自閉症スペクトラム

ASDのこどもに友達がいないのはなぜ?悪循環を変える「小さな接点」の作り方

自閉症スペクトラム

ASD(自閉症スペクトラム)のこどもが「友達がいないみたい……」と悩む姿を見るのは、保護者の方にとっても辛いことですよね。

特にASDの特性がある場合、友達作りにつまづきを感じやすくなることがあります。

でも、それは決してこども自身のせいではありません。

ASDの特性による「コミュニケーションの方法」や「興味の違い」が、周りの子たちと少し異なるだけなのです。

この記事では、ASDのこどもの友達がいない…というお悩みについて、その背景と家庭や周囲ができるサポートを一緒に考えていきます!

ASDのこどもに友達がいない・・・原因と背景

ASDのこどもについて、「どうしてうちの子はうまく輪に入れないんだろう?」「友達がいないように見える…」と心配になることがあるかもしれません。

そのように見える状況や背景には、ASDの持つ「社会性」「コミュニケーション」「想像力」の特性が大きく関係しています。

ASD特性がこどもの友達関係に与える影響

ASDには、以下のような特性があるとされています。

特性の種類 具体的な例
対人関係や社会的なやりとりの困難さ ・相手の表情や声のトーンから気持ちを読み取ることが苦手
・「その場の暗黙のルール」を察することが難しい
・目を合わせることが苦手
限定的・反復的な興味や行動 ・自分の好きなこと(特定の電車、キャラクター、数字など)には強いこだわりを持つが、それ以外の話題には興味が持ちにくい
・いつもと同じ手順やルールを好み、急な変更が苦手

これらの特性は、決して悪いものではありません。

しかし、周囲のこどもたちが自然に行っている「社会的なやりとり」との間に、少しずつ「ズレ」が生まれやすいことが特徴です。

例えば、相手の表情から「冗談か本気か」を判断するのが難しいと、会話のペースが合わなかったり、相手が不快に感じていることに気づけないことがあります。

また、興味の幅が狭いと、周りの子が話している話題に入りづらく、「輪に入れない」経験が積み重なりやすくなります。

このように、特性そのもの → 行動のズレ → 友達関係でのつまずきという順番で影響が現れ、その結果として「友達がいないように見える」状況につながることがあります。

ASD特性が友達関係にどう影響する?具体例

ASDの特性 友達関係での「困りごと」の例
相手の気持ちを察するのが苦手 ・友達が怒っている、または悲しんでいる理由が分からず、不適切な言葉をかけてしまう。
・「もうやめて」という(冗談や遠回しな)サインに気づかず、しつこくしてしまう。
興味の偏り・こだわり ・自分の好きな話題(例・・・電車形式)ばかりを一方的に話し続け、相手が退屈していることに気づかない。
・みんなが話している流行の話題に興味が持てず、会話に入れない。
比喩や冗談が理解しにくい ・友達の冗談を真に受けて本気で怒ったり、傷ついたりしてしまう。
・皮肉を言われても気づかず、文字通りに受け取ってしまう。
感覚過敏 ・教室のガヤガヤした音や人混みが苦痛で、休み時間に人といるより一人で静かな場所にいたくなる。

これらの「困りごと」は、診断がつくほどでなくても、いわゆるグレーゾーンと呼ばれるこどもにも共通して見られることがあります。

孤立感や不安は友達作りができない悪循環に

特性によって「うまく話せなかった」「相手を怒らせてしまった」という経験が続くと、こども自身が「どうせ自分はうまくいかない」と、友達作りに対して強い不安や自己否定感を持つようになります。

こうした孤独感は、さらに人との関わりを避けようとする悪循環を生み出すことがあります。

周りからは「一人でいるのが好きな子」と見えても、本心では「どう関わっていいか分からない」と深く悩んでいるケースも少なくありません。

このように、ASDの特性や経験の積み重ねが、「友達がいない」状況や対人関係の困難さを生む背景となっています

ASDのこどもが友達を作るためのステップと対策

「友達がほしい」という気持ちがこどもにあっても、ASDの特性が影響して「友達がいない」と悩んでいる場合、その一歩をどう後押しすればよいでしょうか

大切なのは、無理強いせず、小さなステップを重ねることです。

小さな接点から始める友達作りの方法

まずは「あいさつ」から始めてみましょう。

ステップ1・・・まずは「おはよう」「さようなら」を言う練習をする。

ステップ2・・・先生や、特定の(比較的話しやすい)子に絞って言ってみる。

ステップ3・・・相手から何かしてもらったら「ありがとう」、ぶつかったら「ごめんなさい」を伝える。

こうした小さな成功体験を積むことが、「人と関わるのは怖くないかも」という安心感に繋がります。

コミュニケーションスキル向上の練習方法

ASDのこどもには、具体的な「やり方」を教えることが効果的です。

これはソーシャルスキルトレーニング(SST)と呼ばれ、療育などでも取り入れられています。

練習するスキル 目的・ねらい 具体的な練習方法(例)
1.共通の話題をみつける 相手と会話を始めるきっかけを作る。 ・相手の持ち物や服装を見て、「(キャラクターを見て)それ、〇〇だね。好きなの?」と声をかける練習をする。
・「相手は何に興味があるかな?」と関心を持つ練習をする。
2.会話のキャッチボール 会話が一方通行にならず、やり取りを続ける。 ・「①相手が話す(聞く)→②それについて質問・共感する→③自分の話をする」という流れを、絵カードや図を使って確認する。
・(例・・・「昨日〇〇に行ったよ」→「そうなんだ!楽しかった?」→「いいね。僕は~」)といったやり取りを、役割演技(ロールプレイング)で練習する。
3.助けを求める(SOS) 困った時に、一人で抱え込まず周りに伝える。 ・「分かりません」「手伝ってください」「〇〇を貸してください」と、具体的な言葉で伝える練習をする。
・困った場面(例・・・宿題が分からない、気分が悪い)を想定して、ロールプレイングで練習する。

適切な友達関係の見極め方

すべての人と仲良くなる必要はありません。

こどもにとって、「心地よい関係」を見つけることがゴールです。

「友達=たくさん」ではない

一緒にいて疲れる関係なら、無理に続ける必要はありません。「あいさつだけする人」「趣味の話だけする人」「時々遊ぶ人」など、色々な距離感があっていいことを伝えましょう。

共通の興味でつながる

ASDのこどもは、自分の好きなことを深く追求する力をもっています。同じ趣味(ゲーム、電車、絵を描くことなど)を持つ子とは、自然と話が弾むことがあります。学校内に限らず、地域のクラブや習い事などで「仲間」を見つけるのも一つの方法です。

ASDの特性に合わせてスキルを学び、心地よい関係を見つけることが、「友達がいない」という悩みから脱却する鍵となります。

家族や周囲ができるASDの友達作りサポートと改善策

こどもの「友達が欲しい」という気持ちを、家庭ではどのように支えていけはよいのでしょうか。

ASDのこどもに、友達がいないように見えて悩んだ時、ご家族だけで抱え込まず、外部のサポートを上手に活用することが大切です。

こどもや本人への声かけ・支援の具体策

家庭は、こどもにとっての「安全基地」です。

外で傷ついたり、失敗したりしても、安心して帰ってこられる場所であることが何より大切です。

声かけ・支援の方法 目的・ねらい 声かけの具体例
1.結果でなくプロセスを褒める 挑戦した勇気や行動そのものを認め、自己肯定感を育む。 「友達ができた」という結果だけでなく、「今日はAくんに『おはよう』って言えたんだね」「勇気を出して話しかけようとしたんだね」
2.気持ちを代弁する こどもが上手く言葉にできない感情を整理し、「分かってもらえた」という安心感を与える。 「あの時、うまく言えなくて悔しかったんだね」
「本当は一緒に遊びたかったんだね」
3.「もし~なら」で具体的に教える 抽象的で分かりにくい「社会のルール」を、具体的な場面とセットで分かりやすく伝える。 「友達がおもちゃを貸してくれたら、『ありがとう』って言うと(相手は)嬉しいみたいだよ」
「もし順番を抜かされたら、『次は僕の番だよ』って行ってみようか」

療育やサポートグループの活用方法

家庭や学校だけではサポートが難しい場合、専門的な支援機関の力を借りることは非常に有効な選択肢です。

そこでおすすめしたいのが「放課後等デイサービス」の活用です。

放課後等デイサービスとは?

障がいのある(またはその可能性のある)主に6歳から18歳の就学児童が、学校の授業終了後や夏休みなどの長期休暇中に通う、福祉サービスです。

放課後等デイサービス(放デイ)で受けられる支援の例

  • 自立支援と日常生活の充実・・・基本的な生活習慣のほか、遊びや活動を通して「できた!」という成功体験を積み重ね、自己肯定感を育みます。
  • コミュニケーション支援・・・ソーシャルスキルトレーニング(SST)などを用い、小集団の中での人との関わり方を学びます。専門の支援員のもとで、こどもの特性に合わせた対人スキルの練習ができます。
  • 地域交流、余暇の提供・・・学校や家庭以外の「第三の居場所」として、安心して過ごせる空間を提供します。

お住まいの自治体の福祉窓口や、発達障害者支援センター、児童発達支援センター(未就学児)などで相談し、こどもの特性や目的に合った事業所を見学してみることをおすすめします。

ASDのこどもが「友達がいない」と悩む時、家庭での安心感を土台に、放課後等デイサービスなどの専門機関と連携することが効果的なサポートとなります。

ASDの友達がいない孤独感・不安への心理的対策

ASDのこどもの「友達がいない=不幸」ではありません。

こどもが自分らしく、安心して過ごせることが大切です。

自己肯定感を高める具体的な方法

自己肯定感とは、「自分はこれでいいんだ」と思える感覚のことです。

・「できたこと」を可視化する

「朝、自分で起きられた」「宿題を1ページやった」など、どんなに小さなことでも「できたこと」をカレンダーにシールを貼ったり、ノートに書き出したりして、目に見える形で積み重ねましょう。

・「得意」を徹底的に伸ばす

対人関係が苦手でも、プログラミング、絵、特定の知識などで誰にも負けない「得意」があれば、それがこどもの自信となります。その「得意」が将来的に同じ趣味を持つ仲間との出会いに繋がることもあります。

・役割を与える

「お風呂掃除は〇〇くんにお願い」など、家庭内で「あなたが必要だ」という役割を持ってもらうことも、自己肯定感、自己有用感を高めます。

・「ありがとう」を伝える

こどもがお手伝いをしてくれた時や、何かを教えてくれた時、「助かったよ、ありがとう」「すごいね、知らなかった!」と具体的に感謝や尊敬の気持ちを伝えることも、自己肯定感を高めます。

孤独感や不安を受け入れる方法

最後に保護者の方にこそ知っておいてほしい大切な視点があります。

それは、「友達の数=幸せ」ではないということです。

もちろん、友達は人生を豊かにしてくれますが、ASDの特性を持つこどもの中には、集団でワイワイ過ごすことよりも、一人の時間を深く楽しむことに幸せを感じるタイプも多くいます。

こどもが「一人でいる時間」を「孤独でかわいそう」と捉えるのではなく、「自分の世界を深めている時間」と捉えてみませんか?

無理に友達を作らせようと外へ押し出すよりも、こどもが好きな本や趣味に没頭できる環境を整え、その時間を尊重してあげること、それがこどもにとっての「孤独」を「豊かな個人に時間」に変える第一歩になるかもしれません。

こども自身が「友達がほしい」と助けを求めてきた時に、今回ご紹介したステップやサポートを、そっと差し伸べてあげてください。

ASDのこどもにとって、たとえ「友達がいない」状況でも、自己肯定感を持って「自分らしい時間」を過ごせることが大切です。

この記事を書いた人
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発達支援に特化した放課後等デイサービスを全国190教室以上展開する「こどもプラス本部」は、筑波大学大学院博士課程修了・柳澤弘樹博士(体育科学)の研究成果を基に設立されました。
身体活動と脳機能に関する研究を行い、発達障がいのお子様向けの運動プログラム開発に貢献しています。

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