発達障害

困り感とは?発達障がいや支援の現場で使われる意味と使い方

発達障害
「困り感」という言葉を、子育てや支援の場面で耳にしたことはありませんか?

困り感とは、私たちが日常生活で直面する「うまくいかない」「どうしてもできない」といった感覚のことを指します。

この言葉は、こどもたちの心の中で起きていることを理解するために、とても大切な考え方です。

特に、発達障がいを持つこどもたちにとっては、さまざまな場面で強く感じられることがあります。

本記事では、困り感とはどういう意味なのか・実際の生活でどのように現れるのか・そしてその支援方法についてわかりやすく解説します。

困り感とはどういう意味?

困り感とは、こどもが「困ったな」「どうしよう」と心の中で感じている気持ちのことです。

外から見える困った行動とは違って、その子の内側で感じている戸惑いや苦しさなんです。

こどもを支えるためには、この気持ちを理解することが第一歩になります。

困り感って何?

困り感という言葉は、比較的新しい言葉で、「その子自身が感じている困った気持ち」を表します。

文部科学省の調査(2012)でも使われるようになった言葉です。

私が感じるのは、困り感は目に見えないこどもの声だということです。

行動で問題が見えても、その奥にある「困った気持ち」を理解しないと、本当の支援にはならないんです。

困り感と困った行動の違い

困り感と外から見える困った行動は、視点が違います。

項目 困り感 困った行動
誰が感じる? こども本人 周りの大人(親・先生など)
どんな性質? 内側の気持ち 外から見える様子
どう表れる? 言葉にならないことも多い 行動として見える

例えば、宿題をやらない子がいたとします。

周りの大人からは「困った行動」に見えますが、その子の内側では「どこから手をつければいいかわからない」という困り感があるかもしれません。

この違いを理解することが大切です。

なぜ困り感を理解することが大事なの?

困り感を理解すると、こんなメリットがあります。

  1. こどもに合った助け方が見つかる
  2. 二次的な問題(不登校や自己否定など)を防げる
  3. こどもが自分を好きになるきっかけになる
  4. どんな環境が必要かがわかる

発達障がいがあるこどもの困り感の特徴

発達障がいのあるこどもの困り感には、こんな特徴があります。

  • 自分の困った気持ちを言葉にするのが難しい
  • なぜ困っているのか、自分でもわからないことがある
  • 周りとの「ズレ」を感じることが多い
  • 場所や状況によって困り感の強さが変わる

困り感とはこどもの内側で感じている気持ちであり、支援の出発点になるものです。

次は、発達障がいと困り感がどう関係しているのか見ていきましょう。

発達障がいと困り感の関係とは

発達障がいのあるこどもの困り感は、脳の特性と周りの環境が組み合わさって生まれます。

年齢によって表れ方も変わりますし、適切な理解とサポートがないと、心の問題につながることもあります。

脳の特性と困り感の関係

発達障がいは脳の働き方の特性から来るものなので、困り感もそこに関係しています。

発達障がいの種類 困り感の要因
自閉症スペクトラム(ASD) 感覚の敏感さ(音・光・触覚など)、人とのコミュニケーションや集団行動の難しさによる困り感
注意欠如・多動症(ADHD) 集中力の持続の難しさ、衝動的な行動のコントロールが難しいことによる困り感
学習障がい(LD) 読み書き・計算など、特定の学習分野における情報処理の困難さによる困り感

同じ診断名でも、困り感の現れ方は一人ひとり違います。

診断名だけでなく、その子の特性と困り感を丁寧に理解することが大切です。

環境との関係

困り感は、こどもの特性だけでなく、環境との関係でも大きく変わります。

  • 場所の環境:音や光、部屋の配置などの感覚的な刺激
  • 人間関係の環境:友達や先生とのコミュニケーション
  • 予定やルールの環境:急な変更や曖昧なルールなど

私が現場で実感しているのは、環境を調整するだけでこどもの困り感が半分以下になることがよくあるということです。

これは「その子に問題がある」のではなく、「環境と特性のミスマッチ」があると考えると、支援の方向性が見えてきます。

年齢による困り感の変化

こどもの成長に伴い、困り感も変化します。

  • 幼児期(3〜6歳):言葉の理解や表現の難しさ、集団行動の難しさ
  • 小学生の時期:勉強についていけない、友達関係の難しさ
  • 中高生の時期:自分らしさや将来への不安
  • 大人になる時期:仕事や自立の難しさ

