療育に効果的な運動あそび!年齢別・特性別の選び方と実践のポイント

発達に気になることがあるお子さんにとって、運動あそびはとても大切な成長のお手伝いになります。
身体のバランスを取る力や、手先を上手に使う力など、運動あそびを通してお子さんが身につけられることはたくさんあります。
ですが、ただ身体を動かしていれば良いというわけではありません。
お子さんの年齢や性格、得意なこと苦手なことに合わせて、ぴったりの運動あそびを選んであげることが大切です。
この記事では、療育での運動あそびがなぜ大切なのかをお話しします。
2-3歳・4-5歳の年齢別や、自閉症・ADHDなどお子さんの特徴に合わせた運動あそびの具体的な方法も、療育現場での実例と一緒にご紹介します。
運動あそびが療育で大切にされている理由
運動あそびが療育でよく使われているのは、お子さんの身体と心、そして日常生活で必要なスキルを全体的に育ててくれるためです。
文部科学省の調査(令和4年)では、特別な支援が必要なお子さんの数が年々増えており、お子さんの成長を助ける方法として運動あそびがますます注目されていることが分かっています。
引用元:文部科学省|通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について
身体のバランス感覚が育つことで生活が楽になる
運動あそびで最も大切なのは、身体のバランス感覚や体を上手に使う力を育てることです。
耳の奥にある平衡感覚、筋肉や関節の動きを感じる力、手や足で触って感じる力の3つがうまく働くようになると、お子さんの学習や人との関わりがぐんと楽になります。
例えば、トランポリンでピョンピョン跳ねるあそびは、体のバランス感覚を刺激して、集中して物事に取り組む力を伸ばすことが研究で分かっています。
感覚統合に課題があるお子さんほど、運動あそびによる変化が顕著に現れる傾向があります。
特に、これまで椅子にじっと座っていることが難しかったお子さんが、運動あそびを続けることで少しずつ落ち着いて活動できるようになる姿は、お父さんお母さんにとっても大きな喜びになります。
ただし、変化の現れ方はお子さんによって違うので、数週間で変わるお子さんもいれば、数か月かかるお子さんもいることを知っておいてください。
全身運動から手先の器用さまで「段階的に」伸びていく
運動あそびは、全身を使った大きな動きから、指先を使った細かい動きまで、お子さんの運動能力を段階的に伸ばしてくれます。
まず全身のバランスが安定してくると、自然と手先の動きも上手になっていきます。
これは身体の発達の自然な流れで、身体の中心から手足の先に向かって発達していくからです。
でも実際には、理想的な発達の流れとは違って、良くなったり戻ったりを繰り返しながら、ゆっくりと成長していくお子さんも少なくありません。
療育での運動あそびは、このように個人差があることも理解しておくことが大切です。
こうした効果を最大限に引き出すために、療育現場ではお子さんに最適な運動あそびを選んでいます。
次に、年齢別・特性別のアプローチ方法を具体的に解説していきます。
療育で効果的な運動あそび【年齢別・特性別】
療育で運動あそびを選ぶときは、お子さんの年齢と一人ひとりの特徴をよく見て決めることが成功のポイントです。
お子さんに合った運動あそびを選べば楽しく参加してもらえますが、合わないものを選んでしまうとやりたがらなくなってしまう傾向があります。
2-3歳のお子さんには安心して楽しめるあそびを
2-3歳の小さなお子さんには、基本的な体の感覚を育てることと、安全な環境でいろいろな動きを体験させることが大切です。
この年齢のお子さんは、まだ複雑な説明を理解するのが難しいので、見ただけで「楽しそう!」と思えるようなあそびを選ぶことがポイントです。
こどもプラスで実践している運動あそびをご紹介します。
集合ゲーム
場所を指定して、お子さん達がその場所へ素早く移動するあそびです。
- 赤マット、青マット、黄マットなど色分けした場所を3-4か所用意します
- 大人が「赤マットに集まって!」と言ったらその場所へ素早く移動しましょう
お子さんは大人の話を静かに聞いて、お友達とぶつからないように移動することで、脚力や基礎筋力、そして空間を把握する力が育ちます。
ウルトラマンジャンプ(島ジャンプ)
カンガルーに変身して膝をくっつけたままジャンプするあそびです。
- 島に見立てたマットを50-80cmほど間隔を空けて並べます
- 腕を大きく振って「いち、に、さんっ」で大きなジャンプをします
