こどもの社会性はいつから発達する?家庭でできる年齢別のサポート方法を解説!

実は今、社会性の発達に関する問題が年々増えています。
文部科学省の調査では、不登校のこどもが 34万6,482人(前年度比15.9%増) にのぼり、いじめの件数も 73万2,568件 と過去最多を更新しました。
注目すべきは、不登校の原因のうち 「無気力・不安」など心の問題が32.2% を占めていることです。
これは、単なる行動の問題ではなく、社会性の発達がうまくいかず、心が苦しくなっているこどもが増えていることを意味しています。
この記事では、年齢ごとの社会性発達の特徴から、家庭や学校でできる具体的なサポート方法、保護者が気をつけたい落とし穴まで、現場で役立つ情報をわかりやすく紹介します。
こどもの社会性発達はいつから始まる?年齢別の目安
社会性発達は0歳から始まり、各年齢で違う課題に取り組みながら段階的に育まれていきます。
社会性とは、他の人と上手に関わり、集団の中で適切に行動できる力のことです。
この力が育つことで、こどもたちは「わたしって、みんなと仲良くできるんだ!」という自信を持てるようになります。
ただし、発達には大きな個人差があります。特に小学校高学年頃から「9歳の壁」と呼ばれる発達の個人差がはっきりと現れることを理解しておくことが大切です。
0~1歳:基本的信頼感の形成期
この時期の社会性発達で最も大切なのは、保護者との「基本的信頼感」です。
「この人は自分を大切にしてくれる」「この世界は安全だ」という根本的な安心感を築く時期です。
心理学者エリクソンの理論では、この段階で信頼関係を築くことで「希望」が育まれるとされています。
具体的なサポート方法
- 赤ちゃんの泣き声や笑顔に優しく応える
- 積極的なスキンシップと笑顔での声かけ
- 「応答的な関わり」を大切にする
2~3歳:自我芽生えと初期衝突期
2~3歳は「イヤイヤ期」と同時に、お友達との初めての衝突を経験する大切な時期です。
この段階では、お友達への関心が出始めますが、まだ協力して遊ぶのは難しく、おもちゃの取り合いなどがよく起こります。
具体的なサポート方法
- 「うれしいね」「悲しいね」など感情を表す言葉を教える
- 順番や貸し借りの基本ルールを体験させる
- こどもの気持ちに共感的に寄り添う
4~5歳:集団生活での社会性習得期
4~5歳は社会性の基礎が本格的に築かれる重要な時期です。
保育所保育指針では、この段階で以下の目標が設定されています。
- 自立心の育成:「自分で考えて、自分で行動する」
- 共感性の育成:「お友達と喜びや悲しみを共感し合う」
- コミュニケーション能力:「自分の思いを伝え、相手の思いに気づく」
- ルールの理解:「決まりの大切さに気づく」
この時期のケンカも大切な学習機会です。「自分の気持ちをどう伝えるか」「お互いが納得できる解決方法」を学んでいきます。
小学校低学年:善悪理解の発達期
小学校低学年では、大人の言うことを守る中で良いことと悪いことの理解と判断ができるようになります。
注意が必要な「小1プロブレム」とは?
小学校に入学したばかりのこどもが、学校生活にうまくなじめず、さまざまな困りごとが出てくる問題を「小1プロブレム」と呼びます。
たとえば、こんな様子が見られます
- 授業中にじっと座っていられない
- 集団行動にうまくついていけない
- お友だちとのケンカやトラブルが多い
こうした行動の背景には、社会性の発達がまだ十分ではないことが関係している場合もあります。
小学校高学年:「9歳の壁」と個人差の顕著化
9歳以降は「9歳の壁」と呼ばれる大きな変化の時期です。
9歳ごろから始まる「9歳の壁」とは?