小さい頃は「わからない」「できない」という素直な困り感が、年齢が上がるにつれて「どうせ自分なんて」という自己否定に変わっていくことがあります。

だからこそ、早い時期からの理解と支援が大切です。

二次的な問題との関係

長い間困り感が理解されないと、以下のような二次的な問題につながることがあります。

  • 学校に行きたくなくなる
  • 気分が落ち込む
  • 必要以上に心配してしまう
  • 自分を否定的に捉える
  • イライラして乱暴な行動をとってしまう

これらは「発達障がいだから起こる」のではなく、「困り感が長い間理解されず、適切な支援がなかったために起こる」ものです。

だからこそ、こどもの困り感に早めに気づき、対応することが大切です。

こどもが表現する困り感と表現されない困り感

こどもによって困り感の表し方は違います。

  • 「わからない」と言葉で伝える子
  • かんしゃくや引きこもりなど行動で表す子
  • 我慢して表に出さない子

大切なのは、言葉にならない困り感をキャッチすることです。

「困った行動」の裏側には必ず「困った気持ち」があります。

その気持ちを「通訳」するように理解することが、親や支援者の大切な役割なのです。

発達障がいのあるこどもの困り感とは、その子の脳の特性と環境が関係しています。

その子の特性を理解し、環境を調整することが大切です。

次は、具体的にどんな困り感があるのか、例を見ていきましょう。

困り感の具体例

困り感は、勉強、日常生活、友達関係、感覚、計画立てるなど、いろいろな場面で出てきます。

年齢によっても表れ方が変わり、こどもの毎日の生活に影響を与えています。

勉強での困り感

勉強での困り感には、このようなものがあります。

読み書きの困り感

  • 文字を読むのに時間がかかる
  • 似た漢字の区別が難しい
  • 書くのが遅くて、ノートがとれない

計算の困り感

  • 暗算が難しい
  • 数字の並びや位取りがわかりにくい
  • 図形のイメージがつかみにくい

勉強での困り感も「できない子」と決めつけるのではなく、その子に合った方法を見つければ、大きく改善することが多いです。

例えば、「読む」のが難しくても「聞く」ことで理解できる子がたくさんいます。

生活での困り感

日常生活での困り感には次のようなものがあります。

  • 片付けの難しさ:物の管理ができず、必要なものを見つけられない
  • 時間の感覚の難しさ:時間の流れがつかめず、約束の時間に間に合わない
  • 身の回りのことの難しさ:着替えや身だしなみを整えるのに時間がかかる

こうした困り感は、「怠けている」「やる気がない」と誤解されがちですが、実は脳の働き方の特性からくるものであることが多いです。

友達関係での困り感

友達や人とのコミュニケーションに関する困り感には次のようなものがあります。

  • 暗黙のルールがわからない
  • どのくらい距離をとればいいかわからない
  • みんなと一緒に活動するのが難しい
  • 冗談や皮肉がわからない

友達関係の困り感を抱えるこどもは「友達を作りたくない」のではなく、「どうやって友達を作ればいいかわからない」ことが多いということです。

具体的なステップを教えることで、大きく改善することがあります。

感覚の困り感

感覚が敏感すぎたり、鈍かったりすることによる困り感は次のようなものがあります。

感覚が敏感な場合

  • 特定の音や光に強い不快感がある
  • 服のタグや縫い目が気になる
  • 特定の食感が苦手で食べられない

感覚が鈍い場合

  • 痛みに鈍感で怪我に気づかない
  • 暑さ寒さがわかりにくく、服装の調整が難しい

多くの保護者が「わがまま」と思いがちな行動も、実は感覚の敏感さからきていることがあります。

感覚の困り感を理解するだけで、親子関係が大きく改善することがよくあります。

計画や実行の困り感

計画を立てたり実行したりすることに関する困り感には次のようなものがあります。

  • 注意の維持:長い時間集中できない、気が散りやすい
  • 記憶の保持:指示を覚えておけない、複数のことを同時にできない
  • 計画立案:手順を考えて行動できない、段取りが苦手
  • 感情や行動のコントロール:衝動的に行動してしまう、感情の調整が難しい

これらの困り感を「性格の問題」ではなく、「脳の働き方の特性」と捉えることが大切です。

そうすれば、その子に合った支援方法が見えてきます。

年齢別の困り感の表れ方

困り感は年齢によって違う表れ方をします。

幼児期(3〜6歳)