両足でしっかり着地して、次のジャンプを素早く行うことで、跳躍力と全身のバランス感覚が身につきます。
この年齢では「上手にできた!」よりも「楽しいな」「安心だな」と感じてもらうことを大切にすると、運動が好きになってくれます。
この時期に特に気をつけたいのは、転んでケガをしないように十分に注意することです。また、集中できる時間が短いので、5-10分くらいの短い時間であそびを変えながら、何回かに分けて行う方がうまくいきます。
4-5歳のお子さんには友達との関わりも取り入れて
4-5歳になると、もう少し複雑な動きや簡単なルールのあるあそびができるようになります。
この時期は、お友達との関わり方を覚えることも大切な課題なので、他のお子さんと一緒にできる運動あそびを取り入れることをおすすめします。
こどもプラスで実践している運動あそびをご紹介します。
色鬼
鬼役が指定した色を触るあそびです。
- 最初は大人が鬼になって、慣れてきたらお子さんが鬼役にチャレンジします。
- 指定する色は、折り紙や縄跳びなど分かりやすい物を使います。
鬼は逃げる人の位置を確認して有利な色を判断し、逃げる人は鬼の位置を確認して安全なコースを選ぶことで、空間を把握する力と瞬発力が育ちます。
マネッコ歩き(お子さんが隊長になる)
5人くらいのチームに分けて、先頭のお子さんが隊長になります。
- 隊長はクマ、ウサギ、ジグザグ歩きなど、いろいろな動物に変身して、後ろのお友達がついてきているかを見ながら進んでいきます。
- お友達の動きに集中して真似をすることで、集中力や判断力、そして社会性が身につきます。
ただし、発達がゆっくりなお子さんの場合は、年齢に合わせた活動が難しいこともあるので、そのお子さんの発達に合わせて内容を調整する必要があります。
この年齢のお子さんは「できた!」という達成感をとても大切にするので、必ず成功体験ができるようにあそびの難しさを調整することが重要です。
失敗ばかりが続くと運動が嫌いになってしまい、その後の療育にも影響が出てしまう可能性があります。
こどもプラスでは、このようなお子さん一人ひとりの成功体験を大切にした運動療育プログラムを提供しています。
上記のページでは、達成感の大切さや、成功体験を大切にするこどもプラスの取り組み方法について詳しく紹介しています。
小学生のお子さんには学校生活に役立つ運動あそびを
小学生になると、学校での体育授業や休み時間のあそびに参加する機会が増えてきます。
この時期の療育での運動あそびは、学校生活でお子さんが自信を持って参加できるよう、基礎的な運動能力を楽しく身につけることが大切です。
補助付き逆上がり
補助付き逆上がりでは、大人がお子さんの背中を支えて補助をします。
- 鉄棒の上に目標物を置いて、それを見ながら蹴り上げる練習をしましょう。
- 顎をしっかり閉めて、腕を曲げてぶら下がることができるようになると効果的です。
鉄棒の棒より足は前に配置することで、懸垂力や腹筋、そして目標物を見続ける空間認知の力が育ちます。
回転しながら縄跳び
回転しながら縄跳びでは、大縄跳びを連続で跳びながら、お子さんが回転するあそびです。
- 回転する必要はなく、90度くらいずつ回転しても大丈夫です。
- 回転しているときも縄の動きをしっかり見て、足がバラバラにならないよう「魔法ののり」でくっつけるように跳びましょう。
両足を揃えた跳躍力、回転時の空間認知、縄の動きに集中する力が育ちます。
これらの運動あそびを通して、お子さんが学校の体育授業でも「やってみよう」という気持ちを持てるようになることを目指します。
小学生の療育では、技術の完成度よりも「運動って楽しい」と感じてもらうことが何より大切です。
お子さんの特徴に合わせた個別の工夫
自閉症スペクトラムのお子さんの場合
自閉症スペクトラムのお子さんの場合、いつも同じやり方で、予想できる運動あそびが向いています。
急に変更したり、予想していない刺激を避けて、目で見て分かる手がかりをたくさん用意することで参加しやすくなります。
例えば、床にテープで線を引いたコースを歩く活動や、決まった順番で体操をする練習などが適しています。
注意欠如・多動症(ADHD)の特徴があるお子さんの場合
注意欠如・多動症(ADHD)の特徴があるお子さんには、エネルギーをしっかり発散できる活動と、集中力を使う活動のバランスが大切です。
トランポリンやバランスボールで思い切り体を動かした後に、パズルのような要素がある運動あそびに取り組むという流れがうまくいくことが多いです。
知的な発達がゆっくりなお子さんの場合
