの理由とうるさい時の対処法
家庭でもできる伝え方のトレーニング
子どもが自分の思いをどれだけ伝えられるかは、場所や相手など周囲の環境に大きく左右されます。伝え方のトレーニングをする際には、安心できる場所で信頼関係のある大人と行うことが大切です。その面で家庭でのトレーニングは非常に有効です。
また、普段の生活の中には自分の思いを伝える場面が多くあるので、家庭での親子の関わりでトレーニングしてみると、スムーズに練習ができます。
子どもの話を聞くときのポイントは、次の2点です。
- 気持ちを代弁してあげる
- 話の要点をまとめて確認する
この2つのポイントを意識しながら、子どもの話をよく聞いてあげてください。
気持ちを代弁してあげる
感情を伝える言葉がまだ獲得できていない場合や、自分の気持ちに気付いていない場合には、「〇〇ができなくて悲しかったね」「負けて悔しかったね」などと気持ちを代弁してあげるようにします。
そうすることで、今の気持ちと「悲しい」という言葉が結びつき、少しずつ気持ちを言語化できるようになってきます。
話の要点をまとめて確認する
子どもが話をしているとき、こちらの反応を気にすることなく、とめどなく喋ることがあります。話を聞いている側は、何が言いたいのかよくわかりません。そういうときには、話の途中で要点をまとめて確認するようにします。
例えば、
「〇〇ちゃんがボールで遊んでいたら、途中から△△君が来て一緒に遊んだんだね」
「早く校庭に行って遊びたかったけど、まだ教科書を片付けていなかったからみんなより少し遅れて外に出たんだね」
という具合です。
話の区切りの良いところで要点をまとめて確認することで、話をするときの順番や表現の仕方などを学ぶことができます。これを繰り返すことで、話のまとめ方やわかりやすい伝え方を教えます。
自分の言いたいことが伝わらないことが続くと、「どうせわかってもらえない」という思いから、ますます人に伝えようとする意欲を失ってしまいます。「この子は自分の気持ちを表現することが苦手だな」と感じたら、早い段階で伝え方のトレーニングをすることが大切です。
発達障害がある場合はほかの特性もあるので、専門的な知識と接し方が必要になります。放課後等デイサービスなどの療育施設に通い療育を受けることがおすすめです。
考えを言葉にできない発達障害の子どもには運動遊びがおすすめ
発達障害で自分の気持ちや言えない人や、考えを言葉にできない人には、運動を取り入れた療育活動がおすすめです。
私たち「こどもプラス」の教室では、運動遊びによる運動療育をメインに療育を行っています。
運動をすると、自然に周囲の人とのやりとりが増えるのでコミュニケーション能力の向上にもつながります。とくに運動遊びでは遊びながら能力アップができるので、子ども達も楽しみながらスムーズにスキルを習得していくことができます。
今回は、私たちが提供している運動遊びの中から「ボール足挟み渡しっこ」をご紹介します。
〈遊び方〉
- 子ども達は数人ずつのグループになり、横一列に並んで座ります。
- 体操座りのように座ったら、両手は後ろにつきます。
- 両足の指先で足元のボールを挟んで持ち上げ、隣の友達に足で渡します。
- ボールを受け取るときも両足の指先で挟んで受け取ります。
- 慣れてきたら、グループごとに競争してみましょう。
ボールを足で持ち上げる動きで腹筋が強く養われます。より効果を高められるように、できるだけ高い位置でボールの受け渡しができるようにしていきましょう。
ボールを渡すやりとりを通して、相手が受け取りやすいように気遣う社会性の部分が養えます。ボールを渡す高さや角度、足を離すタイミングなどをお互いに合わせてできるように、繰り返し遊んでみてください。
ほかにもボールを使った運動遊びや、コミュニケーション能力を育てる運動療育が「こどもプラス」には数多くあります。公式インスタグラムで、一部紹介しているのであわせてご覧ください。動画付きで分かりやすく説明しています。
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できないことよりできることに着目するこどもプラスの運動療育
私たちが提供する運動療育は、小さなステップアップで成功体験を多く積めるようにしています。運動は「できた」ことが子どもにもわかりやすいので、達成感や満足感を感じやすく自信を高めるのに最適です。
人は誰でも、注意や指摘をされることより褒められる方がやる気が高まり、スキルの習得や能力アップの効率が良くなるものです。療育の中では具体的に褒めることを重視し、子ども達が今の困り事の改善と将来に向けて必要なスキルの習得を着実にしていけるように工夫しています。
また、「こどもプラス」では言葉の発達やコミュニケーション能力の向上にも力を入れています。運動遊びを通して、語彙力を増やし適切な言葉遣いを学ぶこと、自分の意見を言ったり相手の意見を聞いたりする経験から社会性を身につけることなど、生きていく上で必要なスキルの習得を目指していきます。
「こどもプラス」は放課後等デイサービスの教室を全国に190拠点展開しています。自分の思い・気持ちを伝えるためのトレーニングに興味がある方は、ぜひお近くの教室までお問い合わせください。