  • 言葉の理解や表現の難しさ
  • みんなと一緒に活動するのが難しい
  • こだわりが強くて切り替えが難しい

小学生

  • 勉強についていけない
  • 友達関係の作り方がわからない
  • 指示の理解や記憶が難しい

中高生

  • 自分に自信が持てない
  • 複雑な人間関係がわからない
  • 将来が不安

困り感は年齢が上がるにつれて、表面に出にくくなります。

特に思春期以降は、困り感を隠そうとする傾向が強まります。

だからこそ、小さな変化に気づく親や先生の目が大切なんです。

困り感はいろいろな場面で現れ、年齢によっても変わっていきます。

次は、こうした困り感にどう対応すればいいのか、具体的な方法を見ていきましょう。

困り感への対応方法

こどもを支援する方法

困り感への対応は、環境を調整することと、その子に合った方法を組み合わせることが効果的です。

こども自身が自分の特性を理解できるよう支えながら、家庭や学校での具体的な工夫をすることが大切です。

環境を調整する

環境調整は困り感を軽減する基本的な方法です。

  • 場所の調整:刺激の少ない勉強スペースの確保、座る位置の工夫
  • 時間の調整:予定を見える化する、タイマーを活用する
  • 人の関わり方の調整:適切な声かけ方の工夫、周りの大人の連携

環境調整は「特別なこと」ではなく「誰にとっても過ごしやすい環境づくり」という視点で行うと、周りの理解も得やすいということです。

クラス全体のためになる配慮として取り入れると、より自然な支援になります。

考え方や対処法を学ぶ

困り感への向き合い方を学ぶ支援方法には次のようなものがあります。

  • 人との関わり方を練習する
  • 自分の状態を確認する方法を身につける
  • 問題の解決方法を学ぶ
  • 考え方の幅を広げる

困り感があっても「対処法」を知っていれば、自信を持って生活をすることができます。

「できない」ではなく「違うやり方ならできる」という発想の転換が大切です。

見える化と構造化

情報の理解と処理を助ける支援方法は次のようなものがあります。

  • カレンダーやスケジュール表で予定を見える化する
  • 手順表やチェックリストを活用する
  • 場所や物の配置を明確にする
  • 視覚的な教材を活用する

言葉だけの説明より、「見える形」で示すことで、こどもの理解が格段に進むことがあります。

これは「甘やかし」ではなく、その子の特性に合った情報の伝え方です。

自分を理解し、好きになる気持ちを育てる

長い目で見て支援をすることも大切です。

  • 得意・不得意を理解し受け入れる
  • 自分に合った対処法を見つける
  • 「できた」体験を積み重ねる
  • 強みに着目した関わりをする

最も伝えたいことは、困り感があっても「自分はこういう特性を持った大切な存在だ」という自己肯定感が育まれると、困難を乗り越える力が大きく育つということです。

批判よりも認めることが、こどもの成長の鍵となります。

家庭・学校での具体的な工夫

日常生活の中での具体的な工夫例をご紹介します。

家庭での工夫

  • 目で見てわかる予定表を使う
  • 片付けの仕組みを作る
  • 感覚特性に合わせて環境を整える

学校での工夫

  • 指示の出し方を工夫する(視覚的、簡潔に)
  • 課題の量や難しさを調整する
  • 休憩できる場所や時間を確保する

保護者の方にお伝えしたいのは、これらの工夫は「特別扱い」ではなく「その子に必要なサポート」だということです。

メガネが必要な子にメガネをかけてもらうのと同じように、当たり前のことなのです。

支援機関の活用方法

専門的な支援を受けるための機関には次のようなものがあります。

  • 発達障がい者支援センター
  • 教育センター
  • 病院(発達障がい専門外来)
  • 放課後等デイサービス
  • 就労支援機関

一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも大切です。

「助けを求めること」は弱さではなく、親としての強さと責任感の表れです。

困り感を理解するために

支援の前提となる、困り感を理解するポイントをご紹介します。

  • 行動をよく観察する
  • 本人に話を聞く(できる場合)
  • 保護者や先生から情報を集める
  • 実際の場面での困り感をチェックする

大切なのは、「できないこと」だけでなく「できること」「好きなこと」も同じくらい丁寧に把握することです。

困り感だけでなく、強みにも着目することで、効果的な支援につながります。

困り感への対応は、環境調整と個別のアプローチを組み合わせ、こどもが自分を理解できるよう支えながら行うことが効果的です。

「困り感」とは、外から見える「困った行動」とは違い、こどもの内側で感じられているものです。

そしてこれは支援の出発点となる大切な考え方です。

私たち大人がこどもの困り感を理解し、適切な支援をすることで、こどもたちは自分の特性を理解し、自信を持って成長していけるでしょう。

参考文献

  1. 文部科学省 (2012) 「通常の学級に在籍する発達障がいの可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」
  2. 熊谷恵子 (2018) 「発達障がいのあるこどもの困り感と支援」教育心理学研究, 66(2), 156-169

この記事を書いた人
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発達支援に特化した放課後等デイサービスを全国190教室以上展開する「こどもプラス本部」は、筑波大学大学院博士課程修了・柳澤弘樹博士(体育科学)の研究成果を基に設立されました。
身体活動と脳機能に関する研究を行い、発達障がいのお子様向けの運動プログラム開発に貢献しています。

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