9歳前後は、心や考え方が大きく変わり始める時期で、「9歳の壁」と呼ばれることがあります。
この時期のこどもは、物事を客観的に考えられるようになる一方で、まわりの友だちと自分を比べるようになり、自信を失いやすくなる傾向があります。
また、勉強の内容が抽象的になったり、友人関係が複雑になったりすることで、つまずきを感じやすくなるのも特徴です。
この時期に見られる主な変化
- 集団のルールを理解し、積極的に関わろうとする
- 仲のよい友だち同士でグループを作りたがる(いわゆる「ギャングエイジ」)
- みんなと同じ行動をとりたがり、仲間外れを強く気にする
こうした変化は、社会性の発達にとって重要なステップです。
この時期のこどもには、共感しながら寄り添うサポートが求められます。
中学生:思春期特有の課題と自己模索
中学生は思春期に入り、自分らしい生き方を探し始める時期です。
親への反抗期を迎えて親子の会話が減る一方で、友人関係に強い意味を見出すようになります。
社会性発達は段階的に進みますが、個人差があり、一度クリアした課題に再び直面することもあります。 大切なのは、こども一人ひとりのペースを尊重し、長期的な視点でサポートすることです。
社会性の発達を支えるために気をつけたい親の関わり方
こどもの社会性の発達を応援する中で、「良かれと思ってやっていたことが、実はこどもの成長の機会を減らしていた…」ということも、現場ではよく見られます。
コロナ禍の影響もあり、京都大学の研究では、パンデミックを経験した5歳児において社会性や感情面の発達に遅れが見られることが報告されています。
そうした中で、親としての不安が大きくなるのも自然なことです。
ここでは、知らず知らずのうちにこどもの成長を妨げてしまうかもしれない関わり方を3つご紹介しながら、よりよいサポートのヒントをお伝えします。
1. 手を出しすぎてしまうことで、自立のチャンスを逃してしまう
おもちゃの取り合いやケンカが起きそうな場面で、「トラブルになる前に止めなきゃ」と親がすぐに間に入ってしまうことがあります。特に2~3歳ごろにはよく見られる行動です。
でも実は、そうしたやりとりの中でこどもは
「取られたときのいやな気持ち」や
「取ってしまったときの申し訳なさ」
などを経験しながら、人との関わり方を学んでいきます。
あまり早く大人が介入してしまうと、大切な気持ちの学びの機会が減ってしまうこともあるのです。
たとえば、幼児期にトラブルを避け続けた結果、小学4年生になっても集団生活に落ち着いて参加できない、といったケースも報告されています。
2. 他の子と比べて焦ってしまう
「○○ちゃんはもうこんなことができてるのに…」と、つい他の子と比べてしまうことがありますよね。
とくに最近は、コロナ禍の影響でこども同士の発達の差が大きくなり、「レジリエンス・ギャップ(回復力の差)」という現象も注目されています。
でも、発達心理学の観点では、特に9歳ごろからは個人差がはっきりしてくるのが自然な姿です。
焦る気持ちはわかりますが、比べすぎることでこどもが「ぼくはダメなんだ」と感じてしまうこともあります。
3. 「いい子でいてほしい」という思いが強くなりすぎる
最近よく見られるのが、「しっかり者で、手がかからない良い子でいてほしい」という期待が強くなってしまうケースです。
もちろん、こどもを思うからこその願いですが、本来の欲求を抑えすぎると、あとから大きなストレスとして表れることもあります。
たとえば、
- 勉強はできるけれど、年齢に合わない幼い行動をとる
- 中高生になっても「親の望む自分」を演じてしまう
- 大学生になって「本当の自分」とのギャップに悩む
といった問題につながる可能性もあるのです。
親としてできること ~あたたかく、長い目で~
こうした関わりは、決して「間違い」ではありません。
どれも「こどもを大切にしたい」「困らせたくない」という愛情から生まれたものです。
だからこそ、ほんの少し視点を変えるだけで、こどもの社会性の発達をもっと支えることができます。
今日からできる3つのこと
-
完璧を求めすぎない
おもちゃの取り合いもケンカも、実は大切な学びの場。危険がなければ、少し距離を取って見守ってみましょう。 -
「その子自身」のペースを大切にする
他の子との比較ではなく、「昨日よりできたこと」「優しくできた瞬間」など、小さな成長を見つけて声をかけてみましょう。 -
長い目で成長を見守る
国立成育医療研究センターの調査でも、こどもの心の回復や成長には時間がかかることがわかっています。焦らず、信じて寄り添う姿勢が何よりの支えになります。
社会性発達において最も大切なのは、様々な経験を通じてこども自身が学び取っていく過程を信頼してあげることです。
次に、社会性を無理なく育んでいくサポートについて考えていきましょう。
社会性の発達を無理なく促す!家庭でできるサポート方法とは?
社会性の発達は、こどもが集団の中で自信をもって行動できるようになるために欠かせない力です。
この段落では、児童発達支援の専門的な手法をもとに、家庭でも取り入れやすいサポート方法を紹介します。
年齢に応じた適切な関わりによって、こどもたちは「わたしって、みんなと上手に関われるんだ!」という実感を持ちながら、無理なく社会性を育んでいくことができます。
【0~1歳】「応答的な関わり」で社会性の土台をつくる
赤ちゃんの社会性の発達は、生まれてすぐから始まっています。
その最初の土台となるのが、保護者との「応答的な関わり」です。
応答的な関わりとは、赤ちゃんが泣いたり笑ったり、声を出したりした時に、その気持ちに気づき、やさしく・すぐに・気持ちに寄り添って応えてあげることをいいます。
このような関わりを繰り返すことで、赤ちゃんは「自分の気持ちはわかってもらえる」「人と関わるのは心地いいことなんだ」と感じ、信頼感や安心感を育んでいきます。
家庭でできる具体的なサポート例
- 赤ちゃんが泣いたらすぐに抱っこして「どうしたのかな?」と声をかける
- あやした時に笑ってくれたら、「楽しいね!」と笑顔で応じる
- 「あー」「うー」などの声に、「あーうー」とまねして会話のように返す
- 目が合ったら、ニコッと微笑んで声をかけてあげる
こうした毎日の積み重ねが、0~1歳の赤ちゃんの心と社会性の土台をしっかりと育ててくれます。
【2~3歳】「見守る勇気」で自発的な関わりを育む
この年齢は、ケンカや取り合いなどのトラブルも社会性を学ぶ大切なチャンスです。
大人がすぐに介入せず、安全を確保したうえで少し見守ることで、こども自身が相手との関係を考える力を育てられます。
実践のポイント
-
感情表現の言葉を教える
「うれしいね」「悲しいね」「怒ってるね」などの言葉を使って、気持ちを言語化してあげる。 -
気持ちの代弁をする
「おもちゃ取られて悲しかったんだね」など、感情を整理する手助けをする。 -
集団でのルールを伝える
順番や貸し借りのルールを、あそびを通して体験的に学ばせる。
【4~5歳以上】実践的なスキルを練習する時期
4歳以降は、社会の中で必要な行動を練習を通して学ぶことができます。
家庭でも「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」の考え方を取り入れると、実際の場面での対応力が身につきます。
社会生活で必要な技能を具体的で練習可能な行動として捉え、段階的に習得させていく訓練方法
ロールプレイングによる練習
親子で役割を演じながら、次のようなシーンを練習します。
- 「おもちゃを貸して」と頼む
- 「順番を待つ」
- 「ありがとう・ごめんなさいを言う」
- 「あそびに入れてもらう」
- 「上手に『貸して』って言えたね!」「お友達も喜んでくれそうだよ」といった具体的な声かけで、こどもの自信を育てましょう。
共同行動を取り入れる
料理や工作などを一緒にやる中で、協力する楽しさを実感させます。
「○○ちゃんが混ぜてくれたから、美味しいクッキーができたね」「みんなで作ると楽しいね」といった声かけで、協力することの喜びを伝えます。
こどもの社会性は「デジタル」と切り離せない時代に
今や、こどもたちの社会性の発達には、スマートフォンやSNSとの付き合い方が深く関わっています。
- こどもが初めてスマートフォンを持つ平均年齢:10.3歳
- 小学6年生のスマホ所有率:5割超
- 中学生のSNS利用率:92%
モバイル社会研究所|スマホの所有率 小学生高学年 昨年比+10ポイントで初めて半数を超える
「制限」ではなく「関わり」へ:デジタル・メンターという考え方
単に時間を制限するだけでは、社会性は育ちません。
大人が「デジタル・メンター」として関心を持ち、一緒に考える姿勢が求められています。
具体的な関わり方
- 「今日はどんな動画を見たの?」など、日常的な会話を通じて関心を示す
- 「そのゲーム、どうやって遊ぶの?」と、否定せず興味を持つ
- 親子でルールを話し合って決める
こどもと一緒に考える:予防的な対話を習慣に
問題が起こってから注意するのではなく、日頃からこどもと一緒に考える習慣をつけましょう。
- 「ネットの使いすぎって何時間くらいだと思う?」
- 「SNSで嫌な気持ちになったとき、どうすればいいかな?」
- 「知らない人からメッセージが来たらどうする?」
「○○ちゃんはそう考えるのね」「お母さんはこう思うよ」と正解を押しつけず対話を通して考えさせることがポイントです。
実践のポイント:社会性は少しずつ育てるもの
完璧を求める必要はありません。小さな積み重ねが社会性の発達を支えます。
- 継続性を大切に:1日5分でもいいので、毎日会話を続ける
- こどものペースを尊重:他の子と比べない
- 失敗は成長のチャンス:「どうしたらよかったかな?」と前向きに振り返る
- 家族で取り組む:ルールや価値観を一致させ、こどもを迷わせない
- 社会性の発達は一朝一夕に身につくものではありませんが、年齢に応じた適切なサポートにより育むことが期待できます。
この過程でこどもたちは「人と関わるのって安心できる」「自分もやっていける」という自信を持てるようになります。
「うちの子、ちょっと気になるところがあるけど…成長の個性かもしれないし…」
そう悩みながらも、相談に踏み出せない保護者の方は少なくありません。
ですが、社会性の発達の遅れに早く気づき、適切な対応をとることは、お子さんの将来に大きなプラスになります。次の章で詳しく解説していきます。
社会性の発達に遅れが見られるときの判断ポイント
社会性の発達には個人差がありますが、「もしかして少し心配かも?」と感じたら、早めに気づき・動くことがとても大切です。
現在、発達の支援を受けているこどもたちは全国で約45.7万人にのぼります。
それだけ多くの家庭が、支援の力を借りながらこどもの成長を見守っています。
出典:こども家庭庁支援局障害児支援課|障害児支援施策について
小学校入学時の「小1プロブレム」
小学校入学後に現れやすいのが、「集団行動への適応が難しい」というサイン。
3ヶ月以上続く場合は、専門機関への相談を視野に入れましょう。
よく見られるサイン
- 集団での指示に従えない
- 席に座っていられない
- お友達との関係作りが困難
- 感情のコントロールができない
- 先生との適切な関係が築けない
「うちの子だけ違う?」と悩まず、個性として受け止めつつ、必要に応じて支援を検討することが大切です。
中学生の「無気力・不安」は思春期のサイン
中学生になると、社会性の課題は表に出にくくなることがあります。
不登校の主な理由は「無気力」や「不安」——これは心のSOSかもしれません。
注意したいサイン
- 朝なかなか起きられない、登校を嫌がる
- 友人関係を避けようとする、強い不安を感じる
- 学習への興味を完全に失う
- 家では普通だが、学校でのみ極端に不安定
「家では元気なのに、なぜ学校では…」という状況も、こどもなりに心のバランスを保とうとしている証拠です。
専門機関に相談すべきタイミングは?
相談の目安(3ヶ月以上続く場合)
以下の状況が3ヶ月以上続く場合は、相談を検討してください。
- 着替えや食事など日常生活に著しい困難がある
- 年齢相応の会話ややり取りがほとんどできない
- 集団での活動を継続的に拒否する
緊急性が高いサイン
これらの場合は、すぐに医療機関や支援センターへ相談しましょう。
- 「死にたい」「自分なんかいない方がいい」と口にする
- 自傷行為や極度の引きこもり
- 眠れない、食べられないなど生活リズムの崩壊
専門機関はどんな支援をしてくれる?
国が定める支援体制(こども家庭庁のガイドライン)では、次のような包括的な支援が整えられています。
- 本人支援:ソーシャルスキルや日常生活のサポート
- 家族支援:保護者への相談・情報提供
- 移行支援:就学・進学・就労などの節目へのサポート
- 地域連携:園・学校・医療などと連携し、一貫した対応
これらを通して、こどもが「ぼくにも得意なことがある!」と感じられるような支援が行われます。
予防的な取り組みが、これからの鍵に
現在の支援は「問題が起きた後」に対応することが多いのが実情です。
これからは、社会性の課題を未然に防ぐ“予防型支援”が重要とされています。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング)を、一般の教育現場にも導入
- デジタル・シティズンシップ教育の強化(ネットとの上手な付き合い方)
- スクールカウンセラーの常駐化など、日常の中で気軽に相談できる体制づくり
社会性発達の問題は、個人や家庭だけでは解決困難な社会全体の課題となっています。
困ったときは一人で抱え込まず、専門機関や地域の支援を積極的に活用することが大切です。
完璧を求めず、こども一人ひとりのペースを尊重しながら、温かく見守っていくことが最も大切なアプローチです。
そして、この過程でこどもたちは「ぼくも、みんなの中で大切な存在なんだ」「わたしも、自分らしく輝いていいんだ」という確信を育んでいくのです。