発達障害

粗大運動と微細運動の違いを知ってこどもの発達を支援しよう!

運動をする男の子 発達障害

粗大運動と微細運動は、こどもが世界と関わり、学び、成長するための基盤となる能力です。

これらの運動能力は、単なる身体的動作に留まらず、こどもの「主体性」と生活のあらゆる側面への「参加」にとって不可欠です。

「うちの子、運動が苦手で心配…」「手先が不器用だけど大丈夫?」

そんな保護者の方の悩みを解決するために、この記事では粗大運動と微細運動について詳しく解説します。

粗大運動と微細運動の違い

こどもの工作のイメージ

粗大運動と微細運動は、こどもが世界と関わり、探索し、学習するための「入り口」としての役割を担っています。

これらの運動能力が未熟だと、こどもが周囲を探索し、新しいことを学び、他者と交流し、肯定的な自己概念を形成する能力が著しく阻害される可能性があります。

運動を早い時期に身につけると、体だけでなく心や学びの面でも成長が進みやすくなります。

つまり、運動のサポートはこどもの発達全体を伸ばす大切なカギになるのです。

粗大運動とは

粗大運動とは、体幹、腕、脚といった大きな筋肉群を伴う動きのことです。

歩く、走る、跳ぶ、這う、投げる、バランスを取るといった動作が含まれます。

これらの能力は、移動性、安定性、全身の協調性を確立する上で中心的な役割を果たします。

例えば、安定した体幹の制御は、効果的な手の使用(微細運動)に不可欠です。

こどもが快適に絵を描いたり文字を書いたりするためには、まずまっすぐ座ることができる(粗大運動)必要があります。

微細運動とは

微細運動とは、特に手や指の小さな筋肉群を伴う動きで、多くの場合、正確さと器用さを必要とします。

書く、描く、ハサミで切る、ボタンを留める、小さな物をつまむ、道具を操作するといった例が挙げられます。

これらの能力は、セルフケア、学業、および物体の操作において重要な役割を担います。

運動発達の順序性:なぜ順番が大切なのか

こどもの運動の発達には決まった順番があります。

まず頭→足の方へ、体の中心→手足の先へと発達が進みます。

たとえば、座るにはまず首や背中を支える力が必要で、腕より先に体幹をコントロールできるようになります。

この順番を理解することは、こどもを支えるうえでとても大切です。

たとえ微細運動に苦手さがあっても、まずは体をしっかり動かす力=粗大運動の土台を育てることで、より効果的な改善につながります。

次は粗大運動と微細運動の順序性を踏まえて、年齢別の具体的な発達目安を詳しく見ていきましょう。

年齢ごとの発達のめやす

幼児の運動のようす

こどもの運動の発達には「順番」があります。

身体全体を使った粗大運動(例:歩く、跳ぶ)から始まり、手先の微細運動(例:つまむ、描く)へと発達していきます。

「マイルストーン」ってなに?

マイルストーンとは、こどもの発達において「この時期にできるようになること」の目安です。

たとえば、1歳ごろに歩き始めたり、2歳ごろに簡単な言葉を話したり…といった、年齢ごとの発達の通過点を示しています。

これは、こどもが順調に成長しているかを見守るための参考資料であり、「できなければいけない」という厳密な基準ではありません。
発達には個人差があるため、あくまで“ガイド”として活用することが大切です。

年齢別|粗大運動と微細運動の発達マイルストーン

この流れをふまえながら、年齢ごとの発達のめやすを見てみましょう。

年齢 粗大運動(体全体の動き) 微細運動(手指の動き)
0〜3ヶ月 頭を持ち上げる、寝返りの兆候 ガラガラを握る、手を口に持っていく
3〜6ヶ月 寝返り、支えなしで座る兆候 物を握り、持ち替える、両手で遊ぶ
6〜9ヶ月 支えなしで座る、ハイハイ、つかまり立ち ピンセット握りの兆候、小さな物をつまむ
9〜12ヶ月 つかまり立ち、伝い歩き、独り歩きの兆候 ブロックを2つ積む、指差し、物を容器に入れる
12〜18ヶ月 独り歩き、階段を上る、ボールを蹴る なぐり書き、クレヨンを持つ、ページをめくる
18〜24ヶ月 走る、ボールを投げる、跳ぶ ブロックを4-6個積む、簡単なパズル、簡単な絵を描く
2〜3歳 片足で立つ、三輪車をこぐ、階段を交互の足で上る ハサミで切る、丸を描く、ボタンを留める
3〜4歳 ボールをキャッチする、片足跳び、ブランコをこぐ 四角を描く、文字の模倣、簡単な着替え
4〜5歳 スキップ、逆立ち、ボールを正確に投げる 三角を描く、名前を書く、靴ひもを結ぶ

発達のペースには個人差があります

こども一人ひとりの発達には、それぞれのペースがあります。

年齢ごとの「めやす(マイルストーン)」はあくまで参考であり、「これができなきゃダメ」というチェックリストではありません。

大切なのは、

  • 一つひとつの動きを通してこども全体の成長を見守ること
  • 必要なサポートを焦らず丁寧に積み重ねること
  • 発達の目安は、こどもに寄り添うための“地図”のような存在

粗大運動と微細運動の年齢に基づいたマイルストーンに厳密に固執するのではなく、こどもが「どんなふうに成長しているか」に目を向けましょう。

次に、今日からご家庭で実践できる具体的な活動をご紹介します。

実践!粗大運動と微細運動をバランスよく伸ばそう

お絵描きするこども

粗大運動と微細運動をバランスよく伸ばすために、お子さまの年齢に合わせて、今すぐできることから始めてみましょう。

年齢 まず最初にやること 1日の目安時間 始める時のコツ
1〜2歳 風船あそび、大きなクレヨンでお絵描き 10〜15分 こどもが興味を示した時に短時間で
2〜3歳 洗濯ばさみあそび、一本橋歩き(縁石や線の上) 15〜20分 「お手伝い」として楽しく
3〜4歳 ボール投げキャッチ、こども用ハサミ練習 20〜30分 上手にできたら大げさに褒める
4〜5歳 縄跳び、鉛筆で線なぞり 30〜40分 少し難しいことにもチャレンジ
5〜6歳 複雑な運動あそび、文字練習 40〜50分 自分で目標を決めさせる

粗大運動を伸ばす!感覚統合を活かしたアプローチ

さまざまな感覚を使うあそびで、身体の動きをスムーズにします。

感覚の種類 あそび例 期待される効果 年齢目安
前庭覚刺激 ブランコ、回転あそび、滑り台 バランス感覚、空間認識の向上 2歳〜
固有受容覚刺激 重いものを押す・引く、ぶら下がり 身体認知、力加減の調整 3歳〜
触覚刺激 砂あそび、粘土、様々な素材の感触あそび 感覚過敏の軽減、触覚の発達 1歳〜
協調運動 障害物コース、リズム運動、ダンス 全身協調性、運動計画能力 3歳〜

もっとチャレンジしてみよう!

前庭覚を高める

目を閉じて片足立ちに挑戦してみましょう。最初は壁や机に手をついても大丈夫です。慣れてきたら、支えなしでバランスをとる練習をします。
また、回転椅子にゆっくり座って左右に回るあそびもおすすめです。ぐるぐる回った後は目が少しふらつくこともありますが、これは脳がバランス感覚を鍛えている証拠。安全に配慮しながら、様々な方向に体を動かす体験を増やしましょう。

固有受容覚を高める

壁に手をついて思い切り押す「壁押し運動」は、筋肉や関節を刺激して体の位置感覚を育てます。
また、重たいクッションや抱き枕を持ち上げたり、押したりするあそびも効果的です。これらの動きは関節への深い刺激となり、体の感覚をしっかり育てます。無理のない範囲で、楽しみながら続けることが大切です。

協調運動をレベルアップ

音楽に合わせて手拍子や足踏みを一緒に行うあそびは、リズム感と体の連動を高めます。
さらに、ボールを使ったキャッチやパスの動きに挑戦することで、手と足の動きを別々にコントロールする力が伸びます。あそびながら少しずつ難しい動きにチャレンジし、できた時はたくさん褒めてあげましょう。

※前庭覚:体の傾きや動きを感じる感覚。内耳の前庭器官で感知 ※固有受容覚:関節や筋肉の動きを感じる感覚。身体の位置を認識 ※感覚統合:複数の感覚情報を脳で整理・統合し、適切な行動につなげる機能

微細運動を効果的に伸ばす!段階的アプローチ

発達段階 対応するあそび・活動 育てる能力 年齢目安
基礎的握力強化 粘土あそび、スポンジ握り 手全体の筋力向上 1歳〜
指の分離動作 洗濯ばさみ、ピンセットあそび 各指の独立した動き 2歳〜
ピンセット握り習得 小豆つまみ、ビーズ通し 親指と人差し指の協調 2歳〜
三点握り習得 太いクレヨン、マーカー使用 鉛筆握りの準備 3歳〜
道具操作の習得 ハサミ、のり、定規使用 学習道具の操作 4歳〜
両手協調性向上 折り紙、紐結び、楽器演奏 両手の協力動作 4歳〜

手と目を一緒に使う力を育てよう(視覚-運動統合)

目で見た情報をもとに手を正確に動かす能力を育てましょう。

  • 大きな動きから小さな動きへ:腕を動かす → 手首 → 指先へと少しずつ細かく
  • 直線から曲線へ:まっすぐな線 → 波線 → 丸や円などの形へ
  • 簡単な形から複雑な形へ:一本の線 → 十字や交差 → 文字や図形へ

もっとチャレンジしてみよう!

ビーズあそび

はじめは直径2cmくらいの大きめのビーズを使いましょう。お子さんがビーズをつかんで紐に通せるようになったら、だんだん直径1cm以下の小さめのビーズに挑戦します。小さいビーズは指先の細かい動きを育てるのに効果的です。
※安全のため、小さすぎるビーズは誤飲に注意しましょう。

紐通し

最初は太めの紐(約1cm幅)と大きな穴(直径2cm以上)のビーズやボタンを用意します。お子さんが紐を穴に通せるようになったら、細めの紐(5mm幅程度)や穴が小さいものに替えてみましょう。通す時は、紐の先をセロテープで固めると通しやすくなります。

折り紙

簡単な三角折りや半分に折るだけの基本から始めましょう。慣れてきたら、カエルや船など折り方が少し複雑な形にチャレンジ。動画や絵つきの折り方ガイドを使うとわかりやすいです。折る時は、お子さんの手をそっとサポートしてあげるとスムーズに進みます。

これらの粗大運動と微細運動の基本活動から始めることで、お子さんの発達を効果的に支援できます。

次に、発達がいとの関連について解説します。

こどもの粗大運動・微細運動と発達障がいのつながり

発達障がい

発達障がいやその傾向があるこどもには、体全体を使う「粗大運動」と手指を使う「微細運動」の両方で特有の課題が見られることがあります。

こどもの課題を正しく理解してあげることで、適切な支援が可能になります。

運動発達に影響を与える主な要因

発達性協調運動障害(DCD)

最も代表的なものが、発達性協調運動障害(DCD)です。

学齢期のこどもの約5〜6%に見られ、知的な問題はないものの運動の調整が難しく、日常生活や学業に影響が出る障害です。

【例えば】

  • 体育の授業でボールを投げたりキャッチしたりするのが極端に苦手
  • 靴ひもを結ぶのに時間がかかる、転びやすい
  • 鉛筆を持って字を書く動作がぎこちなく、疲れやすい

参考:厚生労働省|DCD 支援マニュアル

感覚統合の課題

感覚統合の課題も運動発達に大きな影響を与えます。

身体の感覚情報をうまく処理できず、自分の体の位置や動きを正しく認識できなかったり、運動を計画して実行する力が弱かったりします。

【例えば】

  • 机の上で手を置く位置がわかりづらく、線をまっすぐ引けない
  • 自分の身体がどこにあるか分かりにくく、歩いたり座ったりする時にバランスを崩しやすい
  • 動く順番を考えるのが苦手で、ジャンプや走る動きをうまく組み立てられない

早期発見のポイント

分類 サインの内容
粗大運動 ・同じ年のこどもより運動が苦手で、よく転ぶ
・階段の上り下りに強い困難がある
・運動そのものを嫌がり、避けることが多い
微細運動 ・手先の器用さが年齢に合っていない
・箸やスプーンをうまく使えない
・絵や文字を書くことを極端に嫌がる
・着替えに時間がかかる

これらのサインに気づいたら、早めに専門家に相談しましょう。

早期に支援を受けることで、こどもの運動能力の困り感を軽減することができます。

最後に、ご家庭でできる環境調整と支援方法をご紹介します。

家庭で出来るこどもの運動を支える工夫

粗大運動と微細運動の能力を伸ばすためには、「環境」がとても大切です。

机やイスなどの使いやすさ、体の感覚をしっかり育てるあそび、安心してチャレンジできる雰囲気――これらがそろうことで、運動の力はぐんと伸びていきます。

物理的な環境の整備

こどもが安心して身体を動かせるように、身の回りの環境を見直してみましょう。

①机と椅子の高さを合わせる

足の裏がしっかり床につき、膝が90度になる椅子が理想です。姿勢が安定することで、手先の動きや集中力が高まります。

②安全で動きやすい空間づくり

室内では滑りやすいマットや障害物を避け、自由に体を動かせるスペースを確保しましょう。

心理的なサポート

こどもが「やってみよう」と思える気持ちを大切に育てることが、発達を後押しします。

①失敗しても安心できる雰囲気づくり
うまくいかなくても、叱らずに「やってみたね」「がんばったね」と声をかけましょう。

②小さな成功をしっかり認める
結果だけでなく、取り組む過程にも注目して褒めることで、次の挑戦につながります。

③その子のペースを大切にする
他の子と比べず、今の力に合ったステップを一緒に考えていくことが大切です。

家庭でできる日常的なサポート

特別な時間を設けなくても、日常生活そのものが発達の機会になります。

场面 活動の工夫例 育つ力
食事の時間 箸を使って一口サイズの食べ物をつまむ 手指の操作、微細運動の基礎
着替えの時間 ボタンを留める、靴下や服を自分で着る 手先の器用さ、手順の理解
お手伝い 洗濯物をたたむ、テーブルに食器を並べる 両手の協調、手と目の連動
あそびの時間 折り紙や粘土あそび、ボール投げやキャッチボール 感覚統合、空間認識、全身の協調運動

粗大運動と微細運動の練習では、無理をせず、こどものペースに合わせて少しずつ取り組むことが成功の秘訣です。

こどもが身体を自由に使えるようになると、あそびや学び、日常生活すべてに自信が持てるようになります。

早期から、こどもに合ったサポートを続けることで、将来の困りごとを減らし、自分らしく生活する力を育てていくことができます。


お子さんの運動発達について心配なことがあれば、遠慮なく専門機関にご相談ください。児童発達支援や放課後等デイサービスでは、多職種の専門職が連携し、一人ひとりの特性に応じた包括的な支援を提供しています。

この記事を書いた人
アバター画像

発達支援に特化した放課後等デイサービスを全国190教室以上展開する「こどもプラス本部」は、筑波大学大学院博士課程修了・柳澤弘樹博士(体育科学)の研究成果を基に設立されました。
身体活動と脳機能に関する研究を行い、発達障がいのお子様向けの運動プログラム開発に貢献しています。

発達障害
発達障がいのお子様向け放課後等デイサービス・児童発達支援 - こどもプラス
発達障がいのお子様向け放課後等デイサービス・児童発達支援 - こどもプラス