知的な発達がゆっくりなお子さんの場合は、実際の年齢ではなく、そのお子さんの発達に合わせた活動内容にすることが必要です。
発達に合った運動あそびを選んで、少しずつステップアップしていくことで、成長をサポートします。
このように、年齢や特徴に合わせて運動あそびを選ぶことで、療育においてお子さん一人ひとりに最適なサポートができるようになります。
しかし、実際に運動あそびを療育で実践してみると様々な課題も出てきます。次の章では、療育現場で運動あそびを行うときの注意点について詳しくお話しします。
療育で運動あそびを実践するときの大切なポイント
療育現場で運動あそびを実際に行うときは、安全に配慮すること・継続して取り組むための工夫まで、いろいろなことに配慮する必要があります。
多くの療育施設では、運動あそびを行うときの課題として、安全管理、環境づくり、保護者の理解などが挙げられています。
運動あそびで大切な「安全な環境づくり」
運動あそびでの安全管理は、ただ事故を防ぐだけでなく、お子さんが安心して活動に参加できる環境を作ることが本当の目的です。
安全対策として最も重要なのは「危険になりそうなことを事前に取り除くこと」と「指導する大人が適切な場所にいること」です。
- 活動を始める前に環境をチェックするリストを作って実行すること
- お子さん一人ひとりの特徴に合わせて危険を予測すること
- 万が一の事故に備えて応急処置ができる体制を整えること
特に、じっとしていることが苦手なお子さんや思わず行動してしまうお子さんが参加する場合は、予想外の行動にも対応できるように大人の配置と環境づくりを工夫する必要があります。
環境づくりについて
環境づくりについては、限られたスペースを最大限に活用する工夫が求められます。
多くの療育施設では十分な広さがない中で運動あそびを行う必要があるので、移動できる遊具や色々な目的に使える道具を活用することが効果的です。
ただし、毎回の準備や片付けに時間がかかることも考えて、効率よくセッティングできる方法を作ることも大切な課題です。
保護者の方に十分な説明を行い、理解を深めてもらう
保護者の方に適切に説明して、理解を深めてもらうことは、療育の効果を最大限に引き出すために欠かせません。
しかし現実には、運動あそびの大切さや効果について保護者の方に十分理解してもらうことは簡単ではありません。
まず「なぜその運動あそびが必要なのか」を発達理論に基づいて分かりやすく伝えることが重要です。
その上で、家庭でも継続できる簡単な活動を紹介し、療育施設での取り組みと家庭での実践を連携させることで、より大きな効果が期待できます。
療育現場では、保護者が最も知りたがるのは「いつ頃効果が現れるのか」という点です。
しかし、発達には個人差があることを正直に伝え、短期的な変化だけでなく長期的な発達の視点を共有することで、保護者との信頼関係を築くことができます。
過度に楽観的な説明は後にトラブルの原因となるため、現実的な見通しを示すことが重要です。
継続して取り組むための工夫
運動あそびの効果をしっかりと得るためには継続することが欠かせませんが、お子さんの体調や気持ち、施設の都合など、様々なことが継続の妨げになります。
療育現場での経験では、継続する期間が長いほど改善効果が現れやすく、短期間では十分な効果が得られにくい傾向があります。
- お子さんの興味や好みに合わせて活動のバリエーションを準備すること
- 達成感を味わえる目標を設定すること
- 定期的に評価をしてプログラムを調整すること
特に大切なのは、お子さんが「楽しい」と感じられる要素を常に含めることです。
効果の確認については、数字で測れる評価と、普段の様子を観察することを組み合わせることで、より正確に把握することができます。
例えば、特定の動作ができるようになったかを記録する一方で、お子さんの表情や参加する態度の変化を記録として残すことで、いろいろな角度から評価することができます。
ただし、測定に時間をかけすぎると本来の療育時間が減ってしまうので、効率よく評価する方法を作ることが課題になります。
療育で運動あそびを実践するときは、理想と現実のバランスを取りながら、お子さん一人ひとりに最適な方法を見つけることが最も大切です。
安全性の確保、保護者の方との連携、継続して取り組むという現実的な課題に対処しながら、お子さんたちの発達支援という本来の目的を達成することが、療育での運動あそびを成功させる鍵となります。
文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)」
文部科学省「特別支援教育資料(令和4年